たばこ
11月、実家に戻る用事ができた。
電車に乗って、実家に帰る。
だが、季節の変わり目で昨日の夜はよく眠れなかった。
おかげで、寝過ごして隣町まで来てしまった。
目を開けると、隣町の名前がついた駅名。
ため息をつきながら、そこで降りた。
折り返しの電車で地元の駅に戻る。
それも考えたが、時間の余裕と好奇心で改札を出ることにした。
知らない街をただひたすらに探索する。
私の密かな楽しみ。
街を歩いていると、本屋を見つけた。
個人経営の小さな本屋。
その店の近くに小さなたばこ屋があった。
店の前に灰皿が置かれている。
そこに高校時代からよく知っている女の子がいた。
彼女は”鈴井雫”という名前で高校時代、一緒に図書委員をやっていた。
鈴井ちゃんは不思議とゆったりした落ち着いた雰囲気を持っている。
雰囲気は変わらず、変わったのは見た目。
高校時代はロングヘアーを後ろで束ねてポニーテールにしていた。
今はミディアムヘアで髪を風になびかせている。
色も高校時代は黒色だったが、今は茶色になっている。
変わった見た目に釘付けになっていると、
「あ、紗良ちゃんだ。久しぶりー」
落ち着いた声色と顔で手を振って、私に挨拶をする。
「ひ、久しぶり」
私が挨拶を返すと、
「へぇ〜。紗良ちゃんもタバコ吸うんだ」
とニヤついた顔を見せる。
「あっ…。えっと、…うん。まぁ…」
私が気まずそうに俯きながら答えると、鈴井ちゃんは続けて
「吸いに来たんじゃないの?」
箱を持っていた私に訊いてくる。
「あぁ、うん」
私が動揺しながら答えると、
「ライター、貸してあげよっか?」
と言ってくれる。
私は両手で制して、
「いやいや。大丈夫だよ」
と伝えたが、彼女は私に近づいてきて
「遠慮しないで良いから。ほら、タバコ咥えて」
催促する。
私は彼女の言うとおりにタバコを咥えると
「会えた記念に、ね」
静かに言って、シガレットキスで火をつけてくれた。
私は状況が分からなかったが、タバコは落とさずに
「あ、ありがとう」
とりあえずお礼を言う。
「どういたしまして」
すました顔で答える鈴井ちゃんだが、私は思い出して悶える。
しゃがんで両手で顔を抑えて、熱い顔を抑える。
灰が落ちそうだ。
それまで気づかず、シガレットキスのことを考えていた。
鈴井ちゃんに肩を叩かれて、
「紗良ちゃん?灰、落ちるよ?」
長い灰が落ちそうなのに気づく。
「あっ、ああ!ごめん、ありがとう」
灰皿に灰を捨てると、
「何のタバコ、吸ってるの~?」
鈴井ちゃんに話しかけられる。
「あっ、えーと…。黒い箱のやつ。あ、カプセル入ってる」
「あぁ!あれね」
指パッチンをして納得し、
「私は黄緑色の箱に入ったカプセル入りのやつだよ」
と箱を見せてくる。
彼女はタバコを口から離して、
「吸ってみる?」
と吸いかけのタバコを私に見せてくる。
私は遠慮して、
「いいよ、いいよ。大丈夫」
と断ったが、彼女は
「ものは試し。吸ってみて」
と吸いかけのタバコを渡される。
口紅がフィルターに付いたそれを吸った。
少しクラっときたが、味わいは私が吸ってるものと同じ。
「良いでしょ?」
顔を覗き込んで訊いてくる鈴井ちゃんに
「うん。良い…!」
私は驚きを隠さずに伝える。
そうすると、
「ふふ。なら、あげる。全部、吸っちゃって」
彼女はそう言って小さく笑う。
「えっ?良いの?」
私が彼女の顔見て訊くと、彼女は嬉しそうにニコニコして
「うん。いいよ~」
と答えてくれたので、いつものように根元まで吸った。
タバコを吸い終えると、
「今からバイト行くけど来る?」
鈴井ちゃんに訊かれる。
私は咄嗟に傾いた西日と時計の時間を見る。
スマホで時間を確かめた時、母から
『いつ戻ってくるのー?』
とメッセージがあった。
それに焦って、私は
「ごめん!もう行かなきゃいけないみたい」
と両手を合わせて謝る。
「そっか…」
鈴井ちゃんは少し残念そうに頷き、
「分かった。じゃあね」
名残惜しそうに笑って手を振ってくれた。
私は手を振り返して、
「うん。またね」
と返事をして、実家へと帰った。




