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魔法使いザラッラ  作者: 浅賀ソルト
“評価不定”の2つの悩み
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“評価不定”の2つの悩みの解決

 バスタブの縁から片側が俯せになれる台になっている。メイドに背中を磨いてもらっていたら眠くなってきた。私はしばらく土産話をしていたがそのうち黙って磨かれるに任せていた。

 全身が終わると湯に戻った。

「脱毛がまだだったね」私は泡だらけのメイドの裸を見た。「よし。やってあげよう」

「はい」メイドはバスタブの外に出て、そこに立った。

 私も出ると『脱毛』の魔法を右手にかけて彼女の脇から触れていった。以前と違い泡だらけで細部は見えなかったので、ただ脇を余さないように手探りで撫でていった。泡に毛の塊が混じった。「髭剃りってこんな感じかな」私は独り言を言った。メイドは、「そうかもしれませんね」と応えた。

 股間も細部が見えるわけではないので、丁寧に処理漏れがないように触れていった。上から下に、最初は手のひらで撫でていったがデリケートな部分は指の腹でなぞっていった。手に毛が触れるが、地肌を撫でるとそれが抜けていった。いつの間にかメイドが熱い息をしていた。こっちもエロい気分になってきた。エロは我慢して下へと手を伸ばす。

「お尻はやっぱり四つん這いだなあ」私は言った。「恥ずかしいと思うけどお尻を四つん這いになってこっちに向けて」

 はいと返事をしてメイドは恥ずかしそうにその姿勢を取った。私はメイドのお尻にお湯をかけて泡を落とすと、毛の生えている地肌を余すところなく触れていった。毛がどんどん落ちるのはやはり気持ちいい。あと1人で終わりなのが残念である。これはかなり楽しい作業だ。シミを消す魔法はすでにかけていたので毛が落ちると綺麗な割れ目が現れた。「よし。完璧」

 彼女が起き上がる。立った彼女にお湯を掛けて毛を洗い場に流した。うちの風呂は水浴び場もそうだが床の排水も完璧である。綺麗になったメイドの腰に手を回す。彼女も抱き付いてきた。そのまま密着してキスをした。

 彼女の方がキスに夢中だった。とろんとした顔で何度もキスをして、それから私をぎゅっと抱き締めると、「御無事で本当によかったです」と言った。涙声だった。

「平気平気。私は強いからね」私は彼女の背中を撫でた。「それよりバスタブで泡だらけのエッチしようよ。それ用に作らせたんだから」

「はい」

 というわけで私とメイドはバスタブに戻り、その中で泡だらけになった。

 メイドは本当に安心したようだった。途中で何度か泣いた。その泣き顔を見るたびに私は笑ってしまった。エッチしながら嬉し泣きは、申し訳ないけど笑ってしまう。

「もう会えないかと思うと、本当に……ああっ」

 最後にメイドも私も達した。メイドも懸命に奉仕してくれて私も気持ちよかった。余韻を楽しみながらメイドを愛撫し少し雑談をした。それから風呂を出た。メイド2人がタオルを持って待っていた。私は手を広げて拭いてもらった。

 1人が髪を拭き、もう1人が体を拭いた。足を拭いているところでメイドが手を止めた。

「長旅だったからね。足に細かい傷くらいするよ」

「そうですね。お風呂で綺麗になって、もう目立たなくなっています」

「ん」私は足を拭いているメイドの頭を見ていた。「まだ夕方か。色々やることはあるけど明日でいいか。……いや、明日は休みか」

「そうです」

「部屋を片付けて子供部屋を用意して、『遠隔子宮』の準備もしないとな」私は風呂場を見た。「『断熱』の魔法も物理魔法だったなあ。『保温』も私には無理かあ」

「お嬢様」メイドの1人が急に強い声を出した。

「ん?」

「明日は必ず私のお相手をしてください」

 私はそのメイドの頭を撫でた。3人全員だが私より背が低い。「大丈夫、安心して」

「はい」メイドは撫でている私の手を強く握った。泣きそうになっていた。


 すぐに夜だったけど私は服を着た。フリルが付いた水色の臍出しタンクトップに、裾の長さがほぼゼロのピンクのショートパンツ。ショートパンツの下にTバックの黒のパンツを穿いてそのウエストの紐がショートパンツから飛び出ている。未来に流行しそうなフェティシズムだ。さらに白の長手袋と同じく白で膝上までの長靴下を履き、靴下なのにショートパンツから黒の細いベルトでガーターのように吊っている。

