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16話 なんでもあたしのせいにしないっ!!

 このところ、遅々として進まない現況が悩ましい。


 原因はなんだ? 誰だ? 俺か? いや、あいつか? う〜む、両方だろうなぁ。


 どうにもあいつとは馬が合わないというか、妙に合いすぎて困るというべきか……。


 でも、今日こそは魔術、使います。


 と、決意を新たにした今日、もうこの世界に迷い込んで八日目の朝だ──この館でお世話になり続けて、なんともう七泊にもなる。ついに一週間を超えた……。


 こ、これって、やばくない?! なに一つ成果を出せてないってえのに、飲んだり食ったり。


 いや、さすがに居候の身で飲むわけにはいかないから、酒は飲んじゃいないものの、それでも食っちゃ寝、食っちゃ寝の毎日だもの。


 なんにしても、一生懸命に働いてる周りの連中からしたら、俺って、どうよ?


 最初からして、厳しい目を向けられてたわけですよ。ともすれば、差別的な発言まで飛び出すほどに。


 あれであってもまだ、聖樹様に招かれた客だという手前、幾分かは大目に見てもらえていたのだろう。


 それが、ここまで来ると、どうよ? 目障りでしょうや。絶対、うざったがられてるよ。


 特命ということもあって、張り切ってくれているレイノーヤさんは別にして。それに、なぜだかわかんないけど、食堂のあのムラムラするほどのお尻──略して、むっちりのおねえさんは別としても。


 ちょっと離れたところでは、常に嫌な雰囲気が漂っているのを肌で感じるんだ。みんな見た目が良いだけに、これがイヤんバカん的な雰囲気だったらさぞや良かっただろうになぁ。


 ま、まずい、まずすぎる。


 さっさと、やるべきことをやらねば……俺に割り当てられた仕事を。


 ということで、朝食後は、もう恒例となりつつある魔術講習の続きです。


 俺には火の精霊が付き従っているところから鑑み、昨日の段階でも火魔術への適性があるのではないかということになっていた。


 文字が読めないせいで、挫折しかけた火魔術の続きだ。


『ふんっ! よりにもよって、火とはね』


 なんかスプライトの機嫌が悪い。妖精にも生理とかあったりするのだろうか?


 ここは確認しとくべきか? これからいろんな妖精と出会うことになるだろうし。なにせ【妖精の森】へ出張っていく用事を控えてるわけだから。


 いや、今はだめだろう。機嫌が良くなった別の機会に、それとなく、な。


 んじゃ、そういうことで、続きだ。


 火魔術の呪文が載っているページを開き、改めて、魔導書の呪文をレイノーヤさんに読んでいただいた。それを地面に書き留めていく。


 広場の地面は土が剥き出しなので、こういうときに助かる。なんかこうしてると、子どもの頃を思い出すなぁ。


 ちょっと離れたところでも、昨日の女の子が地面にお絵描きを始めていた。ふふふ、俺の真似してるつもりかな?


 こちらも負けじと、呪文を一字一句間違えないよう覚えていく。


 ──うん、よし! なんとか覚えられた。


「お待たせしました。それでは、いってみます」


 えっと、まず、杖を構えて、っと……ゲーム映像なんかだと、こんな感じだったか?


 おっと、危ない危ない。近くにはちっちゃな女の子もいるんだ。万が一を考えて、杖は何もない空の方へ向けて、っと。


 よし、なんとか構えの方は、様になったかな。


 えっと……なんだっけ? あ、そうそう。


「浪々と彷徨い、哀悼に喘ぐ時は過ぎた ……明け仄の空を深紅に染め上げ、いまこそ咎を贖え、解き放て! 焔」


 おお、かっけぇーっ! 魔法陣、浮き出てきた、って、あれっ!? なんで杖の周りに? しかも、なんかちっさいし。


 レイノーヤさんの時と違う……。ううん。でも、いいよ、いいよ、ちっちゃくても。だって、初魔術だもん。


 ふふふ、淡い赤の魔法陣が意味ありげに、不規則に回転してる。超かわいいじゃん!


