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34話 アリエルも欲しかったりするん?

 アリエルに何かしてやれることはないかと思案していると、目の前にお椀が……湯気が立ったお椀が差し出されていた。


「んっ」


 早く取れよと言わんばかりに促してくるアリエルと目が合った。


「おっ、悪いね。あぁ、いい匂い」


 ありがたく受け取る。うん、この野菜の彩り、見るからに旨そう。なにより腹の方がグーグーキュルキュル──食わせろって騒いで、うるさいくらいだ。


 一匙すくって、口へ。


 ほぉわぁ〜、染みてる。超しゅんどるやん。具沢山の肉野菜スープが、これまた、うんまいっ!


 ん、なんだこれ!? この肉って、あの熊肉じゃ?! どうなってんだ? あの臭さはどこへ?


 しっかし、このスープに浮かんでる溶けた脂が……甘いの、なんのって! おぉ、旨いのぅ。


 この賽の目状の野菜もだ──細かく刻んであって、よく煮込んだ具材の旨味が全て凝縮されてる。とろとろのウマウマ。


 なにげに野菜の種類や肉の部位なんかによっても大きさが変えてある。火の通りが均一になるようにしっかり考えてるところに、細かな気配りを感じた。いや、微妙なこの食感の違いを楽しむためのものでもあるのかも……やるなぁ。


 がさつそうに見えるアリエルなのに、なんとも繊細な……なんだよ? この女子力の高さは……。


 胃袋をがっつり掴まれちゃってる感じなんですけど!? この料理だけで結婚してくれって言い出す奴がごまんといそうなんですけど!?


 あーっと、そうだった。借りを返す算段つけてるとこだったわ。あまりの旨さに忘れとった。どうしよ? でも、ちょっと今は考えられそうにないんだけど。いいや、食ーべよっ。


 ──すっかり晩飯も済み、水魔法で洗った食器類を焚き火の前で乾かしていく。


 ぼーっと、揺らめく炎を眺めながら、まだ答えの出ていないさっきの続きを考える。


 ……だが、ふとした瞬間、赤い光が視界に入った!?


 奥の暗闇に目をやると……ふぅ〜っ、大丈夫、一つだ。びっくりさせやがって。一瞬、猛獣かと焦ったよ。目が光ったのかと。


 いや、異世界だと、一つ目のサイクロプスの可能性も……いやいや、この辺に魔物はいないって話だ。平気平気。


 うん、火の精霊だ。


 あぁ、なんかほっとする。これって不安が解けたせいだけじゃないよな。最初に助けてもらった影響かな? はは、刷り込み状態かよ。今ならカルガモの雛の気持ちもわかる気がする。


 火がついたばかりの薪を片手に近づいていく。


「おい、どこへ……いや、なんでもねえ」


 なんだ? 話しかけてきたくせに、アリエルのやつ、すぐそっぽ向いちまった。


 いや、今はこっちが先だ。


 ふ〜ん、近づいても、やっぱ逃げたりはしないようだ。ゆっくり漂ってるだけなのかね? いや、やはりちょっとずつ移動してきてるな。


 おっ、そうだ! 良いこと思い付いた。


 ルンルン気分で、焚き火のところへ戻ってきた。


「男は早いな……もう出ちまったのかよ?」


 ガーン! 女の子が男に向かって、早いとか言わないの!! 随分と小声だったけど、ちゃんと聞こえたからな。もう、そういうところだからね。


 てか、なにと勘違いしたの? いや、聞くのも怖いけど。いやいや、ここは気を取り直してだな。


「なあ、アリエルってさぁ、確か、火の天使の名前を授かったって言ってたよな? もしかして火の魔術が得意だったりするんか?」


「へへ、まあな。火は得意だ。他はからっきしだけどよ……」


 なんか落ち込んじゃった。あれ!? あの雷の方は【破魔のネックレス】の効果だとしても……おかしいな?


