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魔法使いザラッラ  作者: 浅賀ソルト
“評価不定”の2つの自立
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ネゾネズユターダ君が変なことをする、あるいはクレストマ……

 南西への旅行の前に、レシレカシ魔法学校から一番近い町チョキネキの郊外に私の別荘の別荘ができた。二階建で地下室なしの小さな家で、学校の中にある私の家より小さい建物だった。別荘そのものはその近くの丘の上に基礎工事から建築中。完成にはあと2年かかる見込み。工事現場を見学したけど地面を掘ってる段階なので、完成予定図のどこを造っているのかすら私には分からない状態だった。

 とりあえずこの仮の二階建とレシレカシの家を転送ゲートで繋ぐことにした。ネゾネズユターダ君の魔法である。

 学校の私の家はリビングとキッチンを繋ぐところにもドアがある。私は寝室、リビング、ダイニングの行き来しかしないので使うことのないドアだ。最初から使用人用として作られているので階段の横のちょっと薄暗い位置に他より小さく控え目に設置してある。ネゾネズユターダ君はこのドアに魔法をかけた。

 試作品は見せてもらっているので初見の驚きはない。それでも「じゃじゃーん」と設置したドアをネゾネズユターダ君は私とメイドたち、そして子供たちにお披露目した。ドア全体を布で覆ってそれを引っ張って落成式のように開帳かいちょうするという凝った演出だった。

「こちらがそのドアになります」

 おおーと私と子供たち3人が拍手をした。1歳の娘もニコニコして拍手の真似をしている。

 ドアは普通の木の板だった。使用人用の雰囲気は変化なく、地味で装飾もない。違いはノブである。リビングから見て左側に普通のノブが縦に3つ並んでいる。ノブがたくさんあるドアってなんか気持ち悪い。しかもノブはそれだけではなく右側にも1つあるのだ。つまり全部で4つのノブがある。

「さて、この左の真ん中のノブ」とネゾネズユターダ君はそれを右手で握った。「これを回すとキッチンに開きます。普通のノブ」彼がノブを回して押し開くとその向こうのキッチンが見えた。

 なんか懐かしい。10歳でレシレカシに来た当初はこのドアからよくキッチンに出入りしてた。いつの間にか使わなくなっていた。

 彼はドアを閉めた。「そして」彼は左の一番上のノブを掴んだ。このフリで全員結果は予想できていたがそれでもごくりと唾を飲んだ。彼はそれを回した。ガチャリという音は普通の音で、特殊な音はまったくしなかった。ネゾネズユターダ君がそれを押し開ける。その向こうにはさっきのキッチンとはまったく別の部屋が見えていた。「一番上のノブは平地の家のリビングに繋がります」

「おおおー」みんなが拍手した。

 反応が一番薄いのが私で、子供は目を丸くして驚愕きょうがくの表情をしている。そしてメイドたちの食い付きもいい。

 平地の家というのは今のレシレカシの家を山の家とした上での仮の名前である。見えるリビングは私も内見を済ませている。まあこれで、山のふもとまで1日の距離をノータイムで移動できるようになったわけだ。さらに子供が増えて家が狭い問題も解決である。建築中の別荘は最終的には50部屋になる予定なので——落成時点での予定は30部屋——今後10年は子供が増えても困らない。三つ子が2組ずつ毎年生まれる計算だと10年で60人なのでなかなか洒落にならないが。

「さて下のノブですが、こちらはまだ魔法をかけてないのでキッチンです」ネゾネズユターダ君は左に縦に並んだ1番下のノブを回して開け閉めした。その向こうのキッチンが見え隠れした。「右側のノブにも魔法がかかってないので開きません」彼は体をズラしてドアの反対側のノブを左手で握るとガチャガチャと回した。

「そっちは開かないの?」私が聞く。

「いまは仕掛けがないのでただの飾りです」ネゾネズユターダ君が路上販売のおっさんのように大きい身振りをしながら説明する。そして彼は私たちに背中を向けてドアの前に正面から立った。「さて、この左の真ん中のノブと右のノブを同時に回して奥にドアをぐっと押し込みます」

 ん?と皆が身を乗り出す。なんだそれは。そんな仕組みは私も聞いてないぞ。

 バコっとドアがキッチン側に外れた。その隙間から青空が見え、明らかに屋外であるびゅうという風の音が聞こえた。上から倒すように開けたので下の隙間は小さかったが、下の隙間からは森の木々のようなものが見える。

 ネゾネズユターダ君はドアを引っ張ってまた枠に戻した。ガチャンという何かがハマる音が聞こえた。と思ったらまた彼は両手のノブを回してぐっとドアを押した。またバコっという音がした。引っ掻かっていた金具が外れる作動音のようだった。ドアの向こうの空は曇り空で、川が下の方に流れていた。音もちゃんと聞こえる。彼はまたドアを引いてガチャンと嵌め込んだ。

「このようにランダムにどこかに繋がるパニックルームになっております」

「すっげえええええ!」おとなしいはずの4歳男児ピュゴダ゠グスが雄叫びを上げた。

 パニックルーム、あるいはセーフルームとは侵入者がやってきたときの避難シェルターのことだ。

 男の人ってこういうのが好きなんでしょう?

 というのは冗談としても、なんかモロにフラグだな。これを使うことがあるのか?

 このあとに質疑応答が始まった。


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