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魔法使いザラッラ  作者: 浅賀ソルト
“評価不定”の2つの自立
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夜空の中に魔法の光を見る

 寝室に戻る途中でメイドが言った。「お嬢様、ネゾネズユターダ様にも訪問客がさきほどありました」

「え? いま?」

「ええ。対応しています。子作りの相談があって、断っているようです」

 うーん。どこでも聞く話だが、男に側室とか愛人を勧めてくる奴というのがいるのだ。

「いま部屋に戻ると会う可能性があります。どうしますか?」

「相手が誰かは分かってるの?」

「いえ、いま確認中です」

「そう。顔を見るのも気まずいからちょっと時間を潰すわ」

「はい」メイドは私から数歩離れた。

 私は卵のある乳母車を見てから夜空を見上げた。庭園の建物に囲まれた空が見えた。

 使用人の中にネゾネズユターダ君の使用人はいない。つまり彼の命令を聞く人間はいない。彼に訪問客が来たときに取り次ぐのは私のメイドだったりブユ族の警護だったりする。どちらも部下として命令を聞いているというよりは私なり族長なりの間接的な接待を受けている身分だ。あまり自由はない。南西蛮族での愛人とか側室というのがどういう意味を持つのか分からないけど、私の彼氏がここで愛人を持つのは無理だろう。

 そもそもで言うと、私のメイドも私に仕えている直接の部下ではない。ギュキヒスから派遣されたギュキヒスの人間だ。私より私の兄の命令を優先させる立場だ。つまり私もネゾネズユターダ君と立場は同じなのだ。

 今回の旅行も、ギュキヒス家から見たら色々とあやういバランスの上に成立している。喧嘩はするな、仲良くなりすぎるなということである。ネゾネズユターダ君の愛人だってそのルールからは逸脱するだろう。そこで子供ができたら、氏族としての結束を大事にする南西蛮族としてはもう助け合うべき家族となってしまう。

 夜空の中に動いている星があった。小さいが光っている。そして他の星の光を遮ってふらふらと移動している。距離感が分からない。しかし星よりずっと近いのは間違いない。

 ドラゴンではなさそうだ。

 光の色は白。点のように小さく、周囲の星の光と明るさは変わりない。

 何かと思ってずっと見ていた。やがてふっと光は消えてしまった。そして二度と現れなかった。

 ドラゴンのような大きな生き物でないが、虫のような小さな生き物でもない。それなりの大きさのものが強い光を空の上の方で放ち、飛んでいるようだった。

「お嬢様、もう戻られても大丈夫です」

「そう」私は視線を戻しメイドを見た。「このあたりには空を飛ぶ魔物や怪物はいるの?」

「いるはずです。何か見えましたか?」

「ちょっとね。星みたいに光ってた」

「光る生き物はほとんどいません。魔法を操る怪物ですね」

 あれは魔法の光だったのか。「なるほど」結界があるので危険はないと説明は受けている。「それじゃあ寝直すとするかな」

 私は寝室に戻った。

 ベッドにいたメイドはあえて起こされていなかった。とはいえ寝たままというわけにもいかず裸のままベッドで待っていた。お帰りなさいませと声をかけられた。

 私は服を脱がせてもらい、裸に戻るとベッドに入った。「ただいま」メイドに抱き付く。

「用件は何でしたか?」彼女も正面から受け止めて私の背中に手を回した。

「火傷の跡を治して欲しいって。なかなか酷い傷跡だった」メイドの頬にキスをする。ちゅっと大きい音を立てた。

「治されたんですね」

「もちろん。数日もすれば元通りだ。目だけは賭けになるけど」

「それはよかったです」

 私は彼女の体温を感じながら寝た。自分の自由と独立についてはまだ深くは考えていなかった。


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