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11 美栄(3)

――私はいったい何をしているんだろう?

 私は、好奇心を罪悪感が今入り混じっている状態にいる。

 

 金曜の放課後、先生に相談した後、誠一に昼での私の悪態について謝ろうと思った。しかし、彼はすでに帰ったに違いない。そう思い込んでいた。だが、彼は、下足場にいた。

 私は、その時、彼に話しかけようと思った。しかし、彼の隣には赤木紗耶香の姿があった。私は、彼女の姿に気が付き、反射的に身を下足棚に身を隠した。二人は、何やら断続的ではあったが時折、会話をしているようだった。


――私、どうして隠れているの? バカみたい。

 そう思いながらも、私は、依然として身体を動かせずにいた。それもそうだ、赤木紗耶香が原因で私は、誠一にとても悪いことを言ってしまった。だから、今のタイミングで謝るなんてできっこない。


 しばらくして、いつの間にか降っていた雨が止んだ。すると、二人は、一緒に下校し始めた。私は、何も考えることなく、二人の後をつけていた。


 少し離れながら、二人の後ろを時々身を隠しながらつけた。二人の会話は聞こえない。


――何を話しているのだろう?

 私は、そんな二人の会話がとても気になっていた。


 私の家は、学校から徒歩で約15分くらいのところにあるが、私は、二人が乗った電車に今、乗り込んでいた。帰宅ラッシュがまだなのか、電車は、適度に空いていた。私は、二人の乗った車両の隣の車両に乗っている。連結部のドアの窓越しに、二人には気付かれないよう注意を払いながら、観察した。特に二人の会話が盛り上がっている様子もなかった。二人が付き合っているとか、以前そんなことを考えた自分がバカ臭かった。どうみても、そんな関係には見えない。


 電車が4駅目を過ぎた頃、赤木は、誠一に何か紙切れのようなものを手渡していた。

――何だろう?

 それが一体なんなのか、この距離では確認できなかった。


 5駅目に来たとき、二人は電車を降りた。駅構内からでても二人は同じ方向へ歩んでいた。私も、まだ二人をつけていた。


 この町は、誠一が小さい頃から住んでいる町で、誠一の実家もある。私は一度だけ過去に誠一の家を訪れたことがあったので知っている。そのときは、誠一が急病で学校を休み、クラス委員として、課題のプリントを届けただけだった……。


 二人は、やがて商店街へと入っていった。この先を通り抜ければ誠一の実家に行くことはわかっている。しかし、なぜだろう? 赤木もまだ誠一と行動をともにしていた。彼女の家は、住所も知らないのでどこにあるかわからなかった。この町に住んでいたとしたら、納得がいく光景とも言える。だが、もしそうではなかったらと考えると、私の眉間には力が入っていた。


「誠一~!」

 どこからか彼の名を叫ぶ声が聞こえた。私は彼を見た。彼は、その声がどこから発せられたのか、わからず辺りをキョロキョロしていた。私は彼のそんな姿をみて、すかさず身を近くの薬局の前にあった看板に隠した。


 私は、ドキドキしていた。

――やはりこんなことをするべきではなかった。

 先ほどの好奇心は、いまや100パーセントの罪悪感の念に変わっていた。


 誠一と、誰かもわからぬ彼を呼ぶ声の主は、その後も互いに叫びあいながら会話をしていた。その中で、気になるフレーズがあった。


――試合?

 私にはその意味がわからなかった。誠一は、運動部はおろかクラブにも所属していないはず。それなのに試合とは何のことなのか? 


 やがて、その会話は終わり、再び二人は歩き出した。

 商店街をちょうど抜けた辺り、ちょうどそこは人気も薄れたところで、二人は、道の真ん中で立ち止まっていた。私は、一気に二人の近くにまで迫っていった。二人の話す声がここでは聞こえる。私は気配を殺しながら、会話の内容を盗み聞きしてしまった。その行為をしたことによって私は、とんでもなく後悔した。


――また明日。

 赤木は、小さい声だったが確かに誠一にそういった。明日は学校が休みのはずなのに、二人は休日会う約束をしていたのだ。

 私は、その場から立ち去った。その後の二人を見送るのをためらったからだ。今来た道をうつむきながらトボトボと歩いた。


――やっぱり、あの二人は付き合っていたんだ。それでなくとも二人は、もうかなり親密な関係に間違いない。

 そう思った私の頬に、一筋の涙が流れた。


――なんで?

 私には不思議でならなかった。その後も涙が止まらず、とうとう私は、道の片隅でしゃがみこみ泣いた。

 泣いていたときに、私はついに気がついてしまったんだろう? 工藤誠一という男が男として好きなんだと。それが、赤木紗耶香という、私以外の女に取られてしまう。でも、そのときの私は、今後どうしたら良いかわからなかった。今はただ、この悲しい気持ちが先行して、そんなことを考えられなかった。

 私が、誠一にとった悪態も、赤木に抱いていた感情も、すべては私自身の嫉妬が引き起こしていた結果だったのだ。

  

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