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魔法使いザラッラ  作者: 浅賀ソルト
“評価不定”の2つの自立
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治療タイムトライアル

 感動シーンの定番の「見える、見えるぞ」だけど、元から目が見えてた人が失明したパターンじゃないと回復の感動シーンにはなりにくい。さらに私の魔法には即効性がないから余計にリアクションが薄い。そういう感動シーンにならない。眼球、網膜、視神経といったものを普通の擦傷すりきずや切り傷のスピードで数週間かけて治させる魔法なのだ。その場では何も起こらない。とはいえまったくゼロではなくて私の魔法でもすぐに見えるようになるタイプの人もいて、そういう人からは感謝もされた。ありがとうございますと繰り返し言われてしまった。その人が何がどう見えるようになったのかは私には分からないけど。そしてそれ以外の人はなんにも見えないじゃないかと抗議する。私は「1ヶ月くらい待ってね」と言うのみ。向こうは納得もしないがそれ以上の抗議もしないで引き下がる。これまでも何度も経験したことである。盲目と違い難聴については少しマシ。耳鳴りが消えましたとすぐに感謝される。こちらも視覚と同じくちゃんと回復するのは数週間後から数ヶ月後だ。

 その場で目が再生したり腕が生えてくる回復魔法もある。特殊な系統である。私はできない。

 あとは認知症の老人とアルツハイマー症の老人を治した。脳神経に関しては私は得意分野である。アルコール依存症も2人いたのでそっちも治した。アル中はどこにでもいる。アトピー性皮膚炎もいた。これは専用の『アトピー性皮膚炎を治す魔法』で一発だ。あまりレシレカシでは見かけない病気である。ハンセン病患者も1人いた。遺伝子操作と関係ないので得意ではないが私も一応治せる。こっちはネゾネズユターダ君に任せた。火傷のケロイドも彼に担当してもらった。

 私では治せない症状の人も4人いた。こればかりはしょうがない。

 で、人混みの中で私を尋ねてきたのに私から隠れるようにこそこそしていたのが、母親らしき女性に手を引かれて斜めに立ち口を半開きにしている10歳くらいの男の子だった。

「お、これは低酸素による高次脳機能障害か。初めてだな」

 あまり長生きできないので私のところに連れて来られる事が無い症例である。男の子の目はどこの何を見ているのか分からなかった。

 付き添いの女性が、「2週間前に倒れてこのようなことになって」と言って泣き始めた。

 こっちはテンポよく魔法をかけているところである。杖のおかげで疲労もほとんどない。テンションが上がってきたところに、魔導書で学んではいたけど使うことが無さそうな魔法を使う機会が転がり込んできた。申し訳ないけど女性の同情を誘う口上は聞き流させてもらおう。

 この『|脳機能障害を治す魔法《ヌロパベジ゠ズスカ゠ヌヨ゠バガロイオゼギナシヒ》』は非常に難しい。なんといっても症状が人それぞれにまったく違うからだ。とはいえ長くなるので詳しい解説はやめておく。ちなみに『|知能障害を治す魔法《ヌロパベジ゠ズスカ゠ヌカ゠ハネコトミエヂエ》』と同系統で、ヌロパベジ゠ズスカという魔法使いの発明で、このヌロパペジ゠ズスカは私が尊敬する魔法使いの1人で、それを人に言っても誰それという反応しか返ってこないという、そんな感じである。難しい上に使う機会が少ない上に使ったところでそのすごさが伝わりにくいという、なんのためにこんな魔法ばかり研究したのか分からないところが私好みで超リスペクト。

 私は慎重に少年の頭を魔法で調べて、そこから『脳機能障害を治す魔法』を唱えた。杖の先の輪を少年の頭に乗せた状態である。魔法は成功した。

 そしてこれはすごい偶然だけど——とはいえ確率の問題で奇跡ではない——成功した瞬間に少年の認知機能が回復した。表情に理性が戻り、口が閉じられ、それから「あれ、お母さん?」と喋った。

 ちょっとの間があった。

 それから少年を連れてきた女性が男の子を抱き締めた。男の子はよろめきながらも自分の足でしっかり立ってバランスを取って受け止めていた。数秒前の運動機能とはまったく違っていた。

 その光景を見た周囲の人間が腹の底から「うおおおぉおぉお!」と歓声を上げた。両手を上げて万歳をしている。

 さすがの私も予想もしてなかった即時回復にドヤ顔を隠せなかった。でかい杖を頭上に掲げて、歓声に応えた。

 終わりよければすべてよしというけど、最後の締めが劇的だったのでそれまでの微妙な空気が引っくり返った。

 時間がかかると思っていた。体感はあっという間で、実際にも会話をほとんどせずに魔法を唱えるだけだったので30分くらいで済んでいた。杖があったとはいえベストレコードだ。平均で1人18秒である。

 周囲の止まない拍手の中、私とネゾネズユターダ君は自然に近づき、2人で並んであらためて手を振った。

 靜かになるのを待ってもしょうがない。そのあとにスピーチをする予定なんてない。

「よーし。飛ぼう飛ぼう。行こうぜ」私は喧騒けんそうの中で飛行部隊のメンバーに声をかけた。

 最初に見たときから気づいていたけど、隊の中に、2年前の子供の救出のときに助力を願い出た魔法使いがいた。そのときはねじれた木の杖を持っていたけど、今はギュキヒス王都の正規魔法使いの杖を装備している。おひさしぶりですと彼は私に挨拶した。


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