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27話 熊さんがいるの? この森に

「なあ、アリエルって、勇者なんだよな? ところで、その勇者って、なに?」


「はぁあ!? なにって、何がだよ?」


「いや、あのな……えっと、魔王や竜を退治した称号とか? 職業的な役割とか? よく考えてみたら、こっちの世界の勇者ってのを全く知らないわけだからさ。そこんところ詳しく」


 こんな漠然とした質問に対し、アリエルは何から話したもんかと、一生懸命思案してくれたようだ。その間の仕草なんかも、なにげにかわいい。


「えっとな……事の発端は二十年ほど前だな。突如として【魔物】が発生したんだ。その影響は次第に各地へと広がっていったらしい」


 魔物に遭って死傷した者の親族、経済的な被害を被った者など、それこそ被害に苦しむ人たちが続々と【教会】へ殺到し、神の救いを求めたそうだ。


「最初は場当たり的な対処で済ませてたみたいだけどな。さすがに教会も十五年ほど前から本腰入れて、実行部隊を組織するようになったらしい。その顔となるのが、私たち【勇者】ってわけだ」


 武に秀でた者に対し、聖典に記された四大天使、【火のアリエル】、【風のガートエル】、【土のゴザイエル】、【水のマースエル】の名を授け、教会を代表して魔物討伐の任務に当たらせる──それが【勇者認定】制度なのだと。


 そう、アリエルというのは、本名ではなく、勇者名だった。なにかとはぐらかされて、本名は教えてもらえなかった……いいけど。


「勇者認定を受けると、まず、三種の神器の一つ、【破魔のネックレス】が貸与されるんだ。稀少な【ユニコーンの角】をペンダントトップにした、この首飾りをな」


 胸元を指さすアリエル。


 そう、昼休憩の前に、胸元から一度取り出して見せてくれたあのおっぱ……いや、首飾りだ。


「これって、教皇と勇者だけが身につけることを許された教会の秘宝なんだぜ」


 自慢げなアリエルの顔──うん、確かに秘宝だった。ピンク色のポッチが……いや、違う。


 それもそのはず。聞いた限りでも破格の性能なのだ。身につけているだけで、耐性や魔力を高めてくれるらしい。


 そればかりか、日頃から余剰魔素が勝手に蓄積されていく魔力タンクにもなっているようなのだ。しかも、それを解放することによって、なんと【神聖魔術】をも行使できるといった優れ物なのだとか。


 勇者はその後の活躍によって、銀白色の光輝を帯びた【聖剣】を、その次が【聖鎧】をと、功績に応じて順に特別な装備品が与えられることになっているようだ。どちらも金属にユニコーンの角を配合して鍛え上げられた絶品だという。


「あたしはまだ勇者成り立てで、破魔のネックレスしか与えられていないけどな。だから見た目じゃ、なかなか勇者と判断してもらえやしねえ。やっぱ世間的には、ど派手に輝く【聖剣】を帯剣した姿でもって、初めて一人前の勇者と認められるってことだ」


 唯一神【アーキア】を崇拝する教会──その威信をかけて、魔物の討伐任務に当たる勇者には、併せて【聖水】も支給されるとか。


 なんと! これもユニコーンの角から生成されていた……。


 いやいや、教会って、どんだけユニコーン頼りなんだよ!? なんでユニコーン教じゃないのか不思議なくらいだぞ。


 ん!? ……気のせいか?


「おい、そろそろ野営の準備するぞ」


 旅慣れた雰囲気で、アリエルがそんなことを言い出した。夢中になっていろいろと話を聞いてたから、知らぬ間に結構な時間が経っていたようだ。


 結構な距離、移動してたんだな。目的の野営地に、もう着いたのか。


 あ、さっきの違和感って、【幻影結界】を抜けたせいだったのか! 気のせいじゃなかった。


 そういや、なんとも変な感覚だったものな。まるで船に長く乗ってた後、陸へ上がった瞬間みたいに……逆に地面の方が動いているみたいな。


 あ……すると、幻影結界の正体って、三半規管を狂わす類の魔法なのか。


 まあ、魔法のある世界だ。こっちで暮らしていくには、こうした違和感を軽視せずに、ちゃんと用心するように心掛けた方がいいのかも。のほほんとしてないで、ちゃんと気を付けんと、いかんばい。


