第八話:あなたの物語は、終わったのよ
断罪の式典──。
それは、まるでこの世界が“物語”であると告げるために設けられたような舞台。
白い石畳、整列する貴族たち、王の玉座、そして聖女ユリア。
その中心に、わたくしが立っていた。
「クロエ・ヴァルメリア。貴女は罪を犯しました」
そう告げられる役割は、もはやお馴染み。
けれど、今回は違う。
ユリアが、言葉を継がない。
視線を逸らしたまま、何も言わない。
わたくしは一歩、前へ出た。
「聖女ユリア・フォールン。問いかけます。
あなたは、この国に神の名のもとに真実を語ることを誓いますか?」
ざわつく民衆。
騎士団の指が、剣の柄に触れる。
だがユリアは、静かに頷いた。
そして、いつものように語りはじめようとした。
「わたくしは……」
その瞬間。
わたくしは懐から、ひとつの物を取り出した。
黒い板。異世界の“端末”。
証拠。
そして、その再生ボタンを押す。
『……あー、もうBAD確定……まじで詰んだ……このルート無理ゲーすぎるでしょ』
会場が凍りつく。
その声は、間違いなく。
聖女の声だった。
「この音声は、深夜の寝室にて録音されたものです」
貴族たちがどよめき、王の顔色が変わる。
誰もが、ユリアを見つめていた。
ユリアは……微笑んでいた。
それはもう、聖女の顔ではなかった。
「……クロエ様。
あなたの勝ちです。
でも、これはわたしの“バッドエンド”じゃありません」
わたくしはその言葉の意味を、すぐには理解できなかった。
「わたしはこの世界を、壊すことはしない。
でも、“演じる”ことも、ここで終わりにします」
ユリア・フォールンは、両手を広げた。
まるで、舞台の終幕のように。
「──物語は、幕を閉じる。
次は、わたし自身の番」
それは宣言。
この世界のヒロインではなく、
“転生したただの女”としての生き方を始めるための。
──そう。
この“物語”は、終わったのだ。
あの世界の、誰かが書いた、予定通りの物語は。
そして、ようやくわたくしたちは。
はじめて“自分の人生”に触れられるのかもしれない。