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23話 ほらっ、やっぱり、まだ小さいから

〔とある食堂の料理長 side〕


「だから、なんべん言ったらわかるんだい!? 料理は引き算。なにかを足してる内はまだまだ未完成なんだよ」


「でも、この旨みに、こっちの旨みも足したら、更に美味しくなるんじゃないかと思って……」


「あのねぇ、それは素人の言い分だよ。いいかい? よくお聞き。長所を伸ばすのに、別のもので補うことは大事さ。でもね。食材一つ一つが神の恵みで完成しているんだよ。本来なにかが足りないということはないの。それぞれが元々持っている良さが重なって隠し合わないように、余すことなく引き出してやるのが料理人の腕なのさ」


「でも、デメルには……」


「デメルはデメル。あんたはあんただよ。あんたはもうとっくに料理の引き算をしても、いい段階にきてるの。最近、何を付け足しても上手くいってないんだろ?」


「!」


「わかったら、もっときちんと食材と向き合いな」


「はい!」


 いつものように厨房で料理の準備をしていると、やつれた顔した人族が一人、食堂へ連れてこられた。


 聞けば、聖樹様の客だと言うじゃないか。それじゃあ、もてなさないわけにはいかないね。


 勘違いするんじゃないよ。今までだって、一度たりとも手抜きしたことなんてないからね。


 最高の手料理で、ぎゃふんと言わせてやるさ。


 とはいえ、特別扱いはしないからね。ここでは皆が基本同じ物を食う。そう、同じ物を。


 もうテーブルに何人分かは夜勤明け用の料理が用意してある。まずはそれでもお食べ。その様子を見て、好みの味に調節した物を後で出してやるから。


 そう思って、厨房で追加の料理を作りながら、食べる様子を窺っていると……。


 ふむ、いいね。なかなか美味しそうな顔して食べてるじゃないか。ふふん、どうやら気に入ったようだ。


 しかし、なんだい? 随分とお上品なやつだね。まるで宝物でも扱ってるみたいじゃないかい。一さじ一さじ、ご丁寧にまあ口に運んじゃって……。


 ありゃ、どういうことだい? 突然、泣き出しちまったよ!? でも、ありゃ泣き笑いなのかね? 随分と幸せそうな顔……するんだねぇ。


 ったくぅ、今までどんな生活送ってきたんだい?


 連れてきた若い子に訊いてみたら、これまたびっくり。まさかもまさか、たった四十そこそこの、子どもだって言うじゃないかい!? ほんとびっくりだよ。


「なんだってそんな幼な子がたった一人で、こんな里くんだりまでやってきたんだい? 親はどうしたのさ、親は?」


「いやいや、あれでも人族だと大人なんですってよ。図体だって、でっかいし」


「あん!? 大人だって? バカ言うんじゃないよ! どう考えたって、おかしいだろ。生まれて四十年そこそこで、何ができるって言うんだい? いくら身体が大きかろうが、幼な子は幼な子だろうに!!」


「だぁかぁらぁ、下賤な人族ってのは、動物と一緒で成長が早いんだって」


「知らないよ、そんなことっ!」


 もう訳が分からないよ。いったい周りの大人たちは、今まで何してたんだろうね。悲しいよ……悔しいったらないね。


 もう分かった! このおばちゃんに任せておきな。これからは美味しいもの、たらふく食べさせてあげるから。


 さあ、まずはこれだ。この子の体調を細かく観察し、これぞと思える味付けへ即座にアレンジした料理──それを山盛りで出してやったさ。


 そしたら、どうだい。あの子ったら、また丁寧にゆっくりと、それはそれは大切そうに一口ずつ味わって食べてくれたんだよぅ……すごくおなか空いてるだろうに。それでも丁寧に、時折、にっこり微笑んで、それはきれいに。


 ほら、あっちご覧よ。いつも来てる衛兵連中を……はあ、まったくぅ、呆れるねえ。あたしの料理は豚の餌じゃないっての!