 お、身体もちゃんと光ってる、ピカってる! えっと、これが魔素なのかな? いや、ここまでくると、もう魔力に変換されてるのかな?


 よし、そろそろ頃合いか。もう観察の方は十分だろう。


 次は、魔術発動のキーワードとなる【言霊】、行っきまぁーすっ!


「【ファイア】」


 刹那、生じる轟音──辺り全ての酸素を飲み干すかのごとく巻き込みながら、紅蓮の炎が青空を切り裂いていった。


 後には……空気すらも焦げついたような臭いが鼻につく。なんだか、口の中までちょと苦い。


 遠くの方では、まだ大気が鳴動している。ゴゴゴゴッと微かな振動音がなかなか鳴り止まないでいた。


「や、やっちまった……」──なんか知らんうちに。


 あちこちの家々から飛び出してきた人たち──その様子が否応なしに視界へ飛び込んでくる。


 うっ、これは……まずい。


 てか!? どこで呪文間違った? もしや上級魔術だったとか!? いや、でもなぁ、レイノーヤさんに読んでもらったわけだし、間違えるはずは……。


「あ、お前か!? スプライト!」


『知らんわ! ボケ』


「だってぇ〜」


『なんでもあたしのせいにしないっ!!』


 あれっ!? 違った? もしかしたら、いたずら好きな妖精の仕業かと、鎌をかけてみたんだけど……。


 いやいや、どうせ火魔術に風魔法を上掛けしたりして、強化したんじゃねえの?! 違うわけ?


「ねえ、ほんとに違うの?」


『違う』


 うそん!? なんでぇ〜っ、どぉぼぉじぃでぇ〜っ、わかんなぁーい。誰かおせーて。


「うむ、ここは一つ。ご解説おねげえしやす! 先生」


「……」


 うん、レイノーヤ先生も停止中──完全に呆けております。


『ねえ、そいつのせいなんじゃないの?』


 スプライトが俺を指さした。


 んっ?! あ、こっち? ああ、こいつのことか!


 えっ!? これって、精霊の、加護の影響なの?


 うそんっ、すごくない?! 凄すぎじゃない?


 いやいや、限度つうもんが……。


『ほんと、バカみたいな威力よね』


 気合い入りまくりで、魔素こめすぎたのかな? いやいや、そうでもないよな……って、おっ!?


「あ、痛っ、いたたた。ちょっと、なに? なんですか? ……うっ!? 待って。押さえつけないで!」


 物思いに耽っているうちに、いつの間にやら衛兵さんと思しき人たちに取り押さえられてたみたい。


 と思っていたんだけど……更に辺りで、なにやら大騒ぎしてる人もいる感じだ。


 というか、押さえ込まれてて全然周りが見えないんだけど。耳も押し潰れてて、あんまよく聞こえないし……だから、ちょっとどころか、全然事情が飲み込めていない。


 もしかしたら、衛兵さん達って、猛然と抗議しにきた人達から俺を守って、盾になってくれてるだけなのかも。


 あはは、そりゃあ、当然怒るわな。里の人たちだって。民家の側であんな轟音をぶちかまされた日にゃあ。


 しばらくすると、誰かが……おそらくはレイノーヤさんが取り計らってくれたお陰だとは思うのだけど、単なる事故だとわかってもらえたようで、なんとか解放してもらえた。はあ、助かった。


 いやいや、そうじゃねえよ! 全然助かってねえっての!! なに一つ解決してねえじゃんか。


 おいおい、でも、これってば、無理くない?! 威力の調整とか、どうにかできるレベルじゃないっしょ。できる気しないもん。


 実験で検証していくにしろ、容易じゃなさそうだし。下手すると、ちょっとしたことで死人が出かねんだろ?


『ほんと、そうよね』


 うん、ここはやはり先達に教えを請おうじゃないか……もう、落ち着いてきたみたいだし。


「レイノーヤ先生、付かぬ事をお伺いします。妖精を介した魔法を使う際、威力を軽減する方法って、なにかご存じありませんか?」


「妖精に力を借りている時点で基本、威力の弱い魔法を行使するというのは、矛盾した行為でしかないのですが……。う〜ん、困りましたね………………」


 唸った後、黙ったまま、なにやらスプライトと見つめ合って……あぁ、そっか! これが魔法線を介しての会話なんだな。


 話し合いの結果、彼女ら二人でいろいろ試してくれることに。コツを掴んだら、俺にも教えてくれるそうだ。


 ──しばらく二人して試行錯誤してくれたのだが、結論としては、駄目だった。


『ムリね』


「無理みたいですね」


 妖精と契約者がそれぞれ魔素を少しずつ出したとしても、合わさった時点で、どうやっても相乗作用で魔力の効果が跳ね上がってしまうらしい。


「それが妖精魔法の真価ですからね」


 なんと妖精単独で行使する魔法よりも強くなるんだとか。


 それは単純な足し算とかではなく、累進的に威力が跳ね上がるように。


 妖精魔法以外でも、複数名で魔素を出し合う類の魔法・魔術もあるにはあるそうだ。やはり掛け合わせることで、威力を相乗的に高める狙いでもって。


 とはいえ、他者の魔素とはそうそう同調してくれないらしく、その関係上、超高等魔法・魔術に分類されているのだとか。


 実験の結果だけでなく、そうした理由もあって、同調系魔法はどうやっても威力を落とすことができないと結論付けたようだ。


「それでも、魔素を互いに極限まで制限した上で、魔法の効果範囲をかなり絞るように限定すれば、周りに被害が出ないようにすることも、ある程度はできそうです」


 まあ、スプライトみたいな妖精だったら話しかけて、こちらの意図を理解してもらえるわけだけど……。


『でしょ。あたしって便利なのよぅ。それはもう。あはは』


「なあ、スプライト。そもそも、精霊と話せるの?」


『さあね、どうだろ? あたしには漂ってるだけにしか見えないけど。うふふ、あたしの方が断然使えるわね』


 ふ〜ん、俺には、お前がただただ自分に、ただ酔ってるだけにしか見えないけどな。


『……』


 まあ、ものは試しだ、とりあえずやってみるか。


『えっと、精霊さん、精霊さん、火の精霊さん、聞こえますか? こちらは伊藤崇という者です。応答願いま〜す、って、あはは、やっぱ無理か。はは……んっ! なんか繋がっとる!?』


 おおぅ、へな……うひっ、へ、変な感じ。


 ありゃ、ただ自分の声が反響しているだけかな!? なんだか録音した自分の声でも聞かされてるみたいな違和感。


 でも、以心伝心!?


 おぉ、もう喋ろうとする意識すら、必要ないほど……。


 手のひらの上に、小さな火を灯す。


 呆気なかった。あはは。


 どうやって威力を抑えたらいいんだと、あれほど頭を抱えていた問題が、こんなにもあっさりと。馬鹿みたいなほど簡単に。


 心配する必要すらなかった。


 もう、なんていうの? 自由自在! 応用自在……おっ、そういや、子どもの頃、そんなシリーズの参考書使ってたっけ。なんか懐かしいな。


 あれ!? ああ、そうだよ。今更だけど、なにも別に、攻撃魔術で練習する必要もなかったんだ。


 結界魔術とかでも……でも、結界とかは複雑で難しい部類の魔術か。


 いやいや、もうとっくにできてるじゃん!


 これって、そうだろ? 火の精霊による結界。


 改めて、結界に魔素を注いで、明るく光らせてみる。


『げっ!』


 スプライトはあんな顔してるが、うん、相変わらずの安心感……なんかすんごく落ち着く。


 え!? ……ああ、そうなのか。もうちょっとで魔力が尽きるみたい。


 えっと、どうすればいいかな? あぁ、こんな感じでどうだろう?


 手のひらの上に火の精霊が来るよう、いざなう。


 残り少ない精霊の魔力を使い尽くすべく、ゆっくりと少しずつ空気を暖めていった。遙か上空に広がる蒼天へと続く、長い長い上昇気流の筒を編んでいくように。


 ふと、手のひらに視線を戻すと……役目を果たしたかのように、火の精霊は消えていた。


『今まで、ありがとな』


 いつまでも、空を眺めていたい気分だった。

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