「おまえ、最初に遭ったとき、でっかい岩石生み出してたろ? あれって、土魔術じゃねえの?」


「うっ、あれは……な」


 ありゃ、ますます落ち込んじゃったよ。


「どしたの?」


「はあ、実は、よ。──」


 おいおい、まじか? 餞別なんて大事な品、消費させちまってたんか!? まさか属性剣に蓄えられてた、一度きりの魔力解放だったなんて……俺のせいじゃん。あっちゃあ、こりゃまずい。


 こうなると、やっぱダメ元でやってみるしかねえか。魔力的に釣り合うものとしたら、あれしかないものな。つうか、差し引きしても、まだまだマイナスじゃねえかよ。


「なあ、火の加護って、アリエルも欲しかったりするん?」


「まあ、そりゃな。あったらいいよな。でも、今からサラマンダーを探しに火山まで行くとなると、ちょっと時間がな。ちっ、そっちの線を優先するべきだったか……あぁ、なんかまた失敗したかも……」


 へえ、そうなんだ。火の妖精の加護を得るには、火山まで出向く必要があると? しかも、今は時間的余裕がないとな? ……だとしたら、好都合かも。


 火の精霊さんにお願いしてみますかぁ。えっと、イメージは大体こんな感じで。イケるかな? いっちゃってください。


 次の瞬間、ビクッと反応したアリエルがその場から一瞬で跳び去る──も、逃げたアリエルの周りを幾重にも赤い炎環が取り囲んでいた。ただ、それも徐々に薄くなり見えなくなって……。


 ほぉ〜、外から見てると、あんな感じで守護結界が張られるんだな。


「くそっ! これって、あんたの仕業か?」


「あはは、ごめんよ、アリエル。なんか驚かせちまったな。えっとな──」


 火の精霊について知ってることをアリエルに説明してやった。


「へぇーっ、妖精と違って、一時的なものなのか」


「そうだな。その守護結界がどの程度の攻撃を防げるのか、どのくらいの期間保つのか、そういうのまだ全然検証してないから、正直いつ消えるかもわからんけどな。ただ、火魔術の威力は一気に上がってたから、使うときは気をつけてな。取って置きということで」


「ああ、了解だ」


 こちらにしても、アリエルの話は朗報だった。半ば魔力だけの存在みたいな精霊と違って、妖精の方は人族と同様に魔素が回復するという情報を得られたので。


 ちょっとだけ心配になってたんだ……スプライトのこと。だって、あいつ、別れの日に顔出さなかったから。もしかしたら、魔素が尽きて消えて無くなっちまったのかと思ってさ。


 でも、あいつもああ見えて、サラマンダーと同格の大妖精シルフ。なら、大丈夫そうだ。ふふ。


 まあ連日、レイノーヤさんに召喚されて、俺の講義に付き合ってくれてたくらいだから、実際そうなんだろうとは予想してたけど。ふふふ。そっか、それは良かった。


「ありがとな」


「おいおい、礼を言うのはこっちの方だっての!? 相変わらず、おかしなやつだな。いや、ほんとありがとな。正直助かったよ。このまま手ぶらじゃ、ちょっと格好つかねえところだったから。せっかく時間もらって遠出してきた手前な。あはは」


「いや、俺こそ悪かったな。そんなことぐらいしかできなくて……ってか、それも俺の力でもないわけだけど」


「いや、ありがたく頂いたよ、あんたの気持ち。へへへ」


 そう言ってもらえると、ほんと助かるよ。


 そっかぁ、もう少しでアリエルともお別れなんだよな……。なんか寂しくなるな。元気いっぱいだったから、アリエルって。ほんと見ていて、飽きのこない子だもの。


 あ、となると、今日は、二人で過ごす最後の夜か……な、なんか良い響きじゃね!?


 ふふふ、別になにも無いんだろうけどな。こういうのは、いやが上にも、男の妄想が掻き立てられるんよ。ムフッ。


 しまった! もうちょっと、寝床大きく作っとくんだったか?


