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「誠一。」
昼休みに、僕は一人、屋上で昼食を取っていた。今はまだまだ残暑がきつく屋外では、バカらしく思われるかもしれない。ただ、教室の中だって、冷房が完備されているわけでもなく、他の連中がいるためか、室内は室内でかなり暑い。しかしここには、心地よい風も、日陰もある。だから去年から僕は、この屋上の隅で、昼休みを和やかに過していた。普段はあまり他の連中は来ることがないこの屋上だが、今日は、一人僕を訪ねてきた生徒がいた。同じクラスのクラス委員「佐々木美栄」だ。
「美栄か。どうした。珍しいな、こんなところにくるなんて。」
「まあ~いいじゃない、たまには。・・・・・・ここって、いい風が吹いて気持ちいいのね~。」
美栄は、屋上の隅に座り込んだ僕の横に並ぶように立ち、西側から吹く風に目を細め、その風に少々乱されていた髪をしきりに整えようとしていた。
僕は、そんな美栄のことを見つめていた。彼女はいつも元気で明るく、笑顔が絶えない。しかし、今は、表情から思いつめたように思えた。あまり見ない美栄の表情に僕はその時、哀愁の念を抱いた。
僕は、何か彼女が問題を抱え思い悩んでいるのではないかと感じ、話を切り出した。
「どうした?」
「考えるのに疲れちゃって。」
「どうした?美栄らしくないぞ。俺に話してみたらどうだ。そのつもりでここにきたんだろう?」
しばらく沈黙があった。彼女は思いつめた様子で、ゆっくりと目を閉じ、そして再びその目が開かれた時、彼女は僕の方に目を向けて話しかけてきた。
「誠一って、最近、赤木さんと仲いいんだね。」
彼女の声には覇気がない。しかし、なぜそんなことを聞くのだろう? 僕にはわからなかった。
「仲いいって訳じゃないさ。ただ、赤木さん、まだ誰とも仲良くなっていないだろう? おまえもそのこと気にしていたじゃないか。」
「・・・・・・そうだけど。誠一って、自分から話しかけるタイプじゃないし、他の皆に対しても、率先して仲良くなったわけじゃないじゃない。それなのに、なんで赤木さんだけ・・・・・・。赤木さんだって、私や皆に対してはつれないのに、誠一だけには、態度が違うじゃない!」
「それは~・・・・・・。」
「好きなの?」
思いもしなかったことを美栄に言われた。もちろん、そんな感情もって、赤木に近づいているわけじゃない。だが、正直、なんで彼女に近づいたのか、先生に言われたからそうしたが、本当はそうじゃない気がする。でも、僕は、その真意が僕自身にもわからなかった。
「そんなんじゃない! 俺は、彼女のこと、何も知らないんだぞ! それに、俺だって、おまえや皆と変わらない。話をしても一言二言、好きかどうか以前の問題だ。」
なぜだかわからないが、僕の言葉には、照れくささがあった。いわば、強がった感じもある。
「むきになってる。」
美栄の目は、僕の方をまっすぐ見据えている。その目には、人を蔑むような冷たさがあった。
「むきになっているわけじゃない。おまえが変なこと言い出すからだろう。」
「どうせ、男なんて、下心をもって、女に近づいているんだものね。誠一は違うと思っていたけど、一緒なんだね。」
彼女は僕をそう罵った。もはや僕らの会話は、維持の張り合いだけで喧嘩をする子供のようだ。
「美栄、おまえ・・・。そんなことで悩んでいたのか?」
「違うわよ!・・・誠一のバカ!!」
彼女はそういい捨てると、駆け足で僕の前から立ち去っていった。
彼女自身が、何で悩み思いつめていたのかは、わからなかった。しかし、今の僕らの会話の中に、彼女を苦しめている何かはあったのかもしれない。でも、そのときの僕は、根拠のない罵りを受け、正直腹が立った。今は、考えるだけ無駄だろう。そう思った。
――ホント、何なんだよ?! 女ってわからないな。