ブユ族に奇跡を施す・夜の部
仕切りは中途半端なもので隙間から人の列が見える衝立のようなものだった。当然、会話の声も聞こえる。
「不妊治療とか人に聞かれたくない話もあるんじゃないの?」
「それもそうなんですが」部屋を提供してくれた婦人の使用人という女性が説明してくれた。「グループで誘い合って来たのであまり遠慮しないでいいみたいです」
「うーん。まあいいか」ラブパレードの経験だと、こういうオープンな雰囲気に怯んだ人は、タイミングをずらして誰もいない夜中にこっそり尋ねてくる。今夜か、レシレカシに帰る最終日などが怪しい。そういう遠慮がちな人はとりあえず置いておいて、こうやって集まった人にはぽんぽんと対応していこう。
私は仕切りの反対側、人が集まっているところに顔を出した。みんなが一斉に私を見た。おしゃべりが一瞬で止まり靜かになった。
「どうもこんにちは。ザラッラ゠エピドリョマス・ギュ……おっと」姓は南西蛮族の前では言わない方が無難。「です。山の奥の魔法使いです。みなさんに子供を授けます」
わぁと小さい感嘆の声が聞こえた。溜息のような安堵のような、なんともやりきれない声だった。
「知っている人もいるかもしれませんが、『妊娠する魔法』のほかに『女同士で子供を作る魔法』も使えます。旦那がいなくても女同士でも大丈夫です。ただし1人では子供は作れません」ここで軽く笑いが起こる。「誰と誰の間で子供を作りたいのか決めて並んでください。そして!」私が言うと早速2列に並ぼうとした女の人たちが動きを止めた。私はネゾネズユターダ君を指した。「彼が『双子にする魔法』を使えます。子供1人でよいならそのまま帰っていいですが、2人いっぺんに生みたいという人は次に彼の前に並んでください」
女性たちはざわめいた。集まったのは女性ばかりのグループと夫婦らしい男女グループ。障害を抱えた子供とその親という組み合わせはなかった。そっち方面の私の評判はまだ広がっていないらしい。
ざわついているのは胎児に魔法をかけるのが男のネゾネズユターダ君という点が引っかかっているのだろう。これも経験で想定してた反応だ。対応も同じ。「男だからって照れないで。魔法は誰が唱えても同じだから。それに彼は私の彼氏だし、私も双子を妊娠しているわ」あとは流れに任せるのみ。「さ、並んで」
今回も杖を持参していた。ラブパレード中の日々の訪問客の対応のときは子供たちの前ではやらなかったけど、今回は子供たちの見ている前でばんばん『妊娠する魔法』を唱えていった。『流産防止』と『安産』もセットでやっておく。『無痛分娩』は説明しても混乱させてしまうので、出産に立ち会えないこういう状況ではかけない方がいいと経験で学んでいた。
これまでにないパターンもあった。まだ若い女性3人組で、なんと未亡人3人組だった。3人でそれぞれ組を作って女同士で子供を作りたいという。戦争が多いと若い男がポンポン死んでしまうんだなと同情してしまった。私はそれぞれのペアで魔法を唱えてあげた。周囲の女性たちがその3人を見て、その手があったかとばかりに部屋の外へと飛び出していった。そしてすぐに10人以上の女性がやってきた。未亡人ばかりだった。
その未亡人3人組はネゾネズユターダ君の前に並び、さらにそれぞれを双子にしてもらうことも重ねていた。彼女たちがこの夜の流れを決めたといってよい。双子の希望者が次々に現れて彼の前に並んだ。
私は30組ほどに『妊娠』と『女同士で子供を作る魔法』をかけた。
そういえば女同士では女の子しか生まれないって説明してなかった。まあいいか。




