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運命は出会いで決まる ~悪役令嬢編~

作者: invitro
掲載日:2026/01/30


「あなた家がないの?じゃあウチへ来なさいな」

「いけませんマルレーヌお嬢様、孤児を拾うだなんて」

「いいじゃない。庭に犬が一匹増えるのと一緒よ」

「人間と犬は違いますッ」


 家なし金なし浮浪児のジャンこと俺が、妹の好きだった乙女ゲーム『暁の聖女』の世界に転生したと気づいた瞬間だった――



 ◇



 ジャンというキャラはゲームにも出てくるが、ぶっちゃけ立ち絵もないモブだ。自分を薄汚い路地裏から救ってくれた少女――のちに悪役令嬢として断罪されるマルレーヌ・ドラクロア公爵令嬢に執事として仕える少年である。


 ゲームの世界に転生したと知って、最初は『生まれ変わってもモブかよ!』と落胆した。

 だけど悪いことばかりじゃなかった。

 なぜなら、主人公のヒロインなんかよりマルレーヌお嬢様の方が俺の推しだからだ。



 前世の俺の母親はどうしようもないぐらい惚れやすい性格をしていた。血縁上の父親は不明。戸籍上の父親は五回変わった。父親が変わる度に顔色を窺わなければいけない環境は真面目にストレスでしかなく、俺は母親が嫌いだった。

 その反動だろう、一途に王子だけを愛し続ける悪役令嬢の方がメインヒロインなんかより遥かにかわいいと思っていた。

 そもそもちょーっと出会いが変わっただけですぐ別の男に惚れるメインヒロインとかいう女……ただのクソビッチではなかろうか。運命の相手は一生に一人、神様にさだめられた相手だけでいいのだ。


『お兄ちゃんて、女の子より乙女だよね』


 生意気な妹にはそう言われたが、母親似の妹の言うことなんて気にしない。

 男も女も一途なのが一番だ。




 さて、マルレーヌお嬢様推しの俺としては、断罪を回避するだけでなくお嬢様の恋も叶えてあげるのが目標となるわけだけど――

 さっそくお嬢様が人生最大の危機と直面していた。


「お初にお目にかかりますセイラム殿下。マルレーヌ・ドラクロアと申します」


 ここ!

 まだ七才のお嬢様が初めて王子と出会うこの場面。

 しっかり挨拶できてエラいですね~。

 なんて、既に悠長にほめていられる状況じゃない。

 ここがはじまりにして元凶。

 この時の失敗によってお嬢様は王子に嫌われてしまう。

 それによって徐々に性格も歪んでいく。

 俺を路地裏から拾ってくれた優しい少女が嫉妬深い魔女へと変ってしまうのだ。


「殿下におかれましては、天」

「おおおっと、手がすべったああああああああぁ」


 お嬢様お気に入りの執事見習いとして同行していた俺は、王子へ挨拶するお嬢様にわざとらしくお茶をぶっかけた。

 突然頭から紅茶をかぶったお嬢様が悲鳴を上げる。

 もちろん、今日の挨拶は中止。

 俺は護衛騎士にぶっ飛ばされて気絶したまま控室へ引きずられていった。




 目覚めると、俺は椅子に縛られた状態で旦那様とお嬢様に睨まれていた。


「ジャン、大変なことをしてくれたな」


 親バカであるドラクロア公爵が俺を睨む。

 今にも斬りかかってきそうな剣呑な目つきに小便ちびりそう。

 実際、返答を間違えたらこの場で即処刑もんだけど。


「なぜあんな事をした」

「お嬢様が絶対に言ってはならないことを言おうとしたので」

「なによっ、わたくしのせいだって言うの!」


 口をへの字にして黙っていたお嬢様が掴みかかってくる。

 しかし、それを旦那様が止めた。


「絶対言ってはならない事とは何だ」

「お父様までッ」

「いいから答えよジャン」

「ではお嬢様に確認させていただきます……あの時、殿下に「天使の様にかわいらしい」と言おうとしましたね?」

「そうよ、それがどうかしたの」


 無言で旦那様を見る。

 旦那様はひとつ溜め息をついてから俺の縄を切った。

 こちらの言い分が認められた証拠だ。

 しかし、お嬢様は訳がわからず不満そうに頬を膨らめる。



 王子がお嬢様を嫌いになる理由。

 それは王子のことをかわいいと褒めまくることだ。

 そのせいでお嬢様の第一印象は最悪となる。



 これは、世の女性にはぜひ理解しておいてもらいたいことなのだが、『かわいい』という言葉は男にとって侮辱にしかならない。

 それも想像以上に屈辱的で痛烈な。

 確かに世の中には自分自身でかわいいと思っている男も僅かながら存在する。しかし、大半の男はかわいいと言われたら、口には出さなくとも内心では「バカにしてんのか、この野郎!」と洒落にならないくらい本気で不満を抱くものだ。

 たとえそれが本当に天使のようにかわいい少年であっても、男としてプライドが芽生えていないような年端も行かない子供であっても、言うのが自分の息子や弟などの近しい関係の男の子であっても、その感情は変わらない。むしろ親に至っては精神的虐待だと思われているまである。



「ほんとに?かわいいって褒め言葉じゃないの?」

「完全にケンカ売ってますね」

「じゃ、じゃあそれって、女の子が言われるとしたらどれくらい強い言葉になるのかしら……」


 お嬢様からの疑問。

 男にとって「かわいい」は、女にとってどんな言葉が当てはまるか。


「死ねブス!くらいの意味になるでしょうか」

「うそッ」

「俺の言葉が嘘だと思う女性は、日頃から男の尊厳を無自覚に傷つけてる人です。真面目にセクハラ&パワハラ案件です」

「そんなひどい言葉を殿下に言おうとしていたなんて、本当なのお父様」

「王族は特に気位が高いからな、もっと酷く受け取られるかもしれん。すまないマルレーヌ、男子というものを儂が直に教えておくべきだった」


 ショックを受けたお嬢様が膝をつく。

 言い過ぎたかな~と思う反面、地球でもその一言だけで殺人事件まで起きる国が結構あるわけで。これを機会に覚えてもらわないと、王子からの心象が良くなることは今後あり得ないわけで……


「あんなかわいいのに」

「まだ言いますか」


 俺と旦那様は心を鬼にして、他にも男に言ってはいけない単語を厳しく教えてあげた。



 ◇



 それから――


 やり直した甲斐あって王子とのお茶会は無事成功した。元々お嬢様の性格は少し高飛車なところがあったものの、俺がお茶ぶっかけた時の反応もあって面白い女の子だと認識されたようだ。


 それに、人は追い詰められると余裕がなくなって性格がどんどん歪むのだろう。王子と良好な関係を続けたお嬢様は、悪役令嬢だなんてとても呼べない公爵家に相応しい立派な淑女に成長した。俺が出張らないといけないような事態はほとんどないくらいに二人の関係は順調に深まっていった。そして、ゲーム本編がはじまる頃には国王からも認められ、主人公メインヒロインが出る幕もなく正式に二人の婚約が結ばれた。


 やっぱり人と良い関係を築くには、最初の出会いが大切なんだなぁ――なんて考えながら、俺は推しの幸せそうな姿を見守っていた。


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