話し足りないまま店に着く
「そんなことはありませんよ。希望者が多くて大変です。募集するときも大変でしたが、募集してないときでも働かせてくださいと人が来ます」
「ははは。そんな奴は問答無用で不採用だ」
「ええ」
「新人は4人ともやめてないよな。今回は優秀な気がする」
「お嬢様との相性が私共も分かってきましたので」
「ふーん」私自身にはその相性というのは分からない。
「先輩との相性ってなんですか?」横の生徒が質問した。
「ちょっと待った」私は言った。「私が聞いてもいい奴?」
メイドがしれっと言う。「あまりよくないですね。こういう人が相性がいいですと聞くと意識してしまってお嬢様は反発するでしょう?」
「う」
「あはは」生徒が笑った。「どんな人が相性がいいんですか?」
メイドは生徒を見て、それから私の顔を見た。ここで私が言えと命令すればもちろんメイドは答えるだろう。ただ、こういうときに命令したとしても本当のことを言うとは限らない。私のためにならないと判断したら嘘を言うこともあるからだ。
色々迷ったけど、「参考までに聞いておきたいな」と私は言った。
「気が弱いのは駄目ですね。従順すぎても駄目です。お嬢様が好きじゃない方がうまくいきます」
「あー」無難な答えだが納得できる。その理由ならそんなことないと私も反論したりしない。「歴代のメイドにはいたね。私のこと大好きメイド」
メイドは頷く。
そうは言っても彼女もさっき大好きですって言ってきたわけで、話としては矛盾している。私と彼女の間ではこの矛盾も含めて話が通じているのでそこより深くは聞かないけど。
横にいる女生徒は元気が溢れている様子で、夜の街を歩きながらスキップでもしかねない。「ギュキヒスの人を採用するんですか?」
私の方で答えた。「地元の人間だと私のことが好きか嫌いかのどっちかだから、地元採用は無理なんじゃないかな。それでレシレカシまで来て働きたい奴なんてやばい奴しかいないでしょ」
「そんなことないですよ」とメイドが言う。「本家の中からこれはという人材を引き抜いたりもしています」
「へー」「へー」
私と女生徒が同時に相槌を打った。
女生徒の質問はそれから私の服についての話に移り、私とメイドが2人で質問に答えていった。
私としては質問されるよりも質問したい気持ちが強かった。特に30人の中でたった5人の男子生徒の参加者が気になる。こんな状況でどうして参加しようと思ったのか。そもそも女子だけの昼食会で出た話なのにどのように声がかかったのか。
5人は男子だけで固まりつつ、しかし同性とだけ話すというわけでもなく周りの女子とも自然に会話している。多分、全員が私と寝たことがあると思う。そして記憶が確かなら、私が筆下ろしをした相手は1人だけで、他の4人は別の女性と経験済だった。
おーい、元気してた?と全員に話し掛けたかったが、移動ではそんなに時間がなく、声を掛けるより先に目的地に着いてしまった。
レシレカシ繁華街にあるダンスホールつきの酒場である。建物は私も知っていた。
建物周辺にも人がたむろしていて、辺りは猥雑としていた。入場規制も発生していたようだけどまったく問題なく入れた。レシレカシの女生徒30人にザラッラ゠エピドリョマス付きとくれば入れなかったら入場を止めた奴のクビが飛ぶレベルの上客である。私たちは胸を張って堂々と中に入った。




