表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

5

鍵がかかった屋上のドアを、俺と谷崎で蹴破った。

しかし、屋上で待っていたのはヘリじゃなかった。

「礼…」

礼はあの時と変わらず、拳銃をまっすぐに構えて、こちらを見つめていた。

「任務ご苦労だったな。ここまで連れてきてくれて恩に着る」

「え?…」

俺達の中に、動じない人間が一人。

「う、嘘だろ…?」

谷崎。

谷崎は目を一瞬つぶり、済まない、と言うように歯を食いしばった。

「谷崎!お前…っ」

「ゴメンな。…アキ」

「谷崎くん…」

谷崎は沙枝の手を引いて、礼の方に歩いていった。

沙枝はもう何がなんだか分からない。抵抗すらできなかった。

「谷、崎…」

俺は膝を地面にがっくりとついた。

春香にマシンガンを連射されたときの沙枝の気持ちって、きっとこんなんだったんだろうな…。

俺は言葉にできない絶望感と喪失感に襲われた。

親友、じゃなかったのか?谷崎!!

「谷崎ィ!!」

俺は腹の底から声を張り上げる。

叫ぶ。

涙が頬を伝う。

礼は沙枝の首を左腕で抱え込むと、谷崎に拳銃を向けた。

まさか…?

やめてくれ。

谷崎も所詮使い捨てだっていうのか。

谷崎は俯いたままだ。

こうなることを覚悟していたんだろうな。

「アキ」

谷崎が声を掛けた。

「谷崎!なんで…なんでお前もそっちなんだよォ!!」

「ごめん。…でもさ」

「……」

「お前らと過ごしてた時間は、…とても楽しかった」

「谷崎…」

「だから、俺…」

後ろで、礼がシリンダーを回したのが分かった。

沙枝は顔を逸らして目をつぶった。

「谷崎!伏せろ!!」

「お前と……」

谷崎は聞こうとしない。

俺も目をつぶりたかったが、ここで目を逸らしたら、谷崎が悲しむ。そう思った。

「お前と、出会えてよかった」

銃声がした。

谷崎ががっくりと前に倒れた。

胸の中心に、銃で撃たれた穴が開いている。

血が流れないところを見ると、こいつも…。

「谷…崎…」

谷崎は、笑っていた。

お前って奴は…馬鹿野郎だ・・・。

お前には悪いが、俺は、沙枝を取り戻さなきゃならない。

俺は、一度は地に着いた膝を立て、まっすぐに立ち上がった。

頬に張り付いたままの涙の雫を拭う。

「礼…あんただけは絶対に許せねぇ」

「……フン、所詮谷崎悠也も我々の尖兵に過ぎない。使い捨てて何が悪い」

「……俺はもう、いろんなものを失いすぎた…だから」

沙枝の目をまっすぐに見つめた。

「沙枝だけは、絶対に守ってやる」

唯が刀を構え直した。

唯は今までのやりとりを、じっと静観していた。

その刀が、先ほどより重そうに感じるのは、こいつなりの責任感だろうか。

「いずれ沙枝は死ぬ。今さら遅い」

と、俺は谷崎の制服から、黒光りするものが覗いているのが見えた。

谷崎も拳銃を持っていたんだな。

俺は谷崎の元に駆け寄り、「少し借りるぜ」と呟いて胸のホルスターから拳銃を抜き取った。

本物の銃は、やはりモデルガンと違って少し重い。

護身用なのだろうか、礼が手にしている物よりは小さく、華奢な銃身だった。

「秋川君」

「ん?」

唯が不意に声を掛けた。

「私が隙を作ったら、その間に礼を撃って下さい。…できますか」

「できなきゃいけないんだろ」

「はい」

「分かってるさ」

「胸の中心にあるコアを撃ち抜けば、一撃で壊すことが可能です」

「コア…」

俺は礼の胸の中心にむけて銃を構えた。

唯は刀の構えを微調整しながら、礼に向き直った。

礼は相変わらずの冷酷な瞳で、不敵に笑っていた。

「礼…私はもう、あなたの妹でも何でもありません」