 それはそうと、【妖精の森】を抜けたってことでいいわけだよね? ははは、とうとう異世界第二エリアへ突入か。


「おい。野営の準備するって言ってんだけど……」


「あ、すまん。ちょっと考え事してた。で、なにすれば、いいんだ?」


「ん!? なにって? あぁ、そうだな。分担すっか。でも、まずは先に薪を集めちまおうぜ」


 屋外だもんな。確かに暗くなる前に、火の準備をしとかないと、いかんか。


「ここらはちょっと特殊だからな……水の方はあたしが──」


 この地域ではこれまで大きな川が見つかっていないらしい。これほど大きな樹木が育つには、それなりの量の雨水が欠かせないはずなのに。地中に吸収されてしまうのだろうか?


 先ほどまで歩いてきた、渓谷沿いに続いていた細い段丘面の下には、唯一、小川が流れていた。けど、さすがにあの深い谷底まで下りて、戻ってこれる場所が見つからなかったのだ。


「まあ、それでも、岩からの湧き水には事欠かないから平気だ。水の方は任せな。ここまで来る間にも、水を蓄えた植物が豊富に自生していたしよ。渇きを凌ぐだけなら、あれでも十分だろ」


 この地は現在、季節的には春先だという──それにしてはずいぶんと暖かな陽気に感じられる。まあ、東京と比べればの話だが。


 それでも、野外で一夜を過ごすとなると、さすがにまだ肌寒い感じか。夜は毛布に包まって横になるだけじゃ、さすがにやばそうだ。火を熾して暖を取る必要はあるか。ちょっと火の精霊が恋しくなってしまう。


 この辺りに魔物とかはいないようだけど……自然の豊かさゆえ、少なくとも生態系の方はしっかりしていそうだし。


「熊とかいるの?」って、アリエルに訊いてみたら、「ふふふ」と含み笑いを浮かべながら、思わせぶりに頷かれた。


 いっ……いるらしい、熊が。あの、熊が……いるのかよ!? 本当に?


 一度だけ間近で檻に入ったヒグマを見たことがある。あれは本当にやばかった……人が抗える次元なんてもの、遙かに超えていた。


 ジャラジャラと音立てる重たそうな鎖で繋がれているのに、涎まみれの牙を剥き出しにして、食らいつく感じで檻にぶつかってくるんだ。


 檻に組まれた何本もある鉄製のぶっとい棒が、まるで歪んだと錯覚するほど凄まじい勢いで。ガッシャン、ガッシャンと。


 相撲部屋で稽古してた280kg超えの△錦とかも見たことあるけど、それが可愛らしいマスコットに見えるくらい、熊は別格だ。


 生物としての格が、まるで違う。


 あれはやり過ごすとか、逃げるとか、そういったことすら絶対にできないレベル。身体を鍛えても、まるで意味を成さない。


 プロアスリート並みにどんな厳しいトレーニングを積んだところで、熊の一撃の前ではイチコロだ。それこそ遊び半分で繰り出されたひと撫でであっても、その鋭い爪で。


 同じ生物だというのに、あまりにも差がありすぎる。


 あんな恐ろこしい熊さんがいるの? この森に。


 ちょっとでもかわいくデフォルメしとかにゃ、怖くてしょうがねえっての。


 そういや、俺がびびりになったのって、あれ以来か……あれっ!? ん? これっていつの記憶だ? 思い出せねえ……。


「薪はこれくらいでいいか。この近くにはいくらでも葉っぱ落ちてるみたいだから、あたしの分も多めに集めといてくれ。ちょっと当てがあるから」


 そう言い放って、木々の間に消えていくアリエル……えっ、置いてくの!? 一人で行っちゃうの? まじか……。


 あぁ、精霊さん! どうか、迷える子羊……いや、この迷い人めを御救いください。


 いや、こうしちゃいられん。野生動物は火を怖がると聞く。襲われる前に、やるべきことを早くやってしまわねば!