「いいねえ。なんともいえずいいねえ」私は鏡を見た。「水色とピンクはさすがにそろそろ無理があるけど、無理してる感じもいい」

 メイドたちは何も言わなかった。ネゾネズユターダ君は、「普通にかわいい」と言った。「長手袋がいい」なんかやっぱフェチがあるな、彼には。

 その格好で1人で構内を見て回った。夕方になっていた。学校の空気を吸いたかった。

 生徒たちに手を振り、挨拶をした。何人かはどこに行っていたんですかと聞いてきたので、ちょっと実家に帰っていたと説明した。

 通用門まで足を伸ばした。

 休日前の通用門は空の木箱や荷馬車を外に出す作業をしていた。休日は閉まるので、空のものを寝かせるより外で運搬に使った方がいいというルーティンである。行商人たちに休日はない。

 予感と期待があったけど、案の定、ズスーのおっさんが通用門にいてぼーっと座っていた。相変わらず超然ちょうぜんとしている。日銭を稼ぐのに精一杯の生活をしているはずなのにどこか優雅だ。いまも夕日に照らされた通用門の労働者たちを、絵画でも見るように眺めている。

「こんにちは。ズスーのおっさん」

「おお、ねえちゃんか。久し振りだな。臍を出すと腹が冷えるぞ」

 私は彼の横に立ったまま、「なにしてんの?」と聞いた。

「ああ、ぼーっと見てるだけだ。絶対領域のねえちゃんは?」

 絶対領域のねえちゃんか。「ズスーのおっさんに会いに来たんだよ」私もおっさんと同じ方を見た。空の荷馬車が夕日に照らされた広場から去っていく。これは確かに絵画のように見えなくもない。私はショートパンツのポケットに手を入れた。「動物を集めて欲しいって話、中止になったけど、近いうちに再開するからさ」

「ああ、あれな。若造が怒ってたぞ。買取はしてもらえたけど、明日からはいいって言われてな」

「それに関しては申し訳ない」

「まあいいさ。再開するなら、今度はうまくいきそうなんだろ?」

「うん」私は通行人の中に精神障害者を見た気がした。すぐに見えなくなった。「まあ、私は私のペースでうまくやるさ」

「俺もだ」ズスーのおっさんは笑顔だった。私のことはどうでもいいといった様子だ。

「じゃあね、また」

「絶対領域のねえちゃん」そのままお別れと思っていたのにズスーのおっさんは私を呼び止めた。「俺はこのレシレカシが好きだ」

「うん」なんの話?

「ここを好きな人は多いし、ここで生活している人も今じゃたくさんいるんだ。できれば大事にしてやってくれよな」

 どう応えていいか分からなかった。私は彼の顔を見た。夕日に照らされてよく見えたが何を考えているかは分からなかった。「どう答えていいか分からないけど、覚えておくよ」

「ああ、それでいい」ズスーのおっさんは座ったまま手を上げた。じゃあまた明日というような、普通の笑顔だった。

 私も手を上げて応じた。背を向けて通用門をあとにした。


 ホセデレズバは処分を受けなかった。ギュキヒス家の代替わりの混乱の中で後回しにされたのだ。最終的に咀嚼そしゃくができなくなるかわりに胃酸を食べ物に吐いてすする食事になり、背中の皮膚の下に羽が生成され始めた頃に自殺した。顔の半分には複眼ふくがんがあったとかなんとか。ギュキヒスに逆らった呪いとしてその地域での恐怖の対象となった。

 “ダトベ城の虐殺”と“本邸事変”の2つに、長女ザラッラ゠エピドリョマスがどのように関係したのか、いいかげんな推測やゴシップが世間を席巻したらしい。民衆は私の噂話が大好きだ。地元のその雰囲気は充分に想像できたけど、私はそことは距離を置き、耳に入らないようにした。

 父ギュワレズ・ギュキヒスが政治困難になり長男に家督が譲られたというのはニュースになり、私の耳にも入ってきた。そのほかには混乱はなかったようだ。いまだその支配は磐石といった感じである。レシレカシへの寄付も据え置き。変更なし。繰り返すが混乱は何もなし。

 私はまあまあうまくやっている。2つの悩みは無事に解決した。

 私の家に子供2人と乳母も加わり、近いうちにメイドが2人増える予定だ。賑やかになるだろう。家のスペースにはまだ余裕がある。

 私は継続して自己免疫疾患の治癒魔法と女同士で子供を作る魔法の研究を進めるつもりだ。『遠隔子宮』はネゾネズユターダ君と研究室の私の助手がメインになって開発を進めることになった。それぞれの得意分野に担当が決まったということである。

 ほかに書くことといえば、私がすでに3人目を妊娠していたことくらいだ。


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