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魔法使いザラッラ  作者: 浅賀ソルト
“評価不定”の2つの自立
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さて患者の反応は?

 キリュ゠チャは最後の数メートルで引っかけていた爪が塔から外れて地面に落っこちた。ずずんという派手な音が聞こえた。

 体が大きいと落下のダメージが深刻になりそうだ。骨が折れてなければいいがと私は変な心配をした。

 ネゾネズユターダ君が言った。「打ち上げられたくじらみたいだ」

「鯨って何?」

「海にいるでっかい魚」

「へー」私はドラゴンに近づきながら言った。「『静寂』はイキったねー」

「『眠り』もイキりでしょ」

「効いたらかっこいいと思ったんだもん」

「僕の『静寂』が効いたらもっとかっこよかったと思わない?」

「効いたらね」

「どっちも効かなかったねー」ネゾネズユターダ君がキリュ゠チャの体に触れられるほど近くに寄った。胴体が太くて地面に横に倒れているのに彼の頭より腹が高い。

 私も近くに寄った。体に触れて『神経解析』を遠慮なくすると活動を停止していた脳細胞が活発な細胞に置き換えられているのが分かった。私の魔法はちゃんと効いていた。回復しつつあった領域と接続して脳の機能は問題なくなっていた。「これなら一ヶ月もすれば元に戻るんじゃないかな。さすがに回復が早い。普通なら1年以上かかるのに」さらに私は『遺伝子解析』を唱えた。抵抗されずしっかり解析が通った。分かったのは爬虫類みたいな見た目だけど分類的には全然違うということ。恒温動物でトカゲよりは人間に近い。とはいえ独自すぎて調査だけで10年くらいは退屈しなさそうだ。手足が6本に目が4つでは先人たちが分類に苦労したのも分かる。『遺伝子解析』は本来は人間の遺伝疾患を調べるための魔法なのでドラゴンに対して分かるのはこのくらいである。キリュ゠チャの遺伝子に何か異常があったとしてもそんなことは分からない。「うーん。もうちょっと調べたい」

 気絶している相手に『魅了』や『親近感』といった魔法は通じない。起きたときにそういう魔法を試してもいいけど、それに失敗したら関係は絶望的だろう。

 人間より脳が高度だ。人間用の精神魔法がどの程度効くのか分からない。幅広く効果がある原始的な魔法はいけるだろうけど、そういうのは複雑な脳には効きにくい。『眠り』も本来はゴブリンやもっと低級の生物相手の魔法で、人間にはほとんど効かない魔法である。

 私の『眠り』は人間に効くけどね。ふっふっふっ。

「どう?」ネゾネズユターダ君が聞いてきた。

「治療は成功してる。すぐに回復するんじゃないかな」

 ネゾネズユターダ君は頭から尻尾までまんべんなくドラゴンの体を見ている。頭の角の後ろにある目も見つけた。よじ登ったりはしなかった。「すごい」

 従者や子供たちは後ろでまだ控えていた。私たちが警戒を解いてないのでそれを察している。

 そのほかの調査もした。なんで突風から毒にブレスを変えたのかとか謎を解きたかった。しかしすぐには分からなかった。

「起きてまた怒り出したらどうする?」ネゾネズユターダ君の質問には、殺したくないという気持ちが溢れてた。

「あんまり殺したくはないけどなあ。人間と敵対ばかりしていた竜じゃないんだし」むしろいい竜といえる。伝承の中では中立よりは人間寄りだった。

「だよね。僕も」

 とはいえ殺そうとなったらこの距離なら『連鎖れんさ爆裂ばくれつ光電球こうでんきゅう』が使える。私も『発狂』など、原始的だが回復不可能な精神魔法が使える分有利だ。

 彼女の寝息は穏やかだが臭かった。体内で何かが発酵しているようだ。

 私たちが色々調べているうちに呼吸が乱れたかと思ったら、ドラゴンが咳をした。ごほっ。そして目を覚ました。


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