 万が一ってことが……あ、そもそも起たないんだった。うぅっ、夢もちぼうもない……。希望も、恥望も、乳房も、あ、こっちはチブサか、いやニュウボウか。


 うん、アホらし、もう寝よ。


 ──そして、案の定といえば案の定だが、なにも起きないまま、次の日の朝を迎えた……くっ、せめて朝ぐらい起っておくれ、息子よ。


 気持ちを切り替え、魔法で水を出し、顔を洗う……ふぅーっ、さっぱりした。


 ははは、なんだかんだ無詠唱で、魔法行使できてんのな。俺の場合、精霊魔法だか、魔術なんだか、もう全然区別つかないって感じだよ。


 結局、魔導書の文字読めないから、基礎的な魔術の内容と言霊だけはレイノーヤさんに教えてもらって、メモしてあるけど……。


 連携練習の時には意思表示のため、それと偽装も兼ねて、【ウォーター】と口に出して叫んでみたものの、実際のところ、要らんのよ、そんなの。


 あの詠唱短縮ですら、アリエルに呆れられてるほどだ。人族では滅多に使える者がいないんだと。


 やっぱレイノーヤさんって凄かったんだな。いや、むしろ、当然か。あれも魔術じゃなくて、本家本元の妖精魔法だものな。いや、妖精の血を引くウッドエルフってことも関係してるのかな?


 俺のはと言えば、自分で勝手に精霊魔法とか、ほざいてるだけだもの。


 とはいえだ。スプライトにパチもんと言われこそしたものの、その威力に関しては呆然としてたくらいだ。おそらく魔法と言っても差し支えないレベルじゃなかろうか?


 しかも、一言であっても言霊を発声しなきゃならないのと、無詠唱で行使できるのでは、全くもって利便性が違ってくる。この便利さだけをもってしても、俺的には、もはや魔法だ。


 もし仮に、二つの属性魔術を同時に使って合成しようとした場合なら、間髪容れずに二つの言霊を続けて唱えたとしても、合成されるかどうかは微妙なところだろう。


 あ……後で、こういうのも検証しておくべきか。敵が使ってくる場合とか、味方の魔術師がどう動くかの想定としても。


 そうだよ。確実に二つの魔術を合成した結果を得たいのであれば、たぶんだけど、新たな魔術として詠唱呪文を組み直していかなければならないはずだ。


 でもそこも、無詠唱ならイメージ一つで、どうとでもできる。


 連携で使用したウォーターにしても、本来は水の球をぶち当てるだけの初級魔術だ。それが実際にはダイヤモンドも切り裂く超高水圧レーザーをイメージしたもんだから、さあ大変。結果は、あのとおり……もう全くの別人28号だ。


 問題はここから……もし仮に、複数の精霊を従えることができたら、魔法の合成もイメージし放題。それも二つに限らずって話だ。おっほぅ! 夢が広がるのぉ。


 思い起こしてみれば、虹色の園で勝手に発動したと思ってたあの儀式魔法──もしかするとあれも、精霊を鎮魂する手助けがしたいという俺の想いを汲んで、そんなイメージから発動しただけかもしれない。うん、そんな気がしないでもない。いや、ちょっと無理があるか。


 あのときは精霊の六属性全てだったから……なんだか凄いことになってたみたいだし。


 あの魔力をなんかの拍子に間違って、攻撃にでも使ってたらと思うと、ぞっとする。


 それこそ、アリエルじゃなくても、魔王認定まっしぐらだったろう。本当に何もなくてよかったぁ〜。


 しかし、そう考えると、ますます教会とは距離を置いておいた方がよさそうだな。


 目を付けられたら即、異端審問だとか言い出しかねないじゃん。


 今更ながら、アリエルのパーティーに参加しなかったのは正解だった。


 人間万事塞翁が馬、か……。ほんと何が正解で、何が不正解なんだか、死ぬまで……いや、所詮、死んでも人にはわからんのだろうからね。


 とはいえ、町についたら、教会の動向も少しは調べておいた方がいいかな?


 そうこうしている内に、壁らしき物が見えてきた。


「あれが町だ。最南端にある【クリークビル】のな」


「あれっ!? なんか思ってたより、ずっと」


「ふふん、まあ、行けばわかる」


 ん!? なんだ? ま、いっか、そう言うのなら。


 ふぅ、でもやっと着いたというか、もう着いちゃったというべきか、アリエルと一緒だと、そのペースに引っ張られて、ぐいぐい進んだ気がする。


 もしかして、この世界って、地球よりも重力が弱いのだろうか? いや、別にフワフワするような軽い感覚なんて無いんだよなぁ。


 ほんと、どうしちゃったんだろ?


 まあ、別に悪いことじゃないか。せっかくだ。この際、楽しめるだけ楽しむとしようじゃないか。ふふふ、なにせ異世界だもんね。


 さあ、この世界初の人族の町へ、行ってみようじゃないの!

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