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「誠一。」
校門のまえで、僕は、同じクラスの佐々木美栄に声をかけられた。
「おう、美栄。どうした?」
「ねえ、一緒に帰りましょ。」
「イヤだよー。周りに変に疑われたらどうすんだ?!」
「いいじゃない、と言ってもついでだし。」
「ついでって何?」
「本当は、いっしょに帰りたかった子がいたんだけど、ふられちゃってさ。」
「なんだ? 美栄にもついに青春か?」
僕は冗談っぽく言ってみた。
「違う! 赤木さん! 赤木紗耶香さん!」
美栄は、少々怒った感じになっていたが、すぐそれは止んだ。
「あの転校生か?」
「そう。まあ、今日は初日だから、隣の私がまず仲良くなろうと思ってさ、帰りだけ誘ったんだけど。」
美栄は、明るい性格で、面倒見のよい顔も持ち合わせていた。たいていこういう女子は、どこの学校にもいるもんで、大体がクラス委員だったりするわけで、美栄ももちろんその類だった。
「断られた?」
「そう。で、一人さびしく帰ろうとする工藤誠一くんの背中が見えたんでね、しょうがない一緒に帰ってやるかと思ったの、それなのに。」
「俺は、別に寂しくしてたわけじゃなくて、部活も入っていなんで、早く家に帰ろうと考えていただけ。」
「あ?!誠一。照れてるな?」
売り言葉に買い言葉。その言葉にも反論しようかと思ったが、美栄の口は止まらない。
「わかってる。それ以上は、言わないでくれ。若い子と一緒に歩くのは年頃の男の子は照れるもんだ。」
「若い子って、おまえな~。」
「なんだよー?おっさん。」
・・・・・・そう、実は、僕、一度高校受験に失敗している。美栄をはじめとした同じクラスの連中とは、1つだけだが歳が違う。
「一個しかかわらねーだろ!?もういい、帰る!」僕は美栄に、そういって、歩き出した。
「ちょ、ちょっと、待ってよ~。」
弱弱しい甘えるような声で、美栄は僕の後を追ってきた。
「美栄。あの転校生どうだ?」
「赤木さん?どうって?」
「いや、普通転校生って気になるもんだろ?」
「せいいち~。さては一目ぼれだな?」
「あー、聞く相手間違えた。」
僕はあきれたように言い放ち、少しだけ歩くスピードを上げかけた。
「ごめん、ごめん。ちゃんと話すから。」
「よし、それでいいだろう。」
「まあ、今日初めてだから、よくわかんないんだけどさ、空き時間とかに声かけても、そっけないんだよね~。なんか、なじめないじゃなくて、なじまない感じかな?」
「ふ~ん。」
美栄の言葉に、相槌を打つように返事をしてみた。
「ふ~ん、じゃなくて!クラス委員としては、浮いた存在がいたんじゃ、ほおっておけないじゃない!」少々美栄はイライラ口調だった。もちろんその原因は僕にある。
「そういえば、誠一。なんで部活やんないの?」
「あのね~、うちの学校で、まともな部活動が出来ると思いますか?」
僕の通っている学校は、もともと女子高で、僕が入学した年から、共学へと変わった。しかし、それでも、まだまだ男子生徒の数は、女子の数に比べ7対3の割合で少ない。当然男子が入れるようなクラブはなく、また、僕がやりたいようなクラブもない。それだけが理由ではないが。
「男子たちで、野球部作ったら? 花の高校球児! 女子からもてるよ~。」
よほど美栄は、僕に部活動をさせたいようだ。多少不純な理由でも、それをさせようとしている。
「そんな事言っても、俺はやらないぞ。全国で必死に練習している高校球児に申し訳が立たない!」
「え~、もったいない~。誠一、けっこうガタイもいいし、運動神経もいいのにさー・・・・・・。」
そんなやり取りもありつつ、駅まできて、美栄とはそこで別れた。
僕は一人電車に乗り、考え事をした。
確かに、美栄の言うとおり赤木紗耶香は、他の連中とは一線敷いている感じに取れた。僕も、クラスの連中とは、初めの頃、歳が1個違うという理由だけで、なじめなかった。しかし、そんな心配もよそに、美栄のような女子がクラスにいたおかげもあったか、日に日になじんでいったことはあった。が、あの赤木紗耶香は、そんな僕とは違ったように見えた。まあ、まだ初日、わからない。単なる僕の邪推なのかもしれない。