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4話 そっち系の人にはご褒美なんだろうけど

 そう、ファンタジー小説やアニメで【エルフ】と呼ばれる、耳の長い人たちが目の前にいる。


 本物? いや、まさかな。


 しっかし、随分と良くできている。今や特殊メイクの技術もここまできてるのか?


 などと感慨に耽ってるうちに、ひときわ背の高い女が一人だけ近づいてきた。


 こちらに剣先を向け、話しかけてきているこの人が、どうやらリーダー格のようだ。


 それにしても、すごくリアル──メイクの皮膚部分があんなにも自然に動くものなのか? こりゃあ、ハリウッドの技術どころの騒ぎじゃないぞ。


 あれっ、なんだ!? 言葉が違う? なのに、そういや意味がわかる。ほんの僅かなタイムラグはあるものの、まるで相手が日本語を話しているかのよう……。意味がはっきりと伝わってきていた。


 なんだろ? 超能力?!


 相手の言わんとすることはわかる。なのに、急に不安になった。はたして、こちらの言いたいことがきちんと伝わるのかと。だって元の言語がこうも明らかに違うとなると……さすがにな。


 それもこれも、先ほどから話しかけてきているこの人って、結構な形相なのだ。他の連中にしても、少し離れたところで矢をつがえ、今にもこちらを射らんばかりの雰囲気だし。


 めちゃくちゃ警戒されている……。


 不用意に動いたり、誤解されそうな発言は、ちょっとどころか、かなりやばそう。


 そもそも、こちらの言葉が伝われば……の話だけど。


 にしても、みんな若い。それに、顔ちっさ。


 どう考えても、あの小さな顔の下に、更に特殊メイクを張り付けているなんて到底思えないんだけど……。


 頭身からすると、普通じゃあり得ないほど小さな頭。なのに、それでいて全体としての完璧なバランスは、お見事としか言いようがない。


 あれほどまでの美貌で、凛とした佇まい。本当のエルフなのだろうか!?


 て、ことは、やはりここは、異世界だとでも? まさかの異世界転生! いや、この場合は異世界転移の方か。


 本来なら、もちろん異世界特典あるんでしょ? とか言って、小躍りしたい心境のはずなのにぃ……今は。


 しかも、誰も彼もが超絶美形すぎる上、どう見ても女性ばっかなのも、本来であれば、良いことずくめのはずなのにぃ……今はそれどころじゃねえ。


 実際、これほどまで整いすぎた美形たちに、ああもこぞって、睨まれ続けているのって、まじ怖い……。


「おいっ! きさま、聞いてるのか? こちらの言ってることが分からんのか? チッ、くそが」


 現実逃避してる内に、あちらさん、言葉が通じないことに痺れを切らしたようだ。しかし、見た目とのギャップがひどい。くち悪すぎ。


 まるで野蛮人でも見るかのような、明らかに蔑んだ表情を浮かべていた。そっち系の人にはご褒美なんだろうけど……。その点に関しては、ノーマルな俺にはちょっと、いや、相当つらい。


 諦め顔を浮かべつつも、リーダー格の人物がついてくるようにと、あご先を振って伝えてきた。


 あ、ここか! 勇気を振り絞って、仕方なく声を出してみる。


「……承知しました」


 あれっ!? なんか今、変な音が聞こえた?


「お、お前、喋れたのか!?」


 おっと、今はそれどころじゃねえ。


「……ええ、すみません」


 あっ、まただ。音が!?


「おい」


 あっ、だめだって。今はリスク回避の方が先決だ。


「な、なにぶん言葉が通じるか不安だったものですから、なかなか喋り出す勇気が湧かなくて。本当に申し訳ありませんでした。ちゃんと意味が……通じてますかね?」


「んっ!? なんだ? どういう意味だ? ちゃんと通じてるぞ」


 おぉ、ならいいか。じゃあ、このままで。


「えっと、実は気を失って、気がついた時には森に迷い込んでいたんです。できれば、その……」と、保護を願い出てみた。


 見知らぬ世界、見知らぬ部族。連行された後、奴隷にされたり、投獄されたりする可能性はあると思う。隙を見て逃げ出そうか、とも考えはした。


 だけど、彼女らの身のこなしを見る限り、それはどうにも難しそうだ。ここはやむをえまい。


 幸い、相手の話を聞くと、あちらさんにしても、聖樹様と仰られる、なにやら物凄く偉い御方の指示を受け、ここまでやってきていたそうだ。【エルフの郷】こと、彼女らが暮らしている集落に連れて帰るようにとの命令を受けて。


 通常であれば、俺みたいな奴が森へ迷い込んだ場合、森の外に追いやられるらしいのだが、今回に限っては、例外なのだとか。


 それよりもだ。やはり、彼女らはエルフだった。


 ふふふ、なにかと無気力になっていた俺であっても、ファンタジーだけは別物、大好物だ。それだけのために生き長らえてきた……いや、生きてこれた、と言っても過言ではない。


 いやがうえにも興奮が、高まってくるぅ!


