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魔法使いザラッラ  作者: 浅賀ソルト
“評価不定”の2つの自立
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旅行においてのあれこれ

 旅の途中のとある村の郊外で私たちは南西蛮族側の部隊と合流することになった。そこからは私側の部隊と南西蛮族側の部隊の共同警備となる。

 これまで南西蛮族(ばんぞく)と書いてばかりだったけど、一応国としての名前がある。モピャ国という。内部に主に5つの氏族があり、ネゾネズユターダ君はブユ族に属している。族長のパジョカジチュが彼の養父である。

 当人たちはもちろん自分を南西蛮族とは言わないし、モピャ国とも言わない。ブユ族と名乗るのが普通である。

 今回の訪問は手紙のやりとりをた上で来賓として招待された。ちょっと仲が悪いとかではなくガチで敵対している国なので調整は色々大変だったみたいだ。例えばレシレカシから連れてきた警備は私の地元ギュキヒスの兵士だけどレシレカシの兵士ということになっている。レシレカシに軍隊はないので分かっている人が聞いたら意味不明である。この旅行の裏にはそういう調整がたくさん入っている。私もよくは知らないけど。

 村の郊外でギュキヒスの兵士と南西蛮族の兵士が合流するのだって、見る人が見たらまあまあやばい。唯一の救いはギュキヒスそのものは南西蛮族の侵略を受けてないので兵士たちに南西蛮族への個人的な恨みというのは無いことだ。逆に危ないのは南西蛮族からしたらギュキヒスの兵士も近隣の紛争相手も色白で見た目が似ているので敵に見えてしまうことだろう。

 ギュキヒスの王妹おうまいである私と族長の養子であるネゾネズユターダ君が子供3人こさえた上で——すぐにもう3人増える予定でっせ——いちゃいちゃしながら訪問するわけである。和平交渉にしか見えないだろう。周辺諸国からしたら、「ギュキヒスはあんな国と親戚になるつもりか? うちの国をさんざん荒らしたあの国と仲良くなるつもりか? ふざけんなよ」という気持ちになるわけである。

 まあ、私としては知らんがなではあるんだけど、出発前にそういう話をさんざんレクチャーされた。要するに仲良くなってもいいけど仲良くなりすぎるなという注意である。知らんがな。

 というわけで残りの道程どうていは共同警備の上でつつがなく進んだ。

 風景の変化もまた楽しい。レシレカシから離れれば離れるほど建物も人も変わっていき、山や川や生えている植物も変わっていく。夏の暑さもどんどん増していってる。

 子供たちにとっても長旅は大変だった。ラブパレードと違い食べ物も気候も変わっていく。子供たちは全然平気なんだけど、周囲の大人たちが順応できずに参ってしまって、結果として子供にもその皺寄せがくるようになった。世話をしてくれる人がいなくなったのだ。ネゾネズユターダ君がフォローしてたけど。

 ネゾネズユターダ君は嬉しそうだ。派遣された色黒の兵士たちと知らない言葉で楽しそうに話している。

 南西蛮族のモピャ語だけど、意外なことに私は結構理解できた。古代魔法に似ている。発音が古代魔法の詠唱に近い。帝国時代の本を読んでいるので単語の意味も多少は分かる。ネゾネズユターダ君が子供の頃から古代魔法の本が読めた理由が分かる気がした。退屈しのぎというわけではないけど私も南西蛮族の兵士に話し掛けて、モピャ語の勉強をしてみた。ネゾネズユターダ君も教えてくれたけど、兵士と雑談を通じて学ぶ方が面白かった。最初からちょっと話せるのがよかったようで兵士も協力的だった。おかげで目的地に到着する頃にはかなり話せるようになっていた。1000年前の単語が混じるので微妙に年寄りくさいしゃべりになっていたみたいだけど。

 ネゾネズユターダ君は族長の養子のはずだったけど、兵士たちから微妙にナメられてる空気を感じた。その点を聞いてみると2つ理由があった。優秀な子供を養子にするというのは南西蛮族の文化なのでネゾネズユターダ君のような族長の養子が何十人もいるという事。あと1つは彼が見た目貧弱なインテリタイプであることだそうだ。

 私は南西蛮族の兵士から見ても魅力的であるらしく、ネゾネズユターダ君が横にいて子供もいるというのに兵士から色目を使われたりした。彼は自分がナメられることについては平気だけど、私への侮辱を受け流すことはない。この状態はちょっと危険だなと私は思った。近いうちにガツンと何か起こるだろう。


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