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魔法使いザラッラ  作者: 浅賀ソルト
“評価不定”の2つの自立
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最初の面会人

 馬車は板発条いたばね塔の行列から離れた入口の横に直付けされる。下りると外に見られないように中に通される。それでも見られるので、行列とは関係ない見物人がザラッラ様ーと手を振ってくる。本来は構内は関係者以外立入禁止なので手を振ってくるのは生徒がほとんどである。

 最初は懐かしさもあって手を振り返したりしてたんだけど、最近は面倒になってやめた。とっとと中に入って中庭部分を通り抜けて面会室に行く。板発条塔は高さが10メートルくらいあるが天井の高い1階と天井の低い2階しかない二階建となっている。実用性の低いデザイン重視の塔だった。ずらして重ねた板をさらにずらして並べた壁になっているので——見た目通りの構造ではなくそう見えるだけのデザインだそうだ——1階を歩いて移動するだけでも方向感覚が狂う。あまり使われてないのも納得だ。しかしここを面会室に使っているので偶然選ばれたここのデザインが私のシンボルになりつつある。自分としては何かもっと別のものを用意してこの三角形のイメージを消したいんだけど、印象的なので上書きも難しいかもしれない。

 メイドと共に面会室になっている三角形の部屋に入る。天井が高いのは私好みだ。中には私が座る椅子と、面会人——というか患者——が座る長椅子がある。面会人はほとんどが複数なので長椅子になっていた。中に仕切りはなく、待機する空間はない。外で並んでいる人が1組ずつ入ってくる仕組みになっていた。床は板張りで、これも意匠になっていた。三角形に切ったタイル状の板が並んでいる。三角形の部屋の床としては妥当かなと思う。ちなみに扉は三角形ではない。普通の木の四角のドアである。2階のドアと窓は三角形で、これは最初の見学のときに見せてもらった。

 私は扉を背にした三角形の1辺の中央に座り、面会人は反対の角に座るという位置関係になる。メイドは私の横に立っている。外の扉の横には受け付け係の女の子がいる。レシレカシには兵士とか衛士の類がいないので、そこにいるのは雇われたただの市民である。要するにバイトの子だ。なんとなくだけど雰囲気で中退した元生徒ではないかと思った。

 私がうなずいて合図すると、受付の子が外の扉に向かって「最初の人、入って」と言った。

 女性が2人入ってきた。若い女性とその母親くらいの女性だ。顔は似ていない。髪が巻き毛で黒く、目力のある化粧をしている。2人とも体型は大柄で栄養は摂れてる感じだ。

 2人は部屋に入ってきて私を見ると初手で手を合わせ床に膝を付いて拝み始めた。感激して半分泣いている。「おお……」と嗚咽を漏らした。

 この拝み方と化粧の仕方から西のリャワニュとかあのあたりの人だなと私は見当をつけた。片道15日くらいかかる。物理的距離ではなく関所のせいである。

「ありがとうございます。今日はあなた様との拝謁が叶い、恐悦至極に存じます。このような美しい方だとは思わず、その姿に震えております」年上の方の女性が言った。もちろんお世辞もあるのだろうけど、半分は本当に感動しているように見えた。

 こんなノリなので診察室ではなく面会室なのである。

 レシレカシのこのあたりの市民にとってはギュキヒス家ナニソレという知名度なので、もちろん私も有名人ではない。西なら尚更だ。相手が私を知るのはあくまで私の魔法の噂を聞いてのことだ。どういう噂を聞いたのか知らないけど、かなり盛られてそうだなと思った。


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