欲望に忠実とは
空を移動しては宿泊の往路でも、そこからパレードで王都へと向かう復路でも、“草と風のドラゴン”キリュ゠チャのことはよく聞かれた。ほかに不妊治療や発達障害についての相談も受けた。
祭りはいいんだけど擦り寄って来る各地の権力者が大分うざかった。移動のイベントなので毎日挨拶する領主が変わるのだけど、地元だけでなく遠くからやってきたおっさんが、「このたびはドラゴンを退治なされたそうで」などと手を揉み、愛想笑いを浮かべながら顔を売りに来るのである。
面倒なので『安心』だけ唱えて追い払った。たまに『幸福』も唱えてやった。
あと、この年になると普通にイケメンを供物として給される。ショックだったけど記念に記録として書いておく。
パレードの2日目。なんとかいう町のなんとかいう館に泊まったとき、離れたなんとかいう土地の偉い人が挨拶に来た。そこにいたのはおっさんだけでなく、しゅっとした白いシャツに紺のズボンを穿いた若い男もいたのだ。顔が似てないので他人だと分かった。
私がちらりとそっちに顔を向けるとおっさんはニヤっと笑って、「この男は私の部下のロギビュノーと申します」と言った。
まったく意味がないのにこうやって名前を覚えているんだから悔しい。まだ10代っぽいが端正な顔で、すでに完成している感じだった。簡素な服でも体もがっちりしているのが分かる。独特な雰囲気があり、確かに興味が出なかったかと言えば嘘になる。なんかちょっと、一晩くらい相手しなさいよという気分になった。
向こうも無愛想な顔で部屋に入ってきたが、私を見て前向きになっていた。
「せっかくですからこの男に町を案内でもさせようかと」おっさんはそんなことを言った。
「ふーん」私がおっさんに顔を向け、またそのイケメンと目を合わせると、男は正面から私を見て微笑んだ。
もうなんかそれだけでお互いに、こいつセックス上手いなと分かる通じあうものがあった。ネゾネズユターダ君は上手いというのとはちょっと違うからな。
と同時に、割とくるものがあった。レシレカシ魔法学校でお互いにいいなと思って目が合う感じとは違い、完全に作られた出会いである。おっさんはどこからかこのイケメンを見つけて私が気に入るだろうと思って連れてきた。そして実際に気に入ってしまった。そこにショックを受けた。
怒って追い払うのも認めてしまったようで悔しい。彼が悪いわけではないのに、気持ちの整理がつかなくなって無言でイケメンを睨んでしまった。
睨まれたイケメンは耳に気持ちいい声で、「あなたのことはずっと憧れておりました」と囁いた。
同じ部屋にいたのはメイドだけではない。ネゾネズユターダ君も普通に後ろでラブパレードの疲れから解放されてのんびりしていた。娘が今日、見たことを話すのを静かに聞いている。
追い払わなかったらこの男と一緒に町を散歩して、そしたらそのあとどうなるかなど分かりきっている。こういうとき、迷ったら、1回やってみようと判断していたのがそれまでの私である。
しかし最終的に、「いや、疲れたから今日はもう寝るわ」と言った。
「そうですか。残念です。いつでも待っているので連絡してください。ロギビュノーです」イケメンはそう言った。
そしておっさんと共に去った。
ドアがバタンと閉まった。
「うおー!」私は雄叫びを上げた。ドアの外に聞こえているだろうが構わなかった。「くっそー! くそっ! なんだくそっ!」叫ぶだけでは我慢できずに部屋の床をどんどんと蹴った。
疲れているというのは嘘ではない。本当に疲れていた。しかし疲れているから寝るとか、それが正解とは限らないのだ。
何が正解なのか分からない。「くそっ! くっそー!」
私がなにか悔しがるその姿を見ても、娘も息子も特に動揺はしていなかった。
とりあえず寝た。セックスはした。




