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19話 とにかく肩身が狭いのだ

 鶴の一声とは、まさにこのことか。


 滞在を許され、アリエルは客間へと案内されていった。


 あれだけ疲弊した様子のアリエルを前にしては、追い出す真似など、聖樹様にはできなかったみたいだ。さすがにお優しい。


 これで晴れて、俺の人間(?)証明も果たされたようだし、よかったよかった。


 俺に関しては、まだ居残るように申し付けられたので、少し身構えていたのだが……なんのことはない。今まで通り、念話の練習がてら、聖樹様とのあの甘い会話を続けただけだった。


 なんだったんだろう? いつもよりも妙に甘えた感じの声だったけど……。


 いや、それだけでもなかったか。まあいいや。


 それも終わり、今はここ数日使わせていただいている部屋に戻ってきていた。


 今日一日の出来事を振り返ってみる。


 そういえぱ、今朝は久しぶりに少し肌寒さを感じて目覚めた──というか、その時ようやく気付いたのだ。昨日までは、火の精霊さんが結界で暖めてくれていたのだと。いや、むしろ暑いくらいだったけど。


 早々に朝食を済ませ、いよいよ事前調査のため、レイノーヤさんと共に【エルフの郷】を後にした。


 正直なところ、聖樹様から依頼内容を聞かされた当初、いまいち精霊がどんなものかわかっていなかっただけに、大分びびっていたんだ。


 物語なんかで語られている精霊ってのは大抵、下手に怒らせたら、手が付けられないほど危険な存在に変貌するものが多かったから。


 いくら一匹ではおとなしそうに見えても、集団になると性質が豹変するかもしれないし。


 そんなの相手に、はたして俺に何ができるのかと。


 だけど昨日、精霊魔法を行使した後、精霊の扱いのコツを得て、火の精霊を昇華にまで漕ぎつけたことで、打って変わって気楽になった。


 これまでの精霊との交流でも、けっして危険な存在ではなく、それどころか俺にとっては、なんとも頼もしい存在であることがよくわかったから。


 なにせ里を出た途端、精霊ロスで不安に苛まれたほどだからね。そのときはうすら寒いのが温度によるものか、恐怖によるものか判断つかなかったけど……。


 再び、火の精霊を見つけてからは、ひと安心。魔法のコツを掴んだお陰で温度調節もできるようになった。今度は暑すぎるということもなく、快適にね。


 こうして散歩がてらの軽い気持ちで森林浴を満喫しながら、【虹色の園】へ向かえたというわけだ。


 でも、やはりレイノーヤさんは聖域への立ち入りを許されていなかった。どうやら別の用事を申し付けられているとのことで、聖域の入口手前でお別れすることに。


 一人、聖域に足を踏み入れてからは、あまりにも素晴らしい景色に惚けた。思念とも念話とも会話ともつかない、いつもながらの独り言をぶつぶつ呟いていた気がする。


 精霊たちに見惚れ、ごくごく自然の流れに任せていたら、あんなことになってしまった。


 なにがきっかけで、鎮魂の儀式魔法が発動したのかすら、今もってわからない。それでも、世界樹が担う輪廻転生の流れへ精霊を載せることには、どうやら成功したらしい。


 先ほどの謁見でも、アリエルが立ち去った後の念話で、『世界樹に棲むエルフで、さすがにあれに気づかないお間抜け者さんなんていないですよ』とまで聖樹様が仰られるほど、世界樹の周りを上昇していく精霊の流れがはっきりとわかったそうだ。


 実は、今回の件に関して、前々から迷い人の存在自体が発動キーではないかとの推測もあったようなのだ。


 ゆえに、少々危険が伴うことも想定しておかねばならなかったらしい。なんでも、強力な儀式魔法を稼働させる際、近くに居る者の魔素が吸われてしまう現象も起こりかねないのだとか。


 魔力に富む上位妖精ならそれでも問題ないが、ウッドエルフくらいの魔素レベルだと、最悪、魔素を吸い尽くされて、死に至るケースもあるそうだから。


 そうした儀式魔法の発動に伴う魔力同調リスクを踏まえ、念のためにも、虹色の園付近への立ち入りを他の者に許すわけにはいかなかったようだ。


『結果として、一人で行かせることになってしまって、本当に申し訳ありませんでした』と、聖樹様から丁重に謝罪された。これが、先ほどあの場に残るように言われた本当の理由だった。


 聖域とまで謂われるエリアに立ち入るのに、なんの案内もなく、部外者がただ一人で行かされるのは、どうにもおかしいとは思っていたんだよね。


 確かに聖域へ入ってからにしても、妖精にも全く出くわさなかったし。なるほど、そういうわけだったか。妖精さんたちまで全員避難させてたわけね。


 まあ、要らぬリスクなんて冒す必要ないものな。俺としてもレイノーヤさんに危険が及ばなくてよかったと思うし。


 とはいえ、実際にはその場に居たアリエルが平気だったことを鑑みると、そういった危険は無かったようだけどね。


 まあ、なんにしても、これで任務達成だ。


 やっとこれで、穀潰しの誹りを免れる。ようやく人心地ついたといったところかな。


 もしかすると、引け目のある、こちらの気持ちにこそ問題があるのかもしれないけど。


 とはいえ、実際なんの役にも立たず、働きもしない奴を養ってやる義理など彼女たちにはないからね。


 他にも心情的な問題があるし。だって、ウッドエルフは皆、見た目が女性ということもあって、この集落でたった一人、男の俺だけが働かないっていう情景を思い浮かべると、なんともまた情けなさが込み上げてくるんだよぅ……。


