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魔法使いザラッラ  作者: 浅賀ソルト
“評価不定”の2つの自立
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引っ越しの相談

「それでは私はここで失礼します」助手のキューリュは途中でそう言って離れていった。「講義、よかったです。明日もよろしくお願いします」

「構成はあなたの力だよ。資料作りもありがとう。じゃあまたね」私は礼を言った。

 帰り道はネゾネズユターダ君と2人きりになった。メイドはどこか見えないところに控えている。

 この集中講義の期間は夕食が遅くなるのが厄介だ。試行錯誤の末、今は講義前と後で軽い食事を2回に分けることにしている。講義前にはサンドイッチを食べた。

「今日はこれからメイドと2人目の子供を作るんだよね」ネゾネズユターダ君は言った。「メイドさんに言われたことなんだけど、そろそろ家をなんとかしないと」

 簡単に言っているけど、ネゾネズユターダ君とメイドの関係はちょっとした休戦状態みたいなものなので、彼とメイドが何か相談しているというのは珍しい。「ああ、そういう話?」

「ピュゴダ゠グス(2人目の子供)君ももう同居させないと可哀想だよ」

「まあ、私は1階が今のままなら好きに建て替えていいよ」私は言った。2階や地下に移動したくないから。リビング、ダイニング、ベッドルームが全部1階にある今の家がお気に入りだ。

 うちは3階建てで地下もある。地下は貯蔵庫になっていて2階がメイドたちの部屋。3階が子供部屋になっている。一応屋根裏もあるけど立って歩けないくらい低い本当の屋根裏部屋である。私のいる1階と子供部屋が遠いのは子供がうるさいからだ。夜の世話はメイドに任せてある。

 2階に私があがらないといってもメイドたちは1階の寝室を使うことは嫌がるので、メイドとの日は私が2階で寝て、ネゾネズユターダ君は1階で独り寝をする。このあたりは相談してこの形式に落ち着いた。3階の子供部屋にはまだ子供なら3人か4人分くらいの余裕があるけど……。

「あと数年でうちは子供だらけになるもんなあ……」私は言った。

「そうなんだよねえ」ネゾネズユターダ君が心配するように言う。「ものすごく賑やかになるから楽しいとは思うんだけど」

 私が三つ子を生んで、メイドたちの子供も毎年増えるとなるとあっという間に手狭になる。

 ネゾネズユターダ君は言った。「改築とかじゃなくて、もっと広い土地にどーんと建てる必要があると思うんだ。で、引っ越しはどうかなっていう話なんだけど」

「それでネゾ君が私に話をつけようってことになったのか」

「まあ、そういうこと」

 一番内側の大学構内はこれ以上土地が余ってない。その外側の学校の壁の内側には実演場もあったりして、場所がないこともない。とはいえ、