表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/121

第117話:抗う者たちの終焉戦域


「お母さん!!私が隙を作る!!」


 メグーちゃんの叫びが、虚無の空間に響き渡る。


「うん…」


 私は短く応じた。


 なぜ、オーグさんはこんな存在になってしまったのか。

 どうして、こんな形で対峙しなければならないのか。

 問いかけたい想いが、胸の奥で渦巻いていた。


 だが──


 今、立ち止まれば、

 ケビンさんも、メグーちゃんも──

 すべてを失ってしまう。


 私は静かに、深く息を吸い込んだ。

 そして、心の奥にある迷いを、そっと手放す。


 その瞬間、私の手に握られた傲焔が、応えるように赤黒い焔を灯した。


「アニー殿の刀ならば……斬れるかもしれん」


 サキュウスさんが低く呟き、剣を構える。


「我らも援護するぞ」


 その言葉に、ユリさんとマリーさんが力強く頷いた。


 それぞれの想いが交差し、この異質な空間に、確かな"意志"が集まり始める。


 そして今、私の瞳には、もう迷いはなかった。



 ──その時だった。


 再び、オーグさんの思念体が"言葉"の刃を放つ。


「消えろ」


 たった一言。

 だが、それは世界の構造を揺るがす呪詛だった。


 飛空艇の一部が音もなく霧散し、重力が反転する。

 空間が軋み、上下の感覚が崩壊していく。


 だが──

 私たちは怯まなかった。


「〈グラヴィティ・ノード〉、再展開!」


 マリーさんが叫び、魔法陣を重ねる。

 崩れた重力の軸が再構築され、空間の歪みが一瞬だけ収束する。


 その刹那──


 ユリさんが影の中から跳び出す。

 疾風のように鋭く、しなやかに。

 思念体の背後へと回り込む。


「"存在しない"なら、そこに刃を通すだけ!」


 ユリさんの短剣が、空間の歪みを切り裂く。

 だが、思念体は形を持たぬ存在。

 刃はすり抜け──


「反転しちゃダメ!」


 メグーちゃんの叫びが響く。


 彼女の術式が空間の一部を"固定"し、揺らぎを封じ込める。


 その瞬間、ユリさんの刃が確かな手応えを得た。

 短剣が、思念体の一部に深く突き刺さる。


「効いた……!」


 だが──

 思念体が呻くように空間を震わせた。


 次の瞬間、衝撃波が奔り、ユリさんの身体が吹き飛ばされる。


 だが、彼女は空中で身をひねり、見事な着地でサキュウスさんの背後に滑り込んだ。


「次、お願い!」


「任せろ!」


 サキュウスさんが剣を構え、全身の魔力を刃へと集中させる。


「〈ディバイド・ブレイバー〉!」


 放たれた斬撃が、空間を裂き、一直線に思念体の中心へと突き進む。


 だが──


「無効」


 思念体が低く呟いた瞬間、その斬撃は霧のように掻き消えた。


 まるで最初から存在しなかったかのように。


 そして、再び──


「消えろ」


 思念体がその一言を放つ──


 ──はずだった。


「"消えろ"はもう通じないわ!」


 メグーちゃんの叫びが、オーグさんの言葉を上書きする。


 その瞬間、空間の揺らぎが止まり、"消滅"の力が空中で凍りついた。


「お母さん!今よ!!」


 メグーちゃんの声が響く。

 その隙を逃さず、私は前へと進み出る。


 傲焔が赤黒く脈打ち、空間の"無"を裂くように光を放つ。


 私の足取りは静かで、だが、一歩ごとに、空間が震えた。



 そんな私へ、思念体が再び"言葉"を放つ。


「砕けろ」


 その一言が放たれた瞬間、空間が低く唸りを上げ、世界そのものが軋むような震えが走る。


 だが──


 私はその震えを、感覚で捉えていた。


 刹那、私は傲焔を振るう。


 その一閃は、まるで"言葉"そのものを切り裂いたかのようだった。


 オーグさんの命令が届くよりも早く、私の刃が空間を裂き、震えはピタリと止まった。


 静寂が戻る。


 私は傲焔を構え直した。

 その刃に宿る焔が、赤黒く脈打つ。


 そして、静かに言葉を紡いだ。


「──断罪ノ焔」


 その声とともに、焔を纏った刀が振り払われ、剣閃が空間を駆ける。


 それはただの斬撃ではない。

 存在の根幹に届く、"意志の刃"。



 そして──


 私の剣閃が、思念体の中心を貫いた。


 赤黒い光が爆ぜ、虚無が震え、思念体が悲鳴のような咆哮を上げる。

 その声は空間全体を満たし、やがて──静かに、消えていった。


「オーグさん…さようなら」


 思念体の中心に向かって、そっと呟いた。



「……我は……否定される……?」


 オーグさんの声が、空間全体に響き渡る。


 それは怒りでも、憎しみでもなかった。

 ただ、深い困惑と、かすかな寂しさを帯びた声だった。


「我は……世界を……守れぬ……まま……」


 思念体の輪郭が崩れ始める。

 黒い霧が剥がれ落ち、渦巻いていた光が静かに散っていく。


 その中心に、かつてのオーグさんの面影が──

 ほんの一瞬だけ、かすかに浮かび上がった。


「…星…虫…ヲ…滅する…コト…ガデキ…ズ…モウシワケ…アリ……ン」


 その声は、もはや誰にも届かない。


 思念体の"存在"が、ゆっくりと、確実に、この世界から剥がれ落ちていく。


 ──そして、虚無が崩れた。


 空間が軋み、裂け、そこから一筋の光が差し込む。


 黒雲が晴れ、空が戻ってくる。

 色彩が戻り、風が吹き、世界が、再び"現実"を取り戻していく。


 私たちは、ただその光景を、静かに見つめていた。


 誰も言葉を発さなかった。


 ただ、終わったのだという実感が、胸の奥に、ゆっくりと広がっていく。


断罪ノ焔

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