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誰も食べない世界で、農民の私は真実に挑む  作者: 農民
第1章:天使の零落
113/114

第113話:災厄は形を変えて蘇る


 地上へと続く転送陣が、かすかな光を帯びて脈動していた。

 その光は、まるで帰還を促す灯火のように、静かに私たちを導いていた。


 傷つきながらも、互いに支え合い、ゆっくりと歩き出していた。


 ようやく終わった──

 誰もが、そう思っていた。


 だが──


「……っ!」


 私は、ふと足を止めた。

 その瞬間、空気が凍りつく。

 風が止まり、音が消え、世界が息を潜める。


 空間が、裂けた。


 音もなく、まるで布を裂くように、空間が黒く割れる。


 そこから、禍々しい気配が溢れ出した。

 赤黒い霧が渦を巻き、空間の裂け目から、巨大な"それ"が姿を現す。


 ──龍の思念体。


 肉体を持たぬ、魂の残滓。

 だが、その存在感は、先ほどの龍をも凌駕していた。


 それは形を持たず、ただ黒い雲のように天井を覆い、無数の目のような光がその中で蠢いていた。

 見る者の心を抉るような視線が頭上から降り注ぐ。


「……オーグ……!」


 ケビンさんが震える声で名を呼ぶ。

 その声には、恐怖と、かすかな哀しみが混じっていた。


 そう、それは確かにオーグさんの"意志"だった。

 肉体を失い、魂の半分を奪われながらも、なおもこの世界に執着し、憎悪と怨念だけを凝縮させた存在。


「我を……否定するな……」


 空間に声が響く。

 それは音ではなかった。

 思考に直接流れ込んでくるような、圧倒的な"念"だった。


 その言葉は、世界そのものに刻まれる呪詛のように、重く、深く、染み込んでいく。


「我は……龍なり……我は……災厄なり……我は……終焉なり……」


 暗黒の雲が、周囲を覆っていく。

 空気が重く沈む。

 世界が再び、終焉の予兆に包まれていくのを感じる。


「……オーグさん?ど、ど、どうして?」


 気づけば、私は自然と傲焔の柄に手をかけていた。

 迷いはなかった。

 自分でも不思議なほど、手が自然と動いていた。


(この刀が…私に応えている)


 その感覚に驚きながらも、瞳には怯えではなく、静かな覚悟だけが宿っていた。


 その姿に、サキュウスさんは驚愕の表情を浮かべる。


「七禍具!?それは…傲焔あざまるか!?」


 その名を口にした瞬間、空気がさらに張り詰める。

 マリーさんもまた、驚きの声を上げる。


「な、なぜ傲焔あざまるを!?アニーさん、あなた……!」


「そんなこと言っている場合かしら!?」


 メグーちゃんの鋭い声が、場の空気を切り裂く。

 その一言が、サキュウスさんたちに優先順位を思い出させた。


「メグーちゃんの言う通り!ですよね!アニー様!」


 ユリさんが明るく言いながらも、その声には緊張が滲んでいた。


 私は一瞬戸惑いながらも、しっかりと頷く。


「は…はい!」


 おどおどした声が出た。

 でも、手にした傲焔は確かに私の意志に応えていた。


(大丈夫。この刀は、私の意志を聞いてくれる)


 七禍具を持ちながらも精神を侵されていない私の姿に、サキュウスさんは眉をひそめる。


 だが、今は疑問を抱いている場合ではない。

 彼はすぐに決意を固め、剣を抜いた。


「ゆくぞ!構えろ!!」


 その号令に、仲間たちが一斉に武器を構える。

 黒き思念体──

 オーグさんの残滓が、再び世界を呑み込もうとしていた。


 だが、私たちの瞳には、恐怖ではなく、抗う意志が宿っていた。


 終わりは、まだ訪れていない。

 希望もまた、ここにあるからだ。


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