家族との挨拶
念の為もう一度説明しておくとラブパレードというのは私の地元ギュキヒスの地で開催される祭りである。東の辺境ダトベ城という城からスタートして一週間かけて王都までパレードするイベントだ。移動するキャラバンには音楽隊が同行する。沿道は音楽な鳴り響きそれに合わせて人は踊る。踊るときに男女共に上半身裸になるというのがなぜか決まりになっている。つまり街道のキャラバン隊の隙間を裸の男女が埋め尽くして一緒に練り歩くという光景が一週間に渡って続くことになる。
今回のラブパレードは実家から正式な招待を受けてのものだ。当然だけど転送ゲート使用許可も正式に下りたし、送迎費用から何から何まで向こう持ちである。
まあ、それぞれの費用がどこからいくら出ているかなどぶっちゃけ私は知らないんだけど。私はお礼に関しては、メイドからこの人にそう言えと言われた通りに「おいしい食事をありがとう」「素敵な服をありがとう」と笑顔で言うマシーンである。
服といえばこの第2回の服は非常によかった。前にもちょっと言ったけど、このラブパレードでしか披露できないような前衛的ファッションが全国から集まった。デザインの方向性としてはトップレスOKのレギュレーションに忠実に服の胸のところだけでっかい穴にして放り出す系のもの、放り出した上でシースルーの生地で覆って乳首が透けて見えるもの、あえてニップレスでそこだけ隠すもの、様々である。それ以外にも色々なデザインが見られた。数としてはそこまで多くなく、1日2回か3回のお色直しをすれば私1人で全部お披露目できる点数だった。
数が増えて私以外のモデルも雇って大々的なショーに発展していくのは第3回以降の話である。
レシレカシにいるギュキヒスの代理人などと話をして、スケジュールに合わせて私は転送ゲートからギュキヒスの王都へと移動した。普通の陸路だと1週間以上かかる距離である。私に先行して何人かは現地に移動済みらしい。
祭りの最終日にまたここに戻ってくることになるが去年の経験からそのときにまともに挨拶したりディナーを一緒にするというのは難しい。疲れてそれどころじゃない。なので実家への挨拶はその時に済ませた。
非公式な家族水入らずの場が設けられて、部屋へと通された。
水入らずといってもネゾネズユターダ君の同席は認められず、乳母が3人目の子供を抱え、私は2人の子供と手を繋いで談話室に入室するという形式だった。ちなみにそのときは私が自分の卵を身につけていた。こんなんでも以前は私の子供——私生児だけどさ——の同席も認められなかったのだからちょっとした進歩だ。
談話室にいたのは私の母、私の兄でギュキヒスの現国王、その妻、もう1人の兄とその妻、私の妹と弟。姪や甥はいなかったので子供は私の子供3人だけだった。
ついでだからここで名前も全部書いておこう。覚える必要はないので飛ばしても大丈夫。母の名前はギツ゠セソデ。一番上の兄がピワデレベシュ。もう1人の兄がワギョゼメデピハニャハサウ。妹がギャロレ゠ソグスギョシャセ。弟がミブギョニュ。私はこの兄弟の中では3人目で長女である。名前はザラッラ゠エピドリョマス。兄2人の妻の名前はそれぞれ、ニャハデレギョ、ソヴヤペネズ。繰り返すけど覚えなくて大丈夫。帝国時代の本にもこういう家系図の覚えにくい名前が出てくるけどね。
ちょっとした挨拶をしたあとですぐに母が、「相変わらず下品な目の色ねえ」と言ってきた。
私の目は失明したときに使った魔法『妖精の目』のせいでワインレッドになっている。薄紫、ピンクがかった赤、紫とピンクの中間、夜明け前の空の色で、この魔法を使わないとならない色だ。私の子供にも遺伝していない。一族の瞳には無い色なので血が繋がっていないように見えるのだ。
私は特に反論しなかった。はいもいいえもどうもとも言わずに黙っていた。
兄の方が、「親父は部屋に籠りきりだ」と皮肉っぽく言った。
「後で挨拶に伺います」
「よしてちょうだい。会わなくて結構よ」母が強く拒絶した。
「承知しました」私は言った。
「それでそっちがあのときに救い出したっていう子供か?」兄は視線を落として私のそばにいる子供を見た。「大きくなったじゃないか」去年は挨拶していない。
「おかげさまで。ほら。挨拶しなさい」
私が言うと度胸の塊である1人目は、「どうもこんにちは。パビュ゠ヘリャヅ・ギュキヒスです」とはっきり言った。貴族らしく膝を曲げる。子供らしくてとてもかわいい。クソかわいい。思わず鼻息が荒くなる。
そして人見知りが激しい2人目は私の後ろに隠れてもじもじしていた。
その場にいた大人たちは私の子供が「ギュキヒス」と言ったときにぴくっと反応した。しかしそれ以上の反応はしなかった。もちろん私生児とはいえここにいる3人はギュキヒスである。実家に色々手続きを取って命名もしてもらっている。公認の子供である。
ちょっと人見知りが激しくてと私は謝罪した。「今回は祭り参加に御尽力いただき、ありがとうございます」
兄は急にリラックスした表情になった。この話題は嫌いではないようだ。力の抜けた普通の無邪気な笑顔を浮かべる。「現地に行って自分の人気を確かめて来い。すごいぞ。去年よりすごい」
「お兄様を差し置いて申し訳ございません」
「いやいや。辺境ではどんなに頑張っても嫌われるものだ。反乱がなければそれで良しだ。それが今じゃ地主よりお前の方が人気がある。おかげで俺もちょっとした人気者だ」