「…まだそんな事にこだわっていたのか。何度もいっただろう、無駄だと」

「妹…」

初耳だ。

ああ、あの時に中村と話していたことは、そういう事だったんだな…。

俺の脳内で話が全てつながっていく。

つまり、礼と唯は姉妹であり、元は同じ組織に所属していた。

そして唯が裏切って組織を出た…そして、唯は礼も悪の道から救い出すために、沙枝を守る傍ら礼を探していた。

そういう事だったんだろう。

しかし、もう唯は見切りをつけた。

礼という過去と決別することを決めたんだ。

俺は谷崎の銃のグリップを握り締めた。

「駄目だよ!アキ…!やめて!!」

沙枝が叫んだ。

「どんな未来も…変えられないんだ…」

沙枝はまた泣きじゃくった。

俺が死ぬ未来でも見たんだろう。

「沙枝、今日はお前の未来予報が外れる日だ」

俺は沙枝を安心させたかった。

「絶対に俺は生きて、お前を助ける」

口が勝手に動く。

「未来なんて、変えるためにあるんだからな」

礼は銃を唯に向け、シリンダーを回した。

唯は刀を構え、礼に向かって突進した。

「無駄だ!」

礼は一発発砲した。

唯は避けようとせずに肩に銃弾を受けた。

それでも唯は走っていく。

きっと唯も改造人間なんだろう。

素早くもう一発、と礼は構わず発砲する。

次は唯の首をに銃弾が掠めていった。

「アキぃ!!」

沙枝が叫んだ。

唯の刀が、礼の肩に食い込み、肩を斬りおとす。

礼はリボルバーを肩ごと取り落とした。

俺は引き金に指を掛けた。

「秋川君!」

唯が促す。

その瞬間唯が沙枝を抱えて身を後方に引く。

「くっ!」

俺は引き金を引いた。

目をしっかり見開いた。

谷崎の銃から放たれた銃弾は、……礼の胸を貫いた。


礼は倒れて動かなくなった。

唯は、沙枝を俺に預けると、礼の元に歩み寄り、開いたままの目を閉じてやった。

「せめて、安らかに…姉さん」

小さく呟いた。

沙枝は俺を見た。

「ポンコツだから、かな」

「え?」

「私の予見、外れちゃった」

真っ直ぐに見つめてくる瞳が、なんとなく怖いような、可愛らしいような。

「アキ」

「うん?」

「私達も…ここでお別れだね」

遠くでヘリの音が聞こえた。

唯が呼んだヘリがこちらに向かってくるんだろう。

ヘリが到着したら、沙枝とも別れなければならない。永遠に。

「…そうだな」

「…」

「何だよ、寂しいのか?」

「…うん」

正直、俺もだ。

沙枝の笑顔が見られなくなることを思えば、やっぱり寂しい。

「ねぇ、アキ」

「ん?」

「私、アキのこと…」

ヘリが俺達の上空に来て、降下を始めた。

プロペラが回る轟音にかき消され、その後に続いた声は聞き取れなかったが、唇がそう動いた。

沙枝は俺にぎゅっと抱きついてきた。

返してやるのが礼儀だろう。

ヘリのドアが開いて、中から知らない大人が何人か出てきた。

皆同じ格好をしている。

そのうちの一人が、俺が握ったままの銃を回収しに来た。

他の彼らは沙枝を連れて、ヘリの中に入った。

「ありがとう、アキ」

それが、最後の言葉だった。

大人たちは、谷崎の身体と、礼の身体を回収して行った。

唯は、一行の最後尾にヘリに入る。

ヘリに乗るとき、振り向いて俺に会釈してきたので、俺は手を振り返してやった。

全員がヘリに乗り込むと、ヘリは一気に上昇して行き、空の彼方へと消えていった。

俺はヘリが見えなくなるまで、手を振り続けた。

様々な物に別れを告げた。

屋上には、俺以外何も残されていない。

西からの夕日が眩しく、思わず目を細めた。


次はエピローグです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