 考え事してる内に、どうやら焚き火に向きそうな枯れ枝なんかは、アリエルが既に集めてくれてたみたい。


 さっき見つけて拾っておいたこの綿毛みたいのもあることだし。あと必要なのって、焚き付けに使うと便利だって聞いたことのある、松ぼっくりくらいか? どこや? お、あった。めっさある。


 よしっ! 火を熾こすぞ。アリエルのために。アリエルさんのために。大事なことなんで、二回言いましたよ。


 早く帰ってきておくれよぅ、アリえるん。


 心細いから、さっさと火を点けよう、っと。


 テレレ、テッテレー、火熾しグッズぅ! ……別名、た〜ぼらいたあ!!


 強風の時でも大丈夫! いつでもシュボォーッと逞しい音。着火に便利なターボライターだ。


 まあ、喫煙者の必需品だかんな。なんせ風の強い屋外じゃ、これが無いと、煙草一本吸うのもままならんときてる。


 うんだば、シュボーッと。


 おおっ! なにこれ? この綿、めっちゃ火が点きやすい!!


 絡みつけてた松ぼっくりにも、あっという間に引火しとるがな。……えっと、次はできるだけ細い枝から順に。……後は枝を格子状に組んで、と……おっ、熱っ! 結構、爆ぜるぜよ。うぉっ、痛っ!


 しまった! 枝は先に組んどくのが正解だったか? ……まあ、今更だ。とりあえず、火は広がったことだし、こんなもんでいいべ。


「おっ、もう焚き火できたのか? 火熾し得意なんだな」


 声をかけてきたのは、ドクドクと血が滴り落ちている野うさぎさん……いや、その足を引っ掴んで、戻ってきたアリエルさんだ。


「まだ心臓止まってねえから、いい感じで血抜きできてるだろ?」


 なんとも野生的なことを仰ってる。


 心なしか、吊るされた野うさぎさんと、なんか目が合うんだけれども。その首をあっちに向けては……くれないよね。


 いやいや、魚だったら、一匹丸のまま捌くのだって平気なんよ? けどね、さすがに動物を捌く機会なんて無かったから……。


 ブロック肉を切り分けるのならともかく、丸々一匹じゃ、皮とか内臓とかどう処理したらいいものやら、全くわからないもので。無駄にしたら無駄にしたで、「もったいない」って、アリエルに叱られそうだし。


 とはいえ、知らないまま放置するのも、なんだしなぁ。ここは訊いて覚えていくしかあるまいて。言っても所詮は、うさぎだしな。


「内臓って、どんな風に処理するんだ?」


「そうだなぁ。水場の近くなら、よく洗ってから丁寧に処理すると旨いんだけど。ここみたいに水場がないと、どうしても血が多少残るのはしょうがねえな。基本、野営中は心臓とか肝臓を肉から外さずに残したまま、串焼きにする程度かな」


 なんか意外! 料理慣れしてそう……いや、こっちだと、これくらい普通なんだろうか?


 勇者になる前から、チームで仕事をこなしてたみたいなこと言ってたし。勇者になってからもソロで活動してるらしいから、当然、料理だって自分でせざるを得ないか。


 にしても、普段は男勝りな言動ばっかだけに、料理とか適当かと思ってたら……まさかの料理上手だったりして。ギャップ萌えってやつですか? アリエルさん。


 ──その後、アリエルがなにかと準備してくれた。なんか悪いね。


 どうやら、うさぎ肉を火で炙って、しっかり焼けたところをナイフで切り落としながら食べるスタイルらしい──なんとも野趣溢れる感じだ。おぉ、いい匂い。


 旨そうなところを切り分けてくれた。


 湯気が香る。


 ふぅわぁ、わふわふ。うん、熱旨っ! 脂肪は少なめで、少しねっとりとした独特な食感だ。けど、噛むほどに赤み肉の旨味が口いっぱいに広がってくる。


 おっほぅ、野性味たっぷりの結構なお御馳走だのぅ。こりゃ、たまらん。


 結局、二人で丸々一匹、平らげちまった。


「ふぅ、お腹一杯。ごちそうさまでした。めっさ旨かったよ」


「この程度じゃだめか……」


「いやいや、ご謙遜を」


「お粗末さま」


 ほんと、なに言ってんだよ? まじで美味しかったっての……。

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