表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/123

第102話:黒炎の龍と、集いし五つの刃


 世界を裂くような咆哮が、空を震わせた。

 轟音が大気を揺らし、雲は四散し、空の青が赤黒く染まっていく。

 龍の巨体が天を仰ぎ、鱗の隙間から滲み出す赤黒い光が、広大な空を塗り潰していく。


 その場にいるだけで、心臓が握り潰されるような圧が全身を襲う。


「……オーグ!!」


 メグーの声が、静寂を切り裂いた。

 普段は冷静な彼女の声に、かすかな焦燥が滲む。

 銀の瞳が見据える先、龍の口内に黒き炎が渦巻き、次の瞬間、咆哮と共に放たれた。

 黒炎が空を裂き、一直線にメグーへと迫る。


「メグーさん!!」


 ケビンの叫びが響く。彼の声は震えていたが、その足は迷わず前へと踏み出していた。


「っ!?」


 メグーの目が見開かれる。冷静な彼女でさえ、咄嗟の反応が遅れるほどの威力と速度だった。


「天の怒りを知れ!これぞ神の雷!!唸れ!!ヴォルト・ストライク!!」


 ケビンが両手を掲げ、雷の魔法を放つ。

 彼の魔力は未熟だが、仲間を守りたいという一心が、稲妻に力を宿す。


「風と天空の支配者よ!我を阻む風を律せよ!ウインド・アルゲンタビス!!」


 風の魔法が雷を包み、突風となって黒炎に立ち向かう。

 だが、黒き炎はそれを嘲笑うかのように突き進み、メグーの目前にまで迫る。


 その時だった。空に閃光が走る。

 雷鳴のような音と共に、金と白銀の光が交差し、空間を切り裂いて三つの影が舞い降りた。


「状況は……最悪のようだな」


 金色の鎧を纏い、聖騎士の威容を放つサキュウスが、剣を構えながら低く呟く。

 その声には焦燥と覚悟が滲み、彼の瞳は燃えるような決意に満ちていた。

 背後には、白きローブを風に揺らすマリーが静かに佇み、黒装束に身を包んだユリが、まるで影のように気配を殺して立っていた。


「サキュウス……!」


 メグーが目を細める。

 かつて刃を交えた彼らの姿が、記憶の中のそれとは異なっていた。

 装備も、気配も、まるで別人のように研ぎ澄まされている。

 彼らが本気で来たのだと、彼女は直感した。


「龍が…目覚めたのですね」


 マリーの声は静かだったが、その奥には張り詰めた緊張があった。

 彼女の指先は微かに震えていたが、それを誰にも悟らせまいと、唇を引き結ぶ。


「へー、なんか面白そうなことになってるじゃん?」


 ユリが短剣をくるくると回しながら、飄々とした口調で笑う。

 その無邪気な声とは裏腹に、彼女の瞳は鋭く、龍の動きを一瞬たりとも見逃していなかった。

 まるで獲物を狙う黒猫のように、静かに、しかし確実に獲物を見据えている。


「……助けに来てくれたんですか?」


 ケビンがかすれた声で問う。

 恐怖に震える心を押し殺しながら、それでも彼は前を向いていた。

 サキュウスは一瞬だけ彼を見やり、静かに頷く。その仕草に、ケビンの胸に小さな灯がともる。


「我らは正義の剣を携え、災厄に立ち向かう者。共に戦う意志があるなら、力を貸そう」

「……はい!」


 ケビンの声は、先ほどよりもわずかに強く響いた。

 メグーもまた、短剣を構え直し、銀の瞳に決意の光を宿す。


 五人の視線が、龍、そしてその背後に立つミリアリアとフェイへと向けられる。


「ミリアリア……まだ引き返せる」


 サキュウスが一歩前に出て、静かに語りかける。

 その声には怒りも非難もなく、ただ哀しみと祈りが込められていた。

 だが、ミリアリアは冷ややかな笑みを浮かべ、金の髪を風に揺らしながら言い放つ。


「引き返す?何を言っている。私は、私の意志でここにいる。世界を終わらせるために」


 その言葉は、まるで運命を受け入れた者の宣告のようだった。

 隣に立つフェイは一言も発せず、ただ静かに魔法陣を展開する。

 黒い魔力が渦を巻き、龍の背後に集まっていく様は、まるで奈落の門が開かれるかのようだった。


「…彼女、龍の血を得たのでしょう。ドラクレアになっています。サキュウス卿、会話は無駄です」


 マリーの声は冷静だったが、その瞳には深い哀しみが宿っていた。


「ならば、我らの剣で止めるまでだ」


 サキュウスが剣を構える。

 ディバイディングブレイバーが空間を震わせ、青白い光が周囲を包み込む。

 その光は、絶望の闇を切り裂く希望の刃のようだった。


「行くぞ、メグー、ケビン!」


「はい!」

「ええ!」


 メグーが銀の瞳で魔力の波を読み取り、ケビンが震える手で支援魔法を展開する。

 マリーが詠唱を始め、ユリが影のように敵陣を回り込む。


 龍、ミリアリア、フェイ──そして、メグー、ケビン、サキュウスたち。


 世界の命運を賭けた戦いが、今まさに幕を開けようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