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17話 寂しさが10上がった

 この世界にやって来てからずっと一緒だった火の精霊とのお別れ……まるで半身を裂かれたみたいだ。


 なんだか少しだけ肌寒くも感じる。俺って、こんなにもセンチメンタルだったっけ?


 まあ、年のせいで、涙もろくなってたのは事実だけど……。ほんと最近、ちょっとしたことで涙ぐんじゃうしな。ラノベ読んでても、結構頻繁にうるうる来てたし。


 それとも、たった一人、異世界へ連れてこられたのが、意外と心に堪えてたのかな?


 いやいや、でもですよ。これで、これでぇー。トュルル、トゥットゥルゥーッ!


『レベルが1上がった。タカシは精霊とのコラボ魔法を修得した! 寂しさが10上がった』


 うん、これからは君をこう呼ぶとしよう! より格調高く、精霊魔法と!!


『ふんっ、妖精魔法の、パチもんじゃない』


「あはは、まあ、そう言うなって。確かに、精霊さんの魔力が全てであって、俺の力なんて皆無なんだけどさぁ」


『えっ!? なに言ってんの?』


「なにって、なにが?」


『はあ……こっちが聞きたいわよ』


「なんだよ? いやいや、それはさておき、これでやっと我が輩も、件の魔法を手に入れたわけですよぅ。晴れて魔法使いになれたわけだ」


『ふん、言ってるそばから失ってるじゃない。もう使えなくなってるんでしょ? どうせ』


「えっ!?」


『えっ!? ……まさか気がついてなかったの?』


「あぁっ! 俺の精霊魔法がぁーっ!!」


『はぁあ!? なに? さっきまでがっかりしてたのって、なんだったのよ!?』


「いや、精霊さんが居なくなって、寂しかっただけだけど」


『……』


「なに?」


『……別に』


 そっか。早速もって、失っちまったわけだ。


 あちゃぁ、精霊さんが役目を終えて、天に召されちゃったってことは……火の精霊の加護も、今の俺にはもう無いってことか。


 丸裸同然……いや、布装備はあるには、あるけど。


 これって、やばくね?


 森の中で動物とか魔物に遭遇したら、美味しくいただかれちゃうんじゃね? いきなり死にそうな目に遭うとか、十分ありえるんじゃね!?


 これから調査で、【虹色の園】ってとこに出掛けなくちゃならんっていうのによぅ……。


 やべぇーす、はよ(?) いや、早く(?) ううん、せく(?) うん! こっちの方がかっこいいかな。


『急く、新たなる精霊よ、我が元へ集え! がっはっはーーっ!!』


 なぁーんてな。そんな都合よく、いかねえわな。


『いやいや、なんか森がすんごいことになってるわよ』


 森の至るところで鳥たちが一斉に飛び立ち、ギャーギャー騒いでる。


『えっ、うそ!? なになに、怖い怖い。今のは、なぁーし! キャンセルで』


『あんた、なにやってんのよ!?』


「いやいや、知らんよ、そんなこと。俺に言われても」


 はあ、なんとか治まったか!? ふぅ。


 こりゃ、どうにかして精霊さんを見つけてこないことには、心配で夜も眠れん……ん!? いや、それじゃ、いつもと変わらんか、はは。


 まあ、この集落にいる分には問題ないとは思うけど……。だ、大丈夫だよね?


『心配なの?』


「え!? うっ、いや、平気平気。さすがにここいら辺の安全は、しっかり確保されてるだろうから」


 広場であんなちっちゃな少女が無邪気に遊んでたくらいだしな。


 あんなにも小さな少女と同列なのが、なんとも恥ずかしい限りだけど……。


『そんなに不安なんだ……』


「いや、大丈夫だって。俺が無力なのは今に始まったことじゃないから。それよりもだ。ありがとうございました先生方! お陰様で無事、精霊との魔法制御も修得できたようです」


 レイノーヤさんはもちろんのこと、一応、スプライトだって、ちゃんと協力してくれたわけだしな。正直感謝しないでもない。


『なんですって?』


『いや、はい。してる。してるってば、ちゃあーんとさ。あんがとな』


『わかればいいのよ、わかれば』


「これも任務の内です」


 そう言って、いつも通り冷静なレイノーヤさん──それとは対照的に、突然『えへへへ』と機嫌を直し、にへら、にへらしてるスプライト。またなんか悪戯でも思いついたのか? 勘弁しろよな。


 俺にしても、期せずして、精霊を鎮める方法が判明したことで、どうにも笑いが抑えきれない。どうあっても笑みがこぼれてしまう。


 これでなんとか聖樹様のお役に立てそうな目途が……立ったと考えて、いいのかな? ふふふ。


『ふんっ!』


 あれっ!? またスプライトの機嫌がわろなった。なんでじゃろ? まっ、今日はずっとこんな感じだったか。


 それはさておき、レイノーヤさんって、講習が終わる度に毎回報告を上げている様子だったな。ちょっと頼んでおくか。


「どうやらこれで、精霊鎮魂の糸口が掴めそうな感じですかね? やっぱり早めに報告しておいた方がいいのでしょうか? なにせこの件は、聖樹様直々の依頼なわけですし」


「あ!! 早速報告に、行って参ります」


 あ、言葉のチョイス、まずったか?


