*9*
ご使用は計画的に。
魔女の塔から出た私は、世界が変わっていたことに気がついた。
否。世界が変わったんじゃない。私が変わったんだ。
どういう理屈かわからないが、世界には魔力が満ちている。これほどのものを何故今まで感じとれなかったのか不思議なほどだ。
呪文なんて必要ない。
ただ、そうしようと手を伸ばせば世界から身の内から魔力が溢れ出て形を成す。
「・・・・・」
・・・ああ。
ああ!
叫びだしたい。
私は力を手に入れた。
焦らない。・・・焦らない。これからなのだから。
「姫様?・・・姫様っ!?」
アニーの掛け声に少女は振り返った。
「どうなさいましたっ・・・何かお辛いことが?もしや、どこか怪我でもっ!?」
何を慌てているのかわからないが、どれも違う少女はただ首を振った。
辛いことも怪我もしていない。
ただ、嬉しいだけ。
嬉しくて、涙が出ているの。
「今日は外の風が冷たいですわ。中に戻りましょう」
アニーの言葉に特に断る必要も無かった少女は、促されるまま離宮の部屋へと戻った。
離宮には魔力が満ちている。
部外者を進入させないための結界だ。
守られているのか、監視されているのか・・・魔王の城から救い出された身元の知れぬ少女を警戒するのは無理も無い。
その割に王子や王女という要人がこだわり無く出入りしていたのは、少女の無力に見える様子ゆえか。
「姫様。何か飲まれますか?」
「・・・・」
こくんと頷くと紅茶に似た飲み物をミルクで割って出してくれる。
それが少女の、沙耶の気に入りだと知っているから。
何も知らない、ただ少女の世話をしてくれることの人は・・・。
「お熱いですから気をつけて下さいね」
ありがとうと心の中で呟いてカップに口をつけた。
「いよいよ明日でございますね」
「・・・・」
少女は出来上がった青いドレスを思い浮かべた。
第二王女ユーリアの成人の儀が行われる。この世界ではそれが結婚式の次に盛大に執り行われるものらしい。各国の代表者も揃う。
そのほとんどがユーリア王女というよりは、勇者であるイルシオン王子が目当てであっても。
「髪はどのように結い上げましょう?飾りは銀細工がよろしいかしら、金細工・・・」
ぶつぶつと夢見るように話し出したアニーは放っておく。
・・・警備は厳しいものとなるだろう。
だが少女は主役の最も近い場所に居る。もちろん本当の主役もすぐ傍だ。
少女はそっと誰にも見えないように、笑う。
まずは、揺さぶりをかけよう。
その力がどれほどのものか見極めよう。
ねえお義兄さま。
私の仇。