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魔法使いザラッラ  作者: 浅賀ソルト
“評価不定”の2つの自立
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子供が9人生まれる前に

 ネゾネズユターダ君の卒業試験については特に書くことがない。私が試験したわけでもないし見学したわけでもない。だから分からない。卒業したという結果があれば充分だ。そして真面目にやっても不真面目にやっても必ず卒業できるのがネゾネズユターダ君の立場なので、その結果もやる前から分かっていた。普通の判定でも合格レベルだったと聞かされてはいるけどその言葉すら嘘である可能性がある。といっても、試験の成績はともかく私自身は彼が優秀な魔法使いであることは知っている。学校が付ける成績は私にとってはどうでもよかった。私の護衛の仕事も減ったという話である。ネゾネズユターダ君も私のボディガードの1人に含まれて護衛が組み立てられるようになったということだ。目に見えないところで護衛の人は頑張っているけど、私が見えるところまで迫った脅威に対処するのはほとんどがネゾネズユターダ君だった。

 卒業論文の方は帝国時代の物理魔法がテーマだった。私は精神魔法が専門で物理魔法は詳しくないので、ネゾネズユターダ君が一番詳しい人になったと言っても過言ではない。ちなみにこの論文の方は私も手伝った。

 唱えることもできるというので帝国時代の物理魔法というのを見せてもらった。魔法そのものはすごいわけではなかった。1000年前なので仕方がないことである。こういうのは純粋な研究なのでどういうものかを知ることが目的なのだ。


 妊娠において胎児が大きくなって物理的に子宮を広げるという事象がどのような作用をもたらしているのかはよく分かっていない。だが、自分がもう3人生んだ経験から、『お腹が大きくならないまま胎児が大きくなる』という事象は、胎児にも自分にも必要な刺激が足りてないように思われた。つまり妊婦にとってはお腹が大きくなるという事象や、赤ちゃんがお腹を蹴るといった刺激が必要なんじゃないかと思った。これは勘である。根拠はない。また、胎児にとっても、子宮を外側に押し広げたり、時に蹴ったりすることが必要なのではないかと思った。

『遠隔子宮』は胎盤からの栄養と羊水の循環は転送ゲートによってしっかりと行われている。中の温度も結界の断熱とその羊水の循環によって母親の胎内と同じ温度になっている。もし母親が熱を出したら『遠隔子宮』の中も熱くなる。そのくらいリンクしている。

 一方で子宮の中と同じとは言えない点もある。

 母親の心音しんおんは転送ゲートを通じて聞こえる。子宮の中より音は小さく、聞こえ方も違うはずだ。『遠隔子宮』の外側は固い結界なので子宮のような柔らかい膜とはまるで違う。内側に緩衝材になる層はあるし、羊水の中に浮かんでいるので外側の衝撃が胎児に直接伝わることはないが、胎児が手足を伸ばして周囲を蹴ったときの感触は子宮とは違うはずだ。もちろん、胎児から母体に刺激が伝わらないように、母親の刺激も胎児に伝わらない。食事をしても立っても座っても、その刺激は胎児にちょっとしか伝わらない。

 事前に実験はしているし、結論としては出産や育児に刺激の差はあまり関係なかった。人間の普通の妊婦だって胎児に与えている刺激の種類は100人いれば100種類あるので、その程度の違いは生き物は問題にしない。

 問題はお腹が膨らむという母親への刺激が胎児の成長段階に必要なトリガーになっている可能性についてだった。例えば臨月過ぎても陣痛が始まらないかもしれないのだ。『遠隔子宮』を使っていればそもそも出産に陣痛は不要ではあるけれど。

 これは私の体感でなんとなく感じたことなので、繰り返すが根拠はない。だけど、子宮も『遠隔子宮』に合わせて広がっていく刺激が必要なんじゃないかと感じた。初期、中期、臨月、それぞれの段階で必要なお腹の“張り”があった方がいい気がした。

 お腹が大きくなって動きにくいからと開発した『遠隔子宮』魔法なのに皮肉なことだ。

 完全にお腹を大きくしなくていい。自分の体に、赤ちゃんがちゃんと大きくなっていると錯覚させる程度の刺激を与えるのである。というわけでそれらの改良をして私と助手のお腹に刺激が追加されることになった。

「あー、これこれ。やっぱり必要だわ」私はお腹の張りを感じてしみじみ思った。さっそく自分の体が胎児成長のために次の段階に切り替わる感覚があった。

「うー、そうですか。なんか慣れませんけど」助手は戸惑っている。

 普通の出産経験なしにいきなり『遠隔子宮』は無茶だったかもしれない。出産そのものは無事にできると思うんだけど、普通の出産との違いが分からないとサンプルになりにくい。「まあ、そのうち慣れるよ」

 とはいえ、最終的にもあまり広げないようにする。出産後に子宮が小さくなっていく後陣痛も、数日で収まるとはいえしんどいことはしんどい。わざわざあんな思いをしたくはない。

 外見的には妊婦とはまるで分からない私と助手だったが、卵の方は手で持ってみるとずしりと重い。最初は片手で余裕で持てたが、大きさも今では両手でしっかり抱えないと怖いサイズだ。どちらも三つ子が入っているせいか妊婦の普通のお腹より大きいように感じる。


 ネゾネズユターダ君の実家訪問の計画だけど、我が家の状況がなかなか忙しい。ネゾネズユターダ君は卒業した。そこは問題ない。私と助手が『遠隔子宮』による三つ子の出産が間近になり、さらにメイドの方は普通の妊娠で三つ子を私と同時に出産予定だ。時期がほとんどズレてない上に全員三つ子なので一気に子供が9人増える。生んでしまったあとでは旅行どころではない。

 助手と普通の妊婦であるメイドは帯同させないとして、卵だけの私の出産前というタイミングしかないという結論になった。妊娠8ヶ月。お腹の張りの人工的な微調整の2回目をやったあとのことである。


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