 言うや否や、スプライトに瞬動の魔法を掛けさせるレイノーヤさん──勢いよく駆け出し、疾風迅雷のごとく、行ってしまわれた。


 手持ち無沙汰で、辺りを見回すも、あのかわいらしい無職仲間の少女は、もう……広場には見当たらなかった。


 まあ、結構な騒ぎだったものな。親が心配して、連れ帰ったのだろう。


 仕方なく部屋に戻ろうと思って、一人ゆっくりと歩き出す。


 あの騒がしいスプライトが居ないとなると、こうも静かに感ずるのか。


 しばらくして、館に着こうかという頃合いで、先ほどの勢いのまま、建物の中から飛び出してきたレイノーヤさんと危うく鉢合わせしそうになった。


「お喜びください。早速、聖樹様との面会が叶いました。お呼びがかかるまで自室で待機していろ、とのことです」


「ええ、了解しました。それと、なんか急かしたみたいで申し訳ありませんでした。お疲れさまです」


「いえ、こちらの方こそ貴重なご指摘感謝いたします」


 おっと、忘れるとこだった。


「あのぉ、この杖と魔導書、お返ししておきますね。本当にありがとうございました。貴重な体験をさせていただいて」


「はい、確かに頂戴しました。お役に立てて幸いです。では、私も準備がありますので、これにて失礼します。後ほど」


「はい、後ほど」


 なんかレイノーヤさん、心なしか会って一番の笑顔だったような。ちょっとはデレてくれたか? いや、ないな。


 それにしても、頭がぶつかりそうになって、とっさに掴んじゃったレイノーヤさんの肩……やっこかった。危うく胸揉んじゃうとこだったぜよ。


 さて、どうしたものか? いつの間にかスプライトも居なくなってたし。


 部屋に戻ってきたものの、相変わらず、なにもすることがない。


 とりあえず、窓を開けた。


 新鮮な空気をいっぱいに吸って、ゆっくりと吐き出す。ふぅ……やっと人心地つけた。


 はあ、ようやくだな。やっと俺が役に立てそうな目処がついた。精霊を鎮魂することができさえすれば、なんとか……。


 なんの成果も上げられないでじっとしているっていうのは、ほんと辛かった。端から見たら何もせずにいるのと変わらないから。


 これで、居候こと、ふうてんのタカさんから脱却できそうだな。まあ、住み込み従業員程度のジョブになら、クラスチェンジ可能だろう。


 結構、時間がかかったのか、そうでもなかったのか、ようわからんけど。


 手探りな案件だし、俺にしては相当順調な部類に入るか。


「案内の者が参りました。ご準備はよろしいですか?」


 そうこうしている内に、お呼びがかかった。先方の準備が整ったようだ。


「はい、大丈夫です。ただ今、参ります」


 いつもどおり、案内の方の後に付いて、レイノーヤさんと一緒に最奥の間へと向かう。


 聖樹様とのご対面は、これで三度目だ。


「聖樹様、ご機嫌麗しゅう。こちらからお呼び立てするような形になってしまったことをまずは謝罪いたします。そして、これまで受けたご恩に対し、なにも礼をお返しできないでいることを併せてお詫びいたします」


「ふふふ、いいのですよ、そんな些細なこと。それよりもなにか良いお知らせがあるのだとか?」


「はい。本日、会談をお願いしたのはまさにその件でございます。魔術演習中、期せずして火の精霊を鎮めることに成功いたしました。これもレイノーヤ嬢のご指導のお陰……いえ、ひとえに、そのレイノーヤ嬢を遣わしてくださった聖樹様のお陰にございます」


「まあまあ、随分と畏まっちゃって。でも、本当に良い知らせですね。ご苦労様でした」


 うん、自分の口から聖樹様に良い報告ができるというのはいいものだ。う〜ん、でもダメだったか。畏まった感じに報告したら、恐かっこいいバージョンの御声でお褒めいただけるかと、ちょっとは期待してたのに……。


『もぉう、やっぱり! そんなことだと思いましたよ。ふふふ、その手には乗りません』──「それにしても、随分と早かったですねぇ。少なくともあと十年くらいはかかると思ってたんですけど」


「へ?」


「……あらっ!? 人族にとってはそうでもなかったのでしょうか? ウッドエルフの子たちもせっかちさんが多いみたいですけど……。ああ、そうでしたね。そういえば、報告の中でも、あなたはそれに輪をかけたせっかちさんという話でしたものね」


「いやはや、申し訳ありません。ですが、聖樹様。失礼を承知で申し上げますが──」


 聖樹様に謝罪しつつも、こちらの心情を説明してみた。


 ねずみと象の喩え話でもって。


 小さな動物と大きな動物では、一生に打つ鼓動の回数は同じであっても、寿命は全く違う。小さな心臓の鼓動の方はずっと速くて、寿命はずっと短いといった感じの……。


「もしかしたら、我々お互いの鼓動も違っていて、時間感覚なんかも随分と違うのかもしれませんね」


「まあ、小さなねずみさん……ですか」


 少し陰が差した表情の聖樹様。


 婉曲な表現が多かったかもしれないが、どうやら、こちらの意図は伝わってくれたらしい。それにしても、この世界にもやっぱねずみっているんだな、通じたもんな。やつらどこでも増えるから、そりゃ、いるか。


 いや、哺乳類の祖先らしいから、人の祖先でもあるわけだ。ウジャウジャ増えるのは、人も一緒だし、確かに俺たちはねずみの血を引いてるのかもね。


 うっ、いかん。また話が逸れた。本題へ入るとしよう。


「ところで、先日ご依頼のあった精霊の事前調査の件ですが。もし問題がないようでしたら、明日にでも虹色の園へ赴きたいと考えているのですが、いかがでしょう?」


「ええ、それは構いません──けど、あんまり生き急がないでくださいね、ねずみさん」


 問題なく了承を得ることができた。最後に小さな声で耳に届いた聖樹様の悲しげな声が、妙に心の奥に響いた。


 でも、ゆっくりしてると、人はすぐ死んじゃうから……誰も彼も。みんな。いい人ほど。そう、いい人ほど。


 なら俺は平気だったな。ふっ、やれやれだ。



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