 バカみたいな量をいっぺんに掻き込んで、ちっとも味わおうともしない。そのくせ、口先だけは旨い旨いなんて、軽くぬかしやがる。


 それに比べて、あの子ときたら、なんともまあ優雅だねえ。


 これじゃ、どっちが大人か分かったもんじゃないよ。


「少しはお行儀良くおしっ! あんたらそれでもウッドエルフなんだろ?」


 まっ、あんな連中、どうでもいいさ。今はこっち、こっち。


 ふふふ、まだまだいけそうだね。あはは、いい子だ、いっぱい食べるいい子だ。


 寸胴ごと持ってきてやったからね。どんどんお食べ。


「えっ!? いいんですか? でも、なんかあちらの人たちがえらく騒いでらっしゃいますけど」


 子どもがそんなこと気にするんじゃないよ。大丈夫大丈夫、心配要らないから。


 でも、周りを気遣えるいい子だね。気に入ったよ。


 衛兵たちのお代わりを、ちいとばかし減らしてやればいいだけだからね。


 あーやって文句を言うやつは、こうだ!


 なぁ〜に、味の良し悪しも分からないような馬鹿舌連中のだから、なんら問題ないさ。


 それよりも戻って続きだよ。寸胴から、どんどんお代わりを足してやったよ。盛りつける直前に、魔法で塩味をこの子向けに微調整しながらね。


 あーはっはあ、最後の方は、こっちも半ば、無我夢中になっちまったけどさ。


 おっと、こうしちゃいられない。明日の仕込みを、たんとしとかなくちゃね。


「みんなも、ちゃっちゃっと働き!」


 ふふふ、今から明日が楽しみさ。


 こんな気分で仕事をするのなんて、いつ以来だろうかねぇ。


 あたしもがんばっちゃうよっ!



 ──「ねえねえねえ、ねえったら、ねえ、聞いておくれよぅ! 今日良いことがあってね……うふふ」


「な、なんです?」


「あの子ったら、あたしのこと、なんて呼んだと思う? おねえさん、だよ!? おねえさんっ! お皿を下げにきてくれたときにさぁ、今日も美味しかったよ、おねえさんだって!!」


「いや、それって」


「あ、あたしだって、もう、子どもがお世辞なんて言うもんじゃないよとも言ったんだけどね。全然そんな感じじゃないの。ぬふふ、あたしをからかっている風でもないんだよぅ。にっこりかわいく笑って言うの、おねえさんって。うはは」


「あーー……」


「いや、あたしだって、分かってるんだよ? そ、そんなことぐらい。もう結構なおばちゃんだってことは……。自分でも自分のこと、おばちゃんって、思わず言ってることあるし」


 はあ〜、仕事柄どうしたってさぁ、この腰周りに付いちまった贅肉のせいで、どうにも貫禄がねぇ……。


「たっくぅ、いい年したおばさんが、人族ごときに、たぶらかされちまいやがって……」


 どこかでこそっと囁く声が、耳に届いたんだ。


「あん!? 今、なんてった? どこのどいつだい? 飯抜きの覚悟があるようだね。つうか、他人に言われたかないんだよ」


 まったくこいつらときたら……。これでも若い頃は引く手数多だったんだからね。ほんとだよ? ふふ。


「なっ……」


「ふふふ……なんだい、いいだろ? 思い出し笑いくらいしたって」


 人生楽しんだ者勝ち、なんだからさ。


 嬉しいときは笑う。楽しいときも笑う。悲しいときも笑い飛ばしちまうのが秘訣さ。


 本当に……なんかうちの子が小さかった頃を思い出しちまったよ。



 ──あの子が来てからずっと楽しい日常を満喫していた。


 いつものように厨房を忙しなく動き回っていると、突然とんでもない爆音が!?