 名前すらも教えてもらえなかった手前、興奮覚めやらぬまま、つい「エルフさん」と呼びかけてしまった。その際、ひどく怒鳴られたんだ──「なっ、無礼者! エルフ様とお呼びなさい!!」と、ね。


 なんだよ? えらく上から目線じゃんか、と思っていたら……うん、こちらの勘違いでした。


 彼女らは、【ウッドエルフ】なんだって。でもって、このウッドエルフとエルフ、どうやら違う種族らしいのだ。


 このウッドエルフさん達にとって、エルフというのは格上も格上、雲の上の存在なんだとか。


 そう、俺を連れ帰れと命じた、偉い偉い聖樹様が、その、エルフ様というわけ。


「エルフ様方は純粋な妖精。我々ウッドエルフとは一線を画するのだ。貴きエルフ様を我々と混同するなど、言語道断。愚かにもほどがある──」


「隊長の言うとおり。ほんと信じらんない。そんなことも分かんないの? やっぱ人族って、低能──」


「まったくですね。これだから下賤な人族は。御命令でなければ、即刻──」


「……」


 最後の一人に関しては、口にするのも嫌そうな表情を浮かべていた。


 各人、宗教的な危険な臭いを漂わせ、こちらを睨みつけている。かつ、なにやら人族とかに対する呪詛を吐き続けていた。


 ここは平謝りしかない、と即座に判断。とにかく、丁重に謝り倒す。


 そして、……やっとのことで許しを得ることに成功したのだった。どうやら聖樹様を褒め称えたことが正解だったようだ。


 それでも、やっと最悪の危機から脱しただけ、といった感じでしかないが……。


 まじ、やばかった。未知の文化圏で、知らずに禁忌へ触れてしまった恐ろしさ──背筋が凍る思いがした。


 それでも、なんとかウッドエルフさん達の案内を得ることができ、里を目指して、森の中を進んでいくことに。


 当初、あまりの歩みの遅さに唖然とされ、置いてけぼりを食らいそうになった。見事に揃った「「「「チッ!」」」」という舌打ちの前に、正直心が折れそうだった。美人の集団って、きょわい。


 こうして少しでもオドケて自分を騙してないと、到底ライフを保てそうにない。


 ただ、その後は、命令を受けてるせいもあってか、こちらのペースに少しは合わせる気になってくれたようだ。


 今は比較的ゆっくりとしたペースになったお陰で、少し話をする余裕もできた。


「いやぁ、ほんときれいな虹色の蝶でした。つい釣られて、自然と森の深くへと足を踏み入れちゃって。それに、あんなにも旺盛に張り巡らされた木の根があるのに、すごく歩きやすくて、びっくりしましたよ」


 おどけた調子で、ここまで見てきた森の中での様子を話していくと、それを聞いてたウッドエルフさん達に、驚きの波が伝わっていったような……。


「な、なるほど。こいつが御命令の対象であることは、どうやら間違いなさそうだな。それにしても……」


「なんでこんな人族が、チッ」


「くっ、森に導かれた者だなんて」


「……」


 おっ、導かれし者!? なんて心地好い響き。


 来たぜ! ファンタジーRPGの王道が。


 密かに感動に打ち震えつつ、わずかばかりライフを回復することができた。


 ひたすら森の中を早足で歩いていく。


 時折こちらに向く視線は、相変わらず冷たい色のまま……。あ、また、ライフが減った気が……。


 ──かなりの時間を要して、森の中を抜けると、下を見渡せる開けた高台へ、たどり着いた。


「このすぐ下にあるのが、我らがエルフの郷だ。そして、里の奥に見える御神木が……かの有名な【世界樹】である」


 かなり溜めた上、自慢げに語った隊長さん。


 美人だけあって、こういう顔してくれると、さすがに映える。是非そのままで……。あぁ、それにしても──「おわぁ、ほんと、見事ですねぇ……」


「さすがに人族でも、かの偉大さは理解できるんだ?」


「ふん、そんなの当然でしょう」


「まあ、当たり前ではあるがな」


「……」


 ふふふ、でも、まじ感激だ。またもやファンタジーのお約束に感謝。


 なにせ、子どもの頃はファンタジー系のゲームに夢中になってたし、大人になってからも、仕事で時間のないときほど睡眠時間を削ってでも、異世界もののラノベとかに没頭せずにはいられなかった。そんな俺にとって、うん、たまらん!


 作中ではよく世界樹が巨大に描かれてたりするけど、見ると聞くでは大違い。全く違う。


 CGだの、挿し絵のサイズで、これを描くなんて、さすがに無理がある。とても表現しきれるわけがない。


 とにかく、目の前の空間いっぱいに広がる、この実物を見てよ。絶対驚くから。木の自重とかの物理法則を無視しまくって、天高くそびえ立ってるから。


 ほんと、てっぺん見えねぇぇぇぇぇーーーっ。


 高すぎて、近すぎて……あんま無理に見上げると、首やっちゃいそう。


 実はさっきから、森の中でもチラホラと見え隠れしていた──でも、てっきり崖の壁面だと勘違いしてたんだ。まさかあれが、世界樹の幹の一部だったとは……全く気付けなかった。


 いやいや、でもね。だって近すぎるせいだから……スカイツリーだって近すぎると、かえって視界に入ってこないくらいだったし。ましてや、木があの大きさじゃ……。


 気を取り直し、今度は丘の上から眼下に広がる里の様子を窺う。


 エルフらしいファンタジックな樹上の家……なんてことはなかった。


 それどころか、木の塀らしき物で囲まれた区域になってるだけ。いや、家どころか、建物らしきものがなに一つ見当たらない。


 ただ、他よりもずんぐりむっくりした低い樹木だけが、等間隔に生えて……あれっ!?


「もたもたせんで行くぞ」


「あ、はい」


 先導する隊長さんに急かされ、その後に続いて、葛折りの坂道を下っていく。


 いよいよ異世界初の人里訪問かぁ。えっと……ところで、どこにあったのさ? エルフの郷って。

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