表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

8

「誠一。」


 昼休みに、僕は一人、屋上で昼食を取っていた。今はまだまだ残暑がきつく屋外では、バカらしく思われるかもしれない。ただ、教室の中だって、冷房が完備されているわけでもなく、他の連中がいるためか、室内は室内でかなり暑い。しかしここには、心地よい風も、日陰もある。だから去年から僕は、この屋上の隅で、昼休みを和やかに過していた。普段はあまり他の連中は来ることがないこの屋上だが、今日は、一人僕を訪ねてきた生徒がいた。同じクラスのクラス委員「佐々木美栄」だ。


「美栄か。どうした。珍しいな、こんなところにくるなんて。」


「まあ~いいじゃない、たまには。・・・・・・ここって、いい風が吹いて気持ちいいのね~。」

 美栄は、屋上の隅に座り込んだ僕の横に並ぶように立ち、西側から吹く風に目を細め、その風に少々乱されていた髪をしきりに整えようとしていた。

 僕は、そんな美栄のことを見つめていた。彼女はいつも元気で明るく、笑顔が絶えない。しかし、今は、表情から思いつめたように思えた。あまり見ない美栄の表情に僕はその時、哀愁の念を抱いた。



 僕は、何か彼女が問題を抱え思い悩んでいるのではないかと感じ、話を切り出した。


「どうした?」


「考えるのに疲れちゃって。」


「どうした?美栄らしくないぞ。俺に話してみたらどうだ。そのつもりでここにきたんだろう?」



 しばらく沈黙があった。彼女は思いつめた様子で、ゆっくりと目を閉じ、そして再びその目が開かれた時、彼女は僕の方に目を向けて話しかけてきた。


「誠一って、最近、赤木さんと仲いいんだね。」

 彼女の声には覇気がない。しかし、なぜそんなことを聞くのだろう? 僕にはわからなかった。


「仲いいって訳じゃないさ。ただ、赤木さん、まだ誰とも仲良くなっていないだろう? おまえもそのこと気にしていたじゃないか。」


「・・・・・・そうだけど。誠一って、自分から話しかけるタイプじゃないし、他の皆に対しても、率先して仲良くなったわけじゃないじゃない。それなのに、なんで赤木さんだけ・・・・・・。赤木さんだって、私や皆に対してはつれないのに、誠一だけには、態度が違うじゃない!」



「それは~・・・・・・。」


「好きなの?」

 思いもしなかったことを美栄に言われた。もちろん、そんな感情もって、赤木に近づいているわけじゃない。だが、正直、なんで彼女に近づいたのか、先生に言われたからそうしたが、本当はそうじゃない気がする。でも、僕は、その真意が僕自身にもわからなかった。


「そんなんじゃない! 俺は、彼女のこと、何も知らないんだぞ! それに、俺だって、おまえや皆と変わらない。話をしても一言二言、好きかどうか以前の問題だ。」

 なぜだかわからないが、僕の言葉には、照れくささがあった。いわば、強がった感じもある。


「むきになってる。」

 美栄の目は、僕の方をまっすぐ見据えている。その目には、人を蔑むような冷たさがあった。


「むきになっているわけじゃない。おまえが変なこと言い出すからだろう。」


「どうせ、男なんて、下心をもって、女に近づいているんだものね。誠一は違うと思っていたけど、一緒なんだね。」

 彼女は僕をそう罵った。もはや僕らの会話は、維持の張り合いだけで喧嘩をする子供のようだ。


「美栄、おまえ・・・。そんなことで悩んでいたのか?」


「違うわよ!・・・誠一のバカ!!」

 彼女はそういい捨てると、駆け足で僕の前から立ち去っていった。



 彼女自身が、何で悩み思いつめていたのかは、わからなかった。しかし、今の僕らの会話の中に、彼女を苦しめている何かはあったのかもしれない。でも、そのときの僕は、根拠のない罵りを受け、正直腹が立った。今は、考えるだけ無駄だろう。そう思った。


――ホント、何なんだよ?! 女ってわからないな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