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魔法使いザラッラ  作者: 浅賀ソルト
“評価不定”の2つの自立
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浮遊本陣の下降移動

『光線』を受けた魔法部隊が撤退していってるのは私にも分かった。探知に引っかかってからは、どういう仕組みか分からないが『位置通知』の魔法が定期的に発動していた。その位置が丘の向こうへと移動していた。

 この魔法は帝国時代にもあって、神話や民話、そのほかの魔法使いが出てくる物語にもよく出てくる。なくしものをした魔法使いが『探知』でそれを探すエピソードもあって便利魔法として今でも重宝されているが、一番有名なのは子供が魔法使いの貴重品を忍び込んで盗んだら居場所がバレて延々と追いかけられるというストーリーの『魔法書どろぼう』というお話である。『魔法書どろぼう』は結局、ほかの魔法使いの魔法書と入れ替えておっかない魔法使いを子供が出し抜くという話なので、被害者である魔法使い側の人間としてはもやもやするお話ではあるが、それでも子供のときに読む話としてはよくできている。私も好きだった。

 話が逸れたが、そんな『探知』と『位置通知』をこんな風に使うという発想はなく、さらに罠として組み込むとか、これを作った魔法使いは腕は確かだが性格はよくないなと私は思った。

 誰とはなく、「これで終わりですね」という声がした。魔法部隊の位置が丘の稜線を越えて向こうへと離れていた。

 レシレカシ側が自慢せず、相手国側でも騒ぎにならなかったので話題にはならなかったけど、一応、この出来事は、あとで『ニャミャチ峠の迎撃』という名前で記録に残された。

 私は欠伸あくびをした。早朝の奇襲があるということで夜明け前からみんなで移動したんだけど、日が昇る最中のまだ朝の時間帯には終わってしまった。帰って寝直した方がよさそうだ。

「浮遊本陣を下ろします。乗っててもいいですが、不快な人は自分で先に下りてください。狙撃などあるかもしれませんので防御結界は残したままでお願いします」

 事務員らしき人の声が聞こえた。狙撃の注意のときはみんなから笑い声が起こった。

 もう私から身体を離して手をつなぐだけに戻ったネゾネズユターダ君が、「どうする? 飛ぶ?」と聞いてきた。私は浮遊魔法は使えないので使うなら彼に頼むことになる。

「んー、乗ったまま下りてみる」

「分かった」

 周囲の教授、教官、見学の研修生や助手の多くは自分で飛んで下りている。『浮遊』とか『飛翔』のほかに、わざわざほうきに魔法をかけてそれにまたがって下りている生徒もいた。人とは違う移動方法をやってみせてマウントを取ろうとする、レシレカシの魔法使いにありがちな振る舞いである。その中でもまったく事前の詠唱なしで高さ100メートルの浮遊本陣からダイブした生徒がいて、さすがに周囲がどよめいた。最初は、もともと落下事故防止用でこの場面に最適な『浮遊落下』を唱えるのかと思ったが、その魔法使いは魔法で上昇気流を作り出してそれを生成した結界の壁で受けるという離れ業で着地していた。

 何人か、見学で参加していた若い魔法使いが怪我をしたという報告があったあと、そろそろ下ろしますというアナウンスがあり、浮遊本陣が地面に下ろされた。残ったのは10人くらいだ。

 ふっと地面に向かって移動が始まるとみんなが「おおっ」と声を出した。私も出た。ネゾネズユターダ君も小さく声を漏らした。

 これは確かに快適ではないな。私は思った。

 なんかすごく不安定な感じ。

 私はネゾネズユターダ君の手を握るだけでは安心できず、胴体に手を回した。いざとなったら飛んでもらおうと思った。

 浮遊本陣の板の床はふゆーんと動き始めて、終了のときもふゆーんと停止した。動き始めと動き終わりがなんだかすっごく不愉快。面白いけど何回も体験したくない感じ。

 下に着いてから簡易階段を使って安定した地面に到着すると力が抜けた。

 馬車に乗るとそこからはレシレカシまで寝た。いつかの移動と違って衝撃吸収の魔法のかかった馬車の中は横になって寝るのになんの支障もない。


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