再会
「……ふぅ、落ち着け僕……落ち着け……落ち――」
「――ふぅ」
「うわっ!!」
「ふふっ、随分と緊張なさっていますね恭一さん」
ある八月の昼下がり。
リビングにて、坐禅を組み精神統一していた最中ふと耳をくすぐる柔らかな風。見ると、そこには悪戯っぽく微笑む恋人の姿。……まあ、お陰さまで緊張は解れたけども。
さて、どうしてそんなにも緊張していたのかと言うと――
――ピンポーン。
「どうやら、お越しになったみたいですね」
「うん、そうだね」
そう、顔を見合わせ微笑む。そして、二人で玄関へ向かいゆっくりと扉を開く。すると――
「――久しぶり、先生、蒔野さん」
「久しぶり、由良、蒔野」
そう、一人は明るく、一人は仄かに微笑み告げる美男美女。そんな彼らに、僕も微笑み言葉を紡ぐ。
「……うん、久しぶりだね二人とも。今日は来てくれてありがとう……久谷さん、音咲くん」
「……わぁ、綺麗な部屋……これが、二人の愛の巣か」
「……いや、愛の巣って……あと、二人じゃないよ? お父さまも一緒に住んでるし」
「ああ、そう言えばそう言ってたね。……でも、それじゃ夜とか声が――」
「うん、聴こえないよ? 部屋は隣じゃないし、壁もそんなに薄くないし」
「まあ、聴こえてても私は別に――」
「うん、止めてあげて? きっと気まずいことこの上ないから、お父さま」
それから、ほどなくして。
リビングにて、何とも愉しそうに話す久谷さんに苦笑しつつ答える僕。……いや、まあ相変わらずと言いますか……あと、やっぱりノリいいね有栖。そして、久谷さんの隣では呆れたように微笑む音咲くんが……うん、なんかごめんね?
まあ、それはそれとして……正反対なようで、何処か似たような笑顔を浮かべる二人に、ゆっくりと口を開き言葉を紡ぐ。
「……それにしても、少し驚いたよ。二人が、付き合ってたなんて」
――連絡をもらったのは、一ヶ月ほど前。可能であれば、夏休みにこちらを訪れても良いかというもので。突然のことで驚いたけど、喜びの方が断然大きくて。もちろん、断る理由は何もない。どころか、仮に予定が埋まっててもどうにか空けるくらいで。
ともあれ、蒔野さんと二人で食事を用意――みんなで食卓を囲みながら他愛もない話に花を咲かせた。主に、お互いこの三年間について――それは本当に楽しく、いくら時間があっても足りないくらいで。
その後、閑談も一段落した辺りで少し居住いを正す僕。そして――
「……その、改めてだけど……あの時は本当にありがとう、二人とも」
そう、真っ直ぐに告げる。何とも脈絡のなく、何とも漠然とした感謝の言葉。そして、そんな僕に二人は――
「……もう、それは前にも聞いたよ。別に、気にしなくていいのに」
「そうだよ、由良。俺らは、少し借りを返しただけなんだから」
そう、呆れたように微笑み答える。どうやら、伝わったみたいで。
さて、何の話かと言うと、あの時――京都で一緒に住んでいたあの期間、ひっそりと二人が助けてくれていたことで。
もちろん、警戒はしていた。あの時、学校関係者――とりわけ、クラスメイトに見られてはならないと。だけど、全てを防ぐことは出来ずばったり出会してしまうこともあった。例えば、二人でスーパーに行っていた時とか。
その際、僕らが窮地に陥らないよう二人が助けてくれていたみたいで。例えば、スーパーで有栖と僕が一緒にいるところを見たという噂がクラスに広まっていた際、偶然会ったという僕の言い訳に口添えしてくれたり。偶然会ってるところを、自分はこの目で見たから間違いないと。
そして、その効果は絶大だった。入学当初から皆の人望を集めていた久谷さんと、あの一件を気に徐々に皆と打ち解き次第に人気者になっていった音咲くん。その二人の言葉は、僕なんかよりよっぽど皆に信頼されて――
……ただ、それにしても……あの時、こちらの事情なんて何も知らなかったはずなのに……うん、ほんとにありがとう、二人とも。
「……あっ、そう言えばさ、二人が仲良くなり始めたのって、何かきっかけとかあったの?」
ふと、そんなことを尋ねる僕。……いや、急すぎるよね。ただ、三人ともどこか揶揄うような笑顔で僕を見るのでちょっと居た堪れなくて。でも、流石に他にあったよね。話題。随分と野暮なことを聞いてしまっ――
「……まあ、それはあれしかないよね?」
「……ああ、それしかねえな」
すると、顔を見合わせ言葉を交わす二人。そして、僕をじっと見つめ口を開いた。
「――共通の好きがあったから、かな?」




