警告のようなもの
「とりあえず魔法部隊の方には警告を打った上で、歩兵部隊の方を行動不能にしましょうかね」「そうですね。そうしましょう」「誰がやります?」「警告は私がやります」「では歩兵の方は私が」
私から離れたところでそんな会話があって、レシレカシの魔法使いの中でも中堅っぽい20代30代の魔法使いが杖を出した。指揮棒のような杖で、小指より細く、長さも広げた手の親指から中指までの長さしかなかった。
魔力探知があった方には何も見えない。森の木しかない。中堅の魔法使いは杖を向けると『光線』の魔法を唱えた。杖の先端から朝の光の中でもはっきり見える白い糸のような光線が出て、山の森の一点を示した。授業でも遠く離れた一点を示すときに使う無害な——直接目で見るとかなり危ないけど——魔法だ。警告としては確かに分かりやすい。位置は把握しているぞというアピールとして間違いないだろう。それにしても『光線』の有効射程距離は10メートルくらいのはずなのに、この魔法使いの『光線』は数キロの距離をほとんど減衰せずに飛んでいる。地味だけど高度な技だ。
歩兵を担当すると言った魔法使いも同じように地味な杖を取り出した。魔法に指向性を付与するだけの研修用の杖だ。レシレカシの魔法使いは基本的にこの杖しか使わない。
歩兵が現れた盆地の端は浮遊本陣のある場所から一番遠い。行動不能といってもどうするつもりなんだろうと私は思った。火の玉や電撃を高い出力で出せば届かないことはないかもしれない。しかし力加減ができないから、確実に効果を出そうとしたら皆殺しになってしまう。水や土、金属といった質量による攻撃も、飛ばすことはできてもこの距離だと加減が難しい。
私は物理魔法には詳しくないから、こういうときにどういうテクニックを使うのか分からなかった。
さて、正解は、正確な座標指定による結界の生成と、その中への麻痺毒の充満であった。
ものすごく遠く、豆粒より小さいところに黄色い球が現れて歩兵たちを飲み込むと、その球の外側にいた蟻のような歩兵たちがちりぢりになった。大学の先生たちはその魔法の方を見て、「ほほう」「これは見事ですな」などとお互いに感想を言いあっている。球が消えると中の黄色い煙は風に吹かれて薄まり、その中で倒れた兵士たちの姿が小さく見えるようになった。
ここまでで分かったかもしれないけど、レシレカシの魔法使いは他国であっても同じ魔法使いには甘く、魔法の使えない人間には冷たいところがある。魔法使い同士に親近感があるのだ。とはいえこれはちょっとしょうがないところがある。私たちは魔法使いなので魔法使いとして生きてきた。そうじゃない人間とは違うという感覚は捨てようとしても捨てられない。そもそも普通の人が私たちを普通の人間とは思ってくれない。