 自分がヒモにでもなったような気がしてならないの。ヒモならヒモで、身体でお支払いできるのならともかく……ああ、その手があったか! いや、だめだっての!! 今はその……アレがあれして、あれなんで。


 せめてこれが、もしもRPGの世界ならよかったのに。この集落がなにか怖ろしい動物や魔物とかに狙われていて、それから守ってやっているという状況でもあれば、少しは女の子たちに頼られて、心が落ち着く要素があっただろうけど。


 残念ながらというか、幸いというか、この【エルフの郷】は、至って平和そのものだから。


 つうかむしろ、俺よりバンバン動ける女の子連中ばっかだしな。


 とはいえだ。まあこれで、少しくらいはこれまでの恩義を返せたのではなかろうか? たとえ僅かばかりの返済であっても、返済皆無なのとでは、相手が受け取る印象はまるで違うはずだ……うん、そう思いたい。


 ただ、聖樹様の話によれば、精霊は今なお、虹色の園に向かって集まってきているそうだ。


 俺の仕事も無くなったわけではないということでもある。


 ただなぁ。今後も精霊が滞留する可能性があるというのなら、このまま、ただ待つだけというのもね。なんだか馬鹿らしいんだよ。つうか、俺の立場がフリダシに戻るのが非常にまずい。


 こうした対症療法ではなくて、その発生源がどこにあるのか、なにが原因でそうなっているのかみたいな、もう少し前向きで抜本的な対策に繋がる情報が欲しいところなんだ。


 精霊の現状を調べる旅に出るのも、悪くないかもしれないな。


 聖樹様はこの地の鎮守のお仕事をなさってる関係上、そうそうここを離れるわけにもいかないだろうし、俺が代わりに様子を見てくるのにも少しは意味がありそうだ。うん、ありだね。やはり様子を探ってくるべきなのかも。ついでに異世界観光も楽しんできたいし。


 そうだった、そうだった! 聖樹様にも『この世界に長居したいなら、いっぱい食べなきゃだめですよ』って、言われてたんだった。


 なんでも、肉体が希薄なのが関係しているらしく、『肉体を完全に失うと、もしかすると、こちらの世界では存在を維持できなくなるかもしれませんから』と教えてくれた。少なくとも、土地に縛られて動けなくなる可能性は高そうなのだとか。


 俺を妖精さんと同列に考えてくれているのかな? 嬉しいね。


 いや、単に地縛霊になって、この地に取り憑かれるのを嫌がってのことなのかもしれないけど……はは。


 ともかく、この世界に来てからというもの、すこぶる体調は良い。食欲も旺盛だ。


 いくら食べても満腹感は得られず、結構底なしでどこまでも食べることができてしまう。それこそフードファイター並みだ。かといって、それほど食べなくとも、空腹感に苛まれるということもない……なんとも不思議な感覚。


 肉体が希薄なんて言われてたから、食欲とか性欲とかも薄れるんじゃないかと気になっていたけど……。いや、逆か! 足りてないからこそ身体が求めているのかも!? うっ、だからか……。


 まあ、どこまでも美味しくいただけるから、文句はないのだけど……ただなぁ。もしもこれが自分で食費を支払うとなると、ちょっと恐ろしいことになりそうだけど。


 ただ、いい加減いい年なんだから自分の食い扶持ぐらい稼げるようになりたいしね。


 ここではそれって無理な話だ。何日かここで滞在していた感じからしても、この地で俺ができることなんて、もうそれほど無さそうだもの。


 精霊魔法があれば、なんとか俺でもこの世界で生活していけそうな気がする。


 今、思い返してみても、俺の旅の目的って、ほとんどが各地の旨い物を食べ歩くことが中心だった。この世界でも美味しそうな料理を探してみるのもいいかもしれない。なぜか希薄だと言われる、この身体を維持するためにも。


 日本のように食文化が発達していると良いけどな……まあ、どこにでも何かしら旨いものはあるはずだ。いや、名物に旨いものなしとも言うか。


 いやいや、この里のハイレベルな料理を思えば、むしろ期待大だろう。それに女の子のレベルにしても凄いわけだし。格別だ。ほんとこれで、ほんのちょっとでもデレてくれれば……ここにずっと居たいくらいなはずなのに。はあ、他の街に期待しよう。


 ただ、これから先、どのくらい精霊が存在しているのかもわからない。それが俺の生命線とも言えるから、念のため、慎重に行動した方がいいだろう。


 あれ!? ちょっと待てよ、おかしいぞ……精霊が存在しているところでは不死身って、聖樹様に言われたけど、でも、アリエルに叩きのめされたのって、鎮魂の儀式の後だ……精霊なんて全く残っていなかったよな? ん、どういうこと?


 不死身じゃないの? いや、不死身か。不死身の原因が他にあるのか!?


 まあ、なんにせよ、精霊に頼りきりってのは問題か。精霊が居ない場所での保険として、自分の魔素を使った魔術も覚えていかないとな。


 でも、魔物までいるという危険な世界にあって、肉体的な死とは縁遠いというのは、なんともありがたいな。気の弱い俺としては大助かりだ。


 見聞を広めつつ、一から勉強するつもりで楽しんでみよう。

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