 見習いのどいつが失敗して、何やらかしたのかと一瞬疑ったけど……違ったんだよ。


 食堂全体がひどく揺れてたからね。


 なにごとかと驚いて、勝手口から外に飛び出してみたら、こりゃまたびっくり。空が焦げてるじゃないかい……遠くの空が赤黒く……。


 ありゃきっと、ドラゴンのブレスだね。間違いないよ。


 いったいどこから? と、水魔法で辺りを見回していたら、広場の真ん中で、呆然と空を見上げているあの子が目に入ったんだよ。


 びっくりしたんだろうね、そりゃあ。怖かったんだろうね、きっと。


 あたしだって、びっくりしたくらいだからさ。


 そしたらどうだい、衛兵の奴らが勢いよく駆け込んできた、と思ったら──「なっ!?」──みんなしてあの子を押し倒したじゃないかい。


 風魔法全開で、慌てて駆け寄ったよ。


「なにしてんだい!? まったく。そんなことしてる場合じゃないだろ? 辺りを警戒おし!! この非常時に、ドラゴンに対処しなくてどうするんだい? さっさと里の外を見回りにお行き!」


「え!? ど、ドラゴン? いやいや、違いますって! だからこいつが犯人なんです」


「えっ、なんだって!? バカ言ってんじゃないよ。この子がどうしたって? あんたもう一度言ってみっ!」


「あ……いえ」


「そうだよ、分かればいいんだよ」


 まだやってる馬鹿がいたよ。


「ちょっとお前さん、だから、お前だよっ! なんでまだ取り押さえたままなんだい? 早くお放し!!」


「あ、ゼーレさん! ほらっ、やりましたよ。現行犯逮捕です。見てください」


「あんたねぇ、まだそんなこと言ってっと、金輪際、お代わりは無しにするからね?」


「えっ!? ……あ、はい」


 最後まで聞き分けのない衛兵をやりこめてやった。まったく遅いんだよ、今頃になって。


 ほんとに大丈夫だったかねぇ? あの子は。怖かったろうに。大の大人が寄ってたかって。まったくぅ。



 ──翌日も引き続き、なんか凄いことが起きたと噂になってたね。皆が皆、仕事も手につかない様子さ。


 更にその翌日、突然、あの子がこの里を出ていくだなんて言い出したんだよ。もうびっくり。どうしてだい?


 ああ、きっと一昨日のドラゴン騒ぎのせいだね。この里に居るのが怖くなっちゃったんだよ。ほらっ、やっぱり、まだ小さいから。


 くそっ、恨めしいドラゴンだね。


 奴ら、見つけたら、ただじゃおかないよ! かっ捌いて、ステーキにしちまおうかねぇ。


 もう少し時間さえあれば、ドラゴンのお肉を食べさせてあげられたかもしれないのに……。


 そう思っておろおろしてると、あの子が。


「いや、なに言ってんだい。今までのお礼だなんて!? そんなのいいんだよぅ」


 まだ子どものくせして、どうしてこんなにも律儀なのさ。もうなんていい子なんだろうねぇ。


 それにしたって、なにもこんな急いで出ていかなくても。あと百年ぐらいは面倒みてあげるつもりだったのに……そんなの早すぎるよぅ。まだまだ子どもだっていうのに。


 あっと、そんな場合じゃなかったね。こうしちゃいられない。


 急拵えの料理になっちまうけど、ご馳走作ってあげなくちゃ! そうだよ、保管庫から秘蔵の食材を引っ張り出してこないと。


 お弁当に汁系はダメだから……えっと、食べやすいもの、持ち運びやすいものと。


 待ってなよ。とびっきり美味しい弁当、ちゃっちゃと作っちまうからね。



 ──後から聞いたけど、聖樹様もあの子にたくさん食事を摂らせろと指示してたそうじゃないかい。


 ははは、やっぱり聖樹様だ。分かってるねえ。


「ほらっ、あたしが言ったとおりだろ! あの子はまだまだ子どもなんだって」

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