……それでも、どうしても――
『――えっと、このwhichは関係代名詞で、前の単語を説明する役割なの。だから、ここは――』
『……そっか、なるほど。ありがと、彩香ちゃん。やっぱり、教えるの上手いよね』
『ううん、そんなことないよ美保ちゃん』
それから、数年経て。
教室にて、笑顔で感謝を告げてくれる女子生徒。あれ以降、私の――少なくとも、学校での景色は変わった。まあ、していることは別段それまでも変わらないんだけど……ただ、私のしたことに感謝してくれる、ということを知るだけで私の心は満たされた。だから、あれ以降ずっと――小学校でも中学校でも、皆と仲良くなれるよう意識して過ごしてきた。だって、学校が私にとって唯一の居場所だったから。
その後、高校へと入学。高校でも皆と仲良くなれるようにと、改めて強く決意を抱いた最中だった――ある一人の生徒に、全身が震えるほどの衝撃が走ったのは。
『――蒔野有栖です。宜しくお願いします』
初日のホームルームにて、簡潔な自己紹介をする女子生徒。いや、簡潔と言うより最低限? ともあれ、あまりに愛想のない……と言うか、まるで感情すらない様子の彼女に、さっきまでの楽しい雰囲気が一気に重く――
ただ、それはそうと……随分、綺麗な子だな。自分で言うのもなんだけど、容姿にはそれなりの――いや、相当の自信がある。あるけれど……正直、敵わない。認めたくはないけど、まるで敵わない。
まあでも、それは良い。何が良いのかはともかくそれは良い。私が衝撃を受けたのは……彼女が立ち上がったその瞬間、ある種の直観が働いたから。恐らくは、彼女が何かしらの――姉に近い種の、何かしらの病気を抱えているという直観が。
そして、ほぼ同時――俄に私の奥底から沸き上がってきたのは……我ながら何とも身勝手極まりない、底知れぬ憎悪の念だった。
『……その、ごめんね蒔野さん! その、わざとじゃなくて……』
入学から、およそ二週間後。
昼休みにて、尻餅をつく蒔野さんへと謝罪する私。教室を出ようとした際、丁度歩みを進めていた彼女とぶつかってしまったから。……まあ、わざとなんだけどね。
とは言え、それほど強くぶつかったわけでもない。周りの子達も言ってくれたように、尻餅をつくほどではなかったと思う――そう、普通の子なら。
……うん、わざとじゃないんだろうね。そもそも、そういうタイプでもないだろうし。そして、そこで確信した――やはり、彼女は姉と似た種の病気なのだと。
ともあれ、病気を知らない……まあ、私も直接聞いたわけじゃないけど……ともあれ、病気を知らない周りの子達は、蒔野さんがわざと大袈裟に倒れたような印象を受けたみたいで。まあ、それはそもそもの皆の彼女に対する印象も多少なり影響してるとは思うけど……ともあれ、そんな様子を――私を心配し、彼女を悪く言う皆の様子に喜悦を覚えてしまう自分がいて。
それでも、足りなかった。容姿も、性格も、その空間においての扱いもまるで違う。それこそ、扱いに関しては学校では私の方が圧倒的に良くしてもらってるくらいで。
……なのに、堪えられなかった。家だけでなく、学校にも《《あの人》》がいるのがどうしても堪えられなかった。だから、私は動いた。どんな些細なものでもいい――とにかく、彼女に関する情報を集めた。使えそうなものがあれば、何でも使うために。幸い私はコミュニケーション能力にはそれなりに長けていたようなので、情報を集めるにあたり人脈には困らなかった。
すると、一ヶ月ほど経過したある日のこと――想像だにしない、耳を疑うような情報が飛び込んできた。流石にデマだろうと思いつつも、念入りにそれに関する情報を収集――すると、なんとそれが事実であることがほぼ確定的になり……そして、私は人としてはあってはならないあの行動に打って出た。




