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魔法使いザラッラ  作者: 浅賀ソルト
“評価不定”の2つの自立
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今回の祭りの成果など

 出発前に言われた、私の人気がすごいことになっているという話については、半分は本当で半分は嘘だった。祭りに参加している人は別に私じゃなくても、誰か適当な人がお立ち台に立って煽れば盛り上がるようになっていた。私が誰か分からない人もいたんじゃないかと思う。

 本当の部分は朝の面会や、夜にその日の宿泊地に着いてから訪問してくる病気や障害で悩んでいる人々で、こっちは本当に藁にもすがる思いで私に救いを求めてきていた。こちらは本当の意味で私の人気と言えた。

 ちょっと面白いエピソードがあったのでここに記そう。

 夜にも訪問客がいるので時間を決めて対応していたんだけど、そこにある男の人が単身で面会に来ていた。私の面会に男性単身は珍しい。内密にというのだけど直接対応するわけにもいかなかったので執事の1人に話を聞かせた。その男も従者で、用件は、私が蠅と融合させて殺したホセデレズバの妹の義理の妹という人物が5歳になる息子がまともに喋れないので診て欲しいというものだった。その手の用件には飽きるほど対応してきている。しかし、私が殺したホセデレズバの一族に知られたら立場が悪くなることは確実で、それでも私を御忍びで尋ねてきたという背景は特別だった。私はその子供を診ることを約束し、他の面会が終わるまで待って欲しいとだけ伝えた。

 面会が終わって、控えているという部屋に入ると、その女性がすぐに立ち上がり深々と礼をした。その後ろにいた従者たちも慌てて礼をした。5歳になるという息子だけが状況を理解せずにポカンとしていた。

 その女性はホセデレズバの非礼をひたすらに謝り、さらに自分の図々しさを謝り、応対した私への感謝を述べ、それから息子が一向に喋ろうとしないことの困惑を訴えた。

 私は黙って聞いていた。

 入室してその息子を見た時点で私には分かっていた。喋り始めが遅い子供というのはたくさんいて心配するものではないが、その子供は確かに病気だった。5歳ならまだ遅すぎるということはない。私が治療すれば10歳になる前には他の子供に成長が追い付くだろう。

 話を聞いたあとそのことを告げると、その女性は泣き崩れた。子供も病気だったが、その女性もストレスにやられてしまっていてよく見ると肌荒れがすごいことになっていた。

 女性の名前はプグルユギャノーピャといって、前述のようにホセデレズバの妹の夫の妹だった。ホセデレズバが私を殺そうとしたことと無関係な立場ではある。だからといって彼女の兄はお咎めなしではなかった。彼女の夫まで罪に問われることはなかったが、元々息子の発達障害もあって、一連の事件を無関係な他人事という態度を取ることで夫は妻である彼女と話もしなくなったとか。よくある話といえばよくある話である。

 ここで私が治療して、冷たくなった夫が手のひらを返すという展開になったら、それももあまり面白くはないのだけど。

 とりあえず即効性がなく、確実に治療はするけど、他の子供と同じように喋るようになるには数年が必要ということは伝えた。何年かすれば他の子供と違いが分からなくなるはずだ。

 彼女はそれを了承した。私は『発達障害を治す魔法』を唱えた。

 彼女は感謝して去っていった。私の実家には秘密にすると約束したが、人の口に戸は立てられない。どこかからこの話は私の兄の耳にも入るだろう。

 こういう話はこれだけではなかった。不妊に悩む貴族の夫婦も何組も面会してきた。貴族というのは程度の差こそあれ私の実家とは利害が衝突しているものだ。だから借りを作るのは本意ではないだろう。それでも恥を忍んで——人によっては恥辱に耐え——私に面会してきた。私は時間切れでない限りは対応した。取り引きも特にしなかった。これが取り引きのネタになるとも思えなかった。実家の兄がこれで恩を着せるかもしれないが、「俺の命令を聞け。俺の妹がお前の不妊治療をしてくれただろう?」という恩の着せ方はしないだろう。こうやって文章にすると最低すぎてそんな取り引きが成立しないことがよく分かる。


 メイドと私の間にできた子供も注目の的だった。

 少し大きくなってきたので私の特徴も出てきて、ギュキヒス家の人間であることが隠せない感じになっていた。

『女同士で子供を作る魔法』の認知が広がった。この第2回ラブパレードでそれを使う機会はなかったが、今後は使うことがありそうと思わせるくらいには注目された。

 こういうのは論より証拠である。メイドの娘であるリョズミを見て、私とメイドを交互に見る人がたくさんいた。1人だけ、「私もお嬢様との子供が欲しいです」とはっきり言ってきたメイドがいた。私は苦笑してしまった。私自身はそこまで嫌ではなかったけど、メイドたちから無差別な卵子提供は止められていた。


 こうやって振り返って書くと、私がギュキヒスとダトベの間にある広大な領域において、本家とは別の勢力圏を確保しようとしていたという説も否定できない。そういう解釈をしようと思えばできる。そして実際に、頼りになるのはザラッラ゠エピドリョマスだという評判が立ってしまったのも事実だ。

 政治というのはそういうことではない。面会による不妊治療だとか病気の治療の実績で、頼りになるとか評価されても困る。私のやってきたことは感謝されこそすれ、政治的なものではない。民衆はそのへんの区別がつかないから変な担ぎ方をする。そして担がれてる私を見て、こいつは利用できると企む悪い奴も出てくる。困ったものだ。


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