夜中の面会希望者
こちらの女性たちのリアクションは軽かった。レシレカシや地元だと感激して泣いたりする人がいるんだけど、南西蛮族では無邪気に仲間同士でわーいと喜ぶリアクションが多く、泣く人は少なかった。目を潤ませた人がいたくらい。といっても、このあと何度も来て分かったことだけど、この時は私が初対面で見た目から余所者なので、私にお礼を言う気持ちにならなかったというのが実情だった。よく分からない人に妊娠させられても実験台にされたような不安な気持ちになるのだろう。それでも最初に来てくれたこの人たちは、私の評判を噂で事前に聞いていた人たちだった。顔見知りになってくると、私に対して素直にお礼を言われたり、感謝され泣かれることが増えていった。それはもうちょっと馴染んだあとの話である。
相談はすべて不妊に関するもので、そのほかの悩みはなかった。一応、その場で、不妊治療だけでなく、アルコール依存症なども相談に乗るよと告げた。
「また明日、朝にここを使わせてもらうから。用があったらそのときに来て」
私が言うと部屋の中にいた女性たちは明るい顔で返事をした。例によって本当なら自覚がない妊娠であるが、女性たちは自分が妊娠したことを分かっているようだった。嬉しそうにしている姿はこちらの気分もよくなる。こういうのは何度やってもいいものである。
部屋を提供してくれた婦人に改めて礼を伝えた。婦人も感激していた。面子が立ったというものだろう。お互いに固い握手をした。
自分の部屋に戻る頃にはネゾネズユターダ君の機嫌が戻っていた。不妊治療をしているうちにどうでもよくなったらしい。子供と魔法使いごっこをして遊んでいる。
私は護衛や来客の担当をしている使用人たちに、夜にこっそり私を尋ねに来る人がいたら追い返さないように告げた。人に知られたくない悩みの相談かもしれないということをちゃんと含んで理解させた。
今日はメイドと寝る日である。ネゾネズユターダ君は子供たちの寝室で寝て、私は広いベッドでメイドといちゃいちゃしてから寝た。
夜中に別のメイドがベッドにやって来た。「お嬢様、女性がお尋ねに来られました」
私は起きて眠い目をこすった。私も全裸なら横のメイドも全裸だ。「んー、どんな用事?」
「熱湯をかけられて顔に酷い火傷があると……」
うわ。幸い、細胞を再生できる私はその手の傷跡を治すのは得意である。「分かった。会うから服を着せてちょうだい」
「かしこまりました」
私はベッドから出て服を着せられるに任せた。
夜のソヌーバジッジは静かで遠くの物音も聞こえない。これがレシレカシなら夜中でも学校の外の喧騒が聞こえてくるはずだ。息をひそめているような不自然さを感じる。港の筋骨隆々な男女だったら夜もうるさそうなものだが。
私は何か物音が聞こえないかと耳を澄ませた。波の音も聞こえない部屋だというのは昼間から知っていた。聞こえるのは野生動物の吠える声だ。どこか遠くで遠吠えしている生き物がいる。犬や狼でないのは分かる。正体は分からない。
私を着替えさせるメイドも周囲の静けさに合わせていつもより静かだ。物音を立てないように慎重に動いている。やがて着替えが終わり私はメイドを伴って部屋を出た。どこか聞かされぬままメイドの案内についていく。やがて回廊から庭園のような場所に出た。屋外に女性が2人、小さくなって立っていた。ヴェールを被り、夜の星の光の下では悪霊か亡霊のようだ。
「それ以上近づかないでください」メイドが言った。




