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落ちこぼれサンタの贈り物

作者: 海野はな

 サンタクロースの町の外れに、トムという名前のサンタクロースがいました。

 サンタクロースの町にはたくさんのサンタがいるので、それぞれ名前を持っているのです。


 ある日のこと。

 サンタクロースの町では、サンタのためのお祭りが開かれていました。

 毎年クリスマスのあとに開かれるこのお祭りでは、たくさんの賞が発表されるのです。


 たとえば。

 一番たくさんの笑顔を作ったサンタには、たくさんの笑顔賞。

 一番大きな笑顔を浮かべた子供にプレゼントを配ったサンタには、大きな笑顔賞。

 一番多くのプレゼントを配ったサンタには、いっぱい配ったで賞。

 一番大きなプレゼントを贈ったサンタには、大きなプレゼント賞。

 一番時間通りに配り終えたサンタには、ぴったり賞。


 取るのが難しい賞から小さな賞まで、たくさんの賞があります。


 そして全ての賞が発表されたあとに、一番素敵な贈り物をしたサンタがベストサンタに選ばれます。

 ベストサンタはサンタクロース全員が目指している、サンタの憧れなのです。


 サンタのお祭りが終わると、トムサンタは町の外れの赤い家に戻ってきました。


「あ~。今年も何ももらえなかったよ」


 相棒のトナカイを撫でながらがっくり肩を落とします。


 トムサンタはもう長いことサンタクロースをやっています。だけど一度も賞をもらったことがありませんでした。どんなに小さい賞も、なかったのです。


「僕はやっぱり、サンタに向いていないのかな」


 トムサンタは優しいサンタクロースで、子供たちに素敵な贈り物をしたいといつも頑張っています。

 だけどどうしてか、失敗ばかりしてしまうのです。


 クリスマスにプレゼントを配らなければいけないのに、慌ててクリスマスの前に配ってしまったり。

 逆に寝坊して遅れてしまったり。

 足を滑らせて煙突から落ちてしまったり。

 違うプレゼントを渡してしまったり。

 プレゼントをそりから落としてしまったり。


 子どもたちに笑顔になってほしくて選んだのに、欲しかったのはこれではなかったと泣かれてしまったこともたくさんあります。


「もうサンタをやめたほうがいいのかな」


 トムサンタは悩んでいました。



 そんなある日のことです。

 トムサンタに子どもから手紙が届きました。


『サンタさんへ

 ぼくはプレゼントは何もいりません。

 だから、どうか、弟を元気にしてください。』


 トムサンタはびっくりしました。なぜなら子どもたちからのお手紙は、ほとんどがほしいものが書いてあるからです。プレゼントは何もいりません、とはどういうことでしょう。


 トムサンタはその子のところへ、様子を見に行きました。その子はお父さんと一緒に家にいました。だけど弟の姿がありません。

 トムサンタは弟も探してみることにしました。すると、弟はお母さんと一緒に病院にいました。具合が良くないようで、横になっています。


「これは困ったなぁ」


 トムサンタは頭を抱えました。

 落ちこぼれの、出来が悪いサンタであるトムサンタは、弟を元気にしてあげることはできません。

 トムサンタでなくても、いくらサンタでも完全に元気にしてあげることはできないのです。


「願いは叶えてあげたいんだけどなぁ。いや、もしかして……」


 トムサンタは必死に考えました。

 もしかしたらお兄ちゃんのプレゼントに使うはずの力を使えば、ずっとは無理でも、少しの時間だけなら元気にしてあげることができるかもしれません。



 トムサンタはクリスマスの日、そのお兄ちゃんにプレゼントを届けませんでした。

 代わりに少しの力を弟に届けました。



 クリスマスが終わり、サンタクロースの町では、その年のサンタのお祭りが始まりました。

 小さな賞から順番に発表されていきます。


 トムサンタは今年もどうせもらえないだろうと思っていました。そして、もうサンタクロースはやめようかなと思っていました。


「それでは今年のベストサンタを発表します」


 わーっと歓声が上がりました。どうやら発表されたようですが、トムサンタはうっかり、ちゃんと名前を聞いていなかったので、みんなと一緒に拍手をしました。するとなぜか周りのサンタたちがトムサンタを前に押し出します。


「おめでとう、サンタクロース・トム。今年一番の、素敵な贈り物でしたよ」

「えぇっ? 僕ですか!?」


 周りを見ると、たくさんのサンタクロースの仲間たちがトムサンタに拍手を送り、讃えていました。


 トムサンタは信じられない気持ちで家に帰ってきました。そしてもらったトロフィーを飾ります。

 だけど、本当にこれでよかったのか、トムサンタには自信がありませんでした。


 トムサンタの前にはトロフィーがあります。だけどあのお兄ちゃんには何も残っていないのです。

 子どもたちはみんな、サンタクロースからもらったおもちゃで遊んでいるのに。

 おもちゃも、ゲームも、お兄ちゃんのところには何もないのです。



 それからしばらくして、トムサンタに一通の手紙が届きました。

 あのお兄ちゃんからでした。


『サンタさんへ

 弟が一日だけ元気になったので、弟が行きたいと言っていた水ぞくかんに行きました。

 とても楽しんでいました。

 弟はお空に行ってしまったけれど、その前にいっしょに行けてよかったです。

 サンタさん、すてきなプレゼントをありがとう。』

 

 手紙と一緒に一枚の写真が入っていました。

 そこにはお兄ちゃんと弟が並んで映っていました。大きな水槽の前で、二人とも大きな笑顔を浮かべています。


「そうか、僕の贈り物は、笑顔にすることができたんだね」


 トムサンタも笑顔になって、トロフィーの前にその写真を飾りました。






 さて、このお話には続きがあります。


 トムサンタがサンタクロースを続けていると、ある日、家の戸がノックされました。

 そこにいたのは、あの弟でした。


 弟はお空に行ったあと、サンタクロースになりたいと言ってここに来たのでした。

 すてきな贈り物をもらったから、今度は自分があげるのだと言います。

 今はトムサンタの弟子になって、お兄ちゃんに何をプレゼントするか、悩んでいます。


 弟が選んだプレゼントです。きっと、あのお兄ちゃんは何をもらっても喜ぶでしょう。


 トムサンタはもうサンタクロースをやめようとは思っていません。

 きっと今年のクリスマスも、あのお兄ちゃんを笑顔にすることができると思っているからです。

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― 新着の感想 ―
拝読されていただきました。 クリスマスにふさわしい優しいお話でした。
とても優しいお話なのにとてもとても切なくて、でもやっぱり優しくて、読みながら泣いたし読み終わってもっと泣きました。 最近、悲しい話よりも優しい話を読む時のほうが泣くことが多いのですが、このお話は両方で…
泣けますね。私事ばあばサンタは今年の贈り物を何にするか、大変悩みました。トムさんのように形に残らなくても、心に残るものって、とても素敵だけど、難しいですよね。
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