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魔法使いザラッラ  作者: 浅賀ソルト
“評価不定”の2つの自立
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高見の見物

「ハンセン病って私の分野じゃないじゃん。別に治せるからやるけど地方の医者は何やってるんだって話だよね」

 私が上空100メートルからの風景を見ながらの愚痴にネゾネズユターダ君が同意した。「トリアージが必要だよね」

「ほんとほんと」

 周囲に立っているおっさんたちは聞き耳を立てているが会話に混じってはこない。

「それで、どんな状況?」私は強い風に目を細めて言った。

 現在、私とネゾネズユターダ君が立っているのは空に板を浮かべた浮遊本陣である。狭いわけではなく、広さは1辺20メートルの正方形で学校の教室より広いくらいだ。そこに今回の戦争に対応することになった教師だの教授だの役員だのが20人くらい集まっている。そのほかに見学者や助手などがいるのでまあまあの人数だ。

 私とネゾネズユターダ君、そして御付きのメイド2人は距離を取られて、その団体の水の中に落とした油みたいになっている。

 私は学校の中で名義上の上司であるジョジョシュ主任を見つけてそちらに寄っていった。周囲の人間が割れていくけどジョジョシュ主任とその周りの人間はさすがに逃げなかった。

「こんにちは。ジョジョシュさん」

 彼は私の顔を見て嬉しそうに笑った。「おお、ザラッラ゠エピドリョマスくん、よく来たね」

「まー、私が役に立つこともあると思いまして」頭をポリポリと掻く。

「ありがたいよ」

 ジョジョシュ主任が手を出したので私はそれを握った。主任は次にネゾネズユターダ君にも手を出したので、彼も握手をした。主任はネゾネズユターダ君にもお礼を言った。

 招かれたのは私だけで、空中浮遊の魔法とか私は使えないのですでに役には立っているが、主任が彼によく来てくれたと言う必要は本来はないはずだった。これがお愛想なのか、そもそも彼とセットで招待されたのか、判断つかなかった。

 ジョジョシュ主任との会話は続くのだけど、その間に、私は浮遊本陣にいるゲストの中にニブスベ調整官の助手がいるということをメイドに教えられた。そもそもニブスベ調整官というのが誰だって話なんだけど、これは私の実家であるギュキヒス家から出向してレシレカシ魔法学校の役員の一人として働いている男である。教育とか研究のことにギュキヒスは金は出しても口は出さないという立場を守っているが、大学の運用において政治的なトラブルを起こさないように、そこには口を出すために人を送り込んで役員の一人として働かせている。それがニブスベ調整官で、そいつは偉い立場なのでわざわざこんな現場には来ない。現場に来ない偉い人の代わりにその助手が来ているということだ。

 なんで戦争なんてものになってしまったのかよく分からないけど、うちの実家の役員がいて学校の運営方針の調整をしていても、今回のことは避けられなかったということである。

 私が役に立つよりはそういう出向役員の方が実務でサポートしてくれるとは思うんだけどねえ。

 浮遊本陣というのは当たり前の存在ではなく、今回、魔法学校の人が試しに作ってみた試作品である。要するに物見櫓ものみやぐらを空中に浮かせて全体像を把握しようという試みだ。レキシカシの教授たちは戦争などしたことがないので何をどう用意すればよいのか分からない。とりあえず全体像が分からんと話にならんということで軍が展開している盆地を見渡せる山間の上空100メートルに板を浮かせただけである。

 どのくらい戦争が分からないかというと、攻撃してきた向こうの兵士に対してこちらは軍隊の用意が無いというくらい分かってない。まあ、レシレカシは元々軍隊があるわけじゃないので対応できないんだけど。というわけで向こうの歩兵が突撃とかしてきても、迎え撃って衝突し人馬がぐちゃぐちゃになるとかそういう場面にはならない。

 戦争のアドバイザーとしてはそれこそニブスベ調整官とか外部の役員が対応してくれてもよさそうなものなんだけど。

 じゃあみんなで何をしているかというと、この盆地を攻められるということで、朝から見学に来たというわけである。それで本当に、レシレカシに編入されたこの盆地を奪い返そうと軍が派遣されたのなら、『火の玉』なり『雷撃』なりを放って追い払ってやろうという計画である。

 いいのか、そんなんで。

 私はジョジョシュさんに状況の説明を受けた。レキシカシは山の中にあり、その周辺部もほぼ未開拓の丘陵きゅうりょう地帯である。それでも緩やかな地形もあって、目の前にある盆地はそんな地形の1つだった。川が右から左に流れていてその川に沿って山間に盆地があり、家と畑の里が見える。結構広い。人口が1000人弱はいるんじゃないだろうか。軍が現れるとしたら右の川上の奥の方だと指を差して教えられた。奥に向けても標高の低い丘がうねうねと続いているが、そう言われると遠くその奥は豊かな土地のように見える。攻めてくる奥の国の名前はショショグレというそうだ。まだ軍は現れていないがそのうち川上の峠を越えて村に現れるはずだという。

「国の名前が似てますけど、ジョジョシュ主任となんか関係あるんですか?」

「ないよ」主任は笑顔もなく普通に訂正してきた。「このあたりはシュシュとかショショとかジョシュか、そんなんばっかりだ」

「主任って地元だったんですね」

「地元っていうか、両親はレシレカシ移住組だね。私自身はレシレカシ生まれのレシレカシ育ちだ」

「へー」

 上空は風が強く、朝方なので気温も低い。ときどき人の声が聞こえないくらい大きいびゅううという風の音が鳴る。

 今日の私の服は大小の菱形の穴があちこちに開いているタイトなワンピースで、生地は厚いけど暖かくはない。ネゾネズユターダ君の魔法で防寒しているので寒いわけではないけど。

 ネゾネズユターダ君は、私の服には脇や胸の下、臍にも菱形の穴があるのに、背中の大きい穴から手を入れて私の胸を直接揉んでいる。偉そうな人がたくさんいるところに呼び出されて不謹慎な気分になった私のテンションを彼が察知したのだ。胸の部分もタイトなので服の下に彼の手が入り込んでいるのもはっきり浮かんでいる。気持ちよくなって顔が上気してきた。周囲のおっさんは、「なんだこのカップルは?」みたいな目でこっちを見ている。あふっと吐息を漏らした。

 ジョジョシュ主任はまったく気にしていない。

 私もネゾネズユターダ君の腰に手を回す。ズボンの前に直接手を突っ込んでもいいけど、そうすると前戯で済まなくなる気がしたのでやめた。彼の手も、胸から離れはしないけどソフトタッチに移行して気持ちよさを維持するモードに切り替わった。

 浮遊本陣にはおっさん以外にも研究生や学生といった年齢の子供な何人かいる。戦場魔法を研究している人間は多いから見学に選ばれた生徒たちは成績優秀なはずだった。

「さーて、そろそろ現れるはずだがな」

 ジョジョシュ主任は言った。

 見えるといっても出現予定の峠は私たちのいる浮遊本陣から何キロも離れている。現れたとしてもすぐに魔法を打ち込むというわけにはいかないはずだ。物理魔法のことなどさっぱり分からない私は、この盆地の村の防衛をどのようにするつもりなのかまったく想像できなかった。


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