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魔法使いザラッラ  作者: 浅賀ソルト
“評価不定”の2つの自立
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現時点における地元との距離感の簡単なまとめ

 その日の昼食会を終えて私が図書館へとキャンバスを歩いているときに声をかけられた。学生ではないが教授でもないくらいの年齢の男だった。大学運営の関係者で、私のことを極端に意識して恐縮した話し方をする男だったのに私が苦手にしていた人間である。畏れすぎているということは何かのきっかけで手のひらを返すということでもあったからだ。名前はカノマキャグスというが、名前はどうでもいい。

「ザラッラ゠エピドリョマスさん、一応、お耳に入れたいことが」

 私は足を止めて彼の顔を見た。ちょっとした連絡ならメイドか助手か、それ以外の誰かに伝えればいいわけで、私に直接声を掛ける必要はない。めんどくさいなと思ったが一応、何を言うのかを待った。

「レシレカシがお金を発行することが決まりました。偽造防止の仕組みを作って来年には発行する予定です」

「ふーん。分かった」

 私の食い付きが悪くて焦った彼は付け加えた。「編入を希望して独立したヨオヘ盆地も返還して、ショショグレ国とは協定を結ぶことになりました」

「ふーん。分かった。ありがとう」

 彼はそれ以上は話してこなかった。


 レシレカシの魔法技術の中に偽造防止の書類というのがあって、これは契約書などによく使われていた。あくまで偽造防止なので契約内容についての拘束力はない。奴隷契約だの、願いを叶えたら魂をいただくだのといったことを書いても、実力がなければただの紙である。それでも偽造ができないというのは取り引きにおいては重要な保証なので、この用紙はそれなりに高値で売れるレシレカシの商品だった。

 この技術を紙幣に応用するというのは悪くないアイディアだと思った。

 お金を発行するという話は、それだけでは済まない難しい経済の話になるのだろうけど、レシレカシの頭のいい教授たちが色々と考えて決定したのだろう。私としては今後の展開を見守るしかできなかった。


 第2回ラブパレードの季節が近づいてきた。去年は1人目の子供のパビュ゠ヘリャヅしか連れていかなかったが、今年は3人目で生後6ヶ月のケテマ゠シソまで全員連れていくことになった。メイドもその子供も含めて全員である。助手だけは参加しない。

 私が決定したわけではなく、関係者の話し合いで決まった。私自身は参加者の選定に決定は出さなかった。私の関係者をレシレカシ残留と2つに分けることの方がリスクになるという理由からの判断だそうだ。まあ、自分がいないところで子供に何かあったらと思えば、幼くても側に置いた方がいいと私も思う。これだけの人数を約2週間の旅行に参加させる調整は大変で2ヶ月ほど前から準備があった。私は基本的にノータッチだけど、持って行く服をどうするかとか、質問や確認が随分早かった。

 私のラブパレード参加の顛末について、語らなくてはいけないことは実はそれほど多くない。

 私の自立に繋がる要点だけ先に話してしまおう。

 ラブパレードのスタート地点であるダトベの地はギュキヒスから離れていて独立気質の強い土地柄であった。どちらかというとギュキヒス家については反感の方が強かったけど、その土地で私は熱烈に受け入れられていた。ギュキヒスも嫌いだけどそもそも領主とか支配者というのは嫌われるもので、そこに私がふらりとやってきて、誘拐された子供を取り戻し犯人である領主をぶっ殺したというストーリーは大衆に非常に受けがよかった。さらに私はダトベ領主だけでなくギュキヒスにおいて私の父親のギュワレズもアレしたという噂があり、ギュキヒス嫌いのダトベの民にはますます受けがよかった。アレしたという噂も嘘ではないし。そうなると、ダトベの地はどこの馬の骨とも知れないザラッラ゠エピドリョマスの影響力が強くなり、地元の大地主などは自分の地位が怪しくなってそわそわするようになった。私が直接乗り込んで直轄地ちょっかつちにするつもりなんじゃないかという噂まで出てきたのである。そんなつもりはまったくないのにね。

 レシレカシではちょっと派手な格好をして構内で偉そうにしている研修生くらいの存在だけど、ギュキヒスの地だと私に対する扱いは違う。良くも悪くも振れ幅が大きい。冗談ではなく関係者が生きるか死ぬかにまで結果が及ぶのでデリケートなのだ。貢ぎ物をして盛大にヨイショするか、そうでなければ一思ひとおもいに殺してしまおうなんて考えまで出てきてしまう。どの政治でもそうだが、直轄地になることで得をする奴もいるから、私の意思とは無関係に駆け引きが始まってしまう。

 ダトベの中でもそうだが、本国ギュキヒスの中でもそういう利害関係の綱引きが始まっていた。

 この第2回ラブパレードにおいて何かが決定的に変わる事件は無かった。だが、水面下ではそういう動きがあって、私を利用しようとする奴と厄介だと思う奴が、私は何もするつもりもないのに勝手にあれこれ私に言ってくるというイベントであった。何かあったら私にお声がけくださいとか、うちと手を組んだらどれだけの分け前をあげますよだとか、あとは数えきれないくらいの陰口や悪口——誰それは裏で誰それと繋がってますとかそういうの——を聞かされることになった。

 めんどくさいけど、こっちとしても利用できるものは利用しないといけない話でもあった。

 自立とは関係ないけど、ラブパレードには私の卵も持参することになった。助手とネゾネズユターダ君の『遠隔子宮』によって三つ子入りの1つの白い球体が作成された。妊婦としての私の負担は相当に減った。卵はネゾネズユターダ君が主に見張ることになった。


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