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魔法使いザラッラ  作者: 浅賀ソルト
“評価不定”の2つの自立
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飛行部隊による移動

 そのすぐあとには私たちは飛んでいた。初日の今日はギャドーという町まで飛んでそこで一泊するということだが、基本的に日程はお任せである。

 飛行隊が飛ぶときに使う飛行用の杖というのは初めて見た。メインの杖のほかに斜めに2本の杖が付いた矢印のような三角形をしていた。その上に荷台を作り込んで風防も付けてと工夫されており、人が乗ったときの感覚を馬車に近づけようという意識を感じた。これを5本用意するだけでも相当な時間と金がかかるはずだ。

 ネゾネズユターダ君は自分の杖で飛んでいる。杖の上にまたがる魔法使いスタイルでは彼の細長い金属の杖はしんどいだろうと思っていた。しかし事前に準備していた。杖の前後にキャップを付けて布を張るハンモックを杖に垂らし、そこに寝る姿勢で杖を掴んでいる。足を前方に向けたソリのような格好だ。話によると飛行専用の杖ができるまでは長距離の飛行はこうやっていたとかで、これも1つのクラシックスタイルだそうだ。

 大人を運ぶときは魔法使いと添い寝をすることになるわけで不評だったのも分かる。

 3人の子供はネゾネズユターダ君が運んでいる。つまりそのハンモックにネゾネズユターダ君のほかに子供3人が乗っている。ネゾネズユターダ君とも繋いで、杖とも繋いで、安全管理は充分だけど、それでも生後6ヶ月の乳幼児がほぼ剥き出しで空を飛んでいるのはひやひやする。今のところ3人ともそれぞれ自分の表現方法ではしゃいでいる。問題なさそうだ。ハンモック型の方が楽しいのは間違いない。

 私やメイドなどは板張りの箱の中の寝袋のようなものの中で横になって、外から聞こえる風のゴーッという音を聞くだけだ。外もまともに見えないから楽しくもなんともない。底に穴があり、そこから足を出せば座れる。姿勢としてはそっちの方が落ち着くけど足に風が当たるので10分も出してられない。まだまだ工夫の余地がありそうだ。色々文句を言うと、「重くなるとスピード落ちるんですよ」という身も蓋もない説明が返ってきた。

 ちなみにこの飛行用の杖は私のように物理魔法が使えなくても魔力を注ぐだけで飛べる。だから自分だけでも飛ぼうと思えば飛べる。

 私の飛行を担当している魔法使いが、2年前に私に協力を願い出た魔法使いだった。別に出世したとかいうわけではなく、私を乗せるなら信頼できる彼がいいだろうということで今回のために特別に抜擢されたそうだ。

 王都の出世争いは賄賂や実家の役職で決まるところがあるので彼はそういうレースに参加できてはいないそうだが、普通に魔法は使えるので実務ではそこそこ活躍しているらしい。

「私の推薦じゃ嫌がらせも多かったんじゃない?」

「そうでもないですよ。元々実力採用じゃないっていうのが明らかだったので、みんな親切でした」

「それはよかった」

 たまたまその場で私の味方をしただけという説明だと話は軽い。彼は、私が過去に彼の兄を魔法で治療したことの恩を返すために、一緒に死ぬことを志願したのだ。そこまでの忠臣はさすがに何人もいない。推薦もその忠義に応えるためにした。こうやって話していても彼が人情に篤いことはなんとなく伝わる。魔法部隊の中でも仲良くやっていけてるのだろう。

 飛行部隊の魔法使いは風防の外に座っている。だからこの会話も板越しのもので顔を見てのものではなかった。

 兄の方は順調に回復していて、また魔法を使うようになったそうだ。元々レシレカシに入学できていたのだから兄も優秀に違いない。一家として上り調子ということだ。そのほかにも王都の魔法部隊の内部事情を色々聞いた。どこの組織も似たようなものだが、上官や出世する上の人間はほとんど魔法が使えず、中堅の叩き上げが実際のリーダーなのだそうだ。私の飛行を担当している彼も、成り行きでそういう叩き上げコースに乗ってしまっているとか。

「けど私は王都採用ではなくしがない地方の魔法部隊の出身ですからね。そこまで実力があるわけじゃないです。リーダーって器でもないです」

「まあまあ。本当に実力がなかったら推薦しないよ。こうやって魔力で空が飛べるだけマシさ。この杖も使えない自称魔法使いだって一杯いるんだから」

「ははは。それはそうです」

「って、この会話、ほかの人にも聞こえてるんじゃないの?」

「風が強いからほとんど聞こえないですよ。それに、飛行部隊はやっぱり実力主義です。私以外もちゃんと飛べることが第一条件で選ばれてますから、叩き上げばっかりです」

「よかった」

「それよりもあの南西蛮族の方が注目されてますよ。普通の杖で子供3人乗せて平気な顔してるんだから。あれは誰にも真似できないです」

 むふー。「やっぱり実力バレちゃう?」

「そうですね。あとで話を聞いてみたいです。飛行魔法を自分で唱えて、杖はそれを増幅しているだけなんですよね?」

「そういうこと」

「あんなの見たことないです」

 板越しなので見えないが、外で風を受けている彼がネゾネズユターダ君の方を注目している様子が想像できた。他の4人の魔法使いも彼を見てるんだろうか。たぶん本人は子供が身を乗り出さないように気をつけるので精一杯だろうけど。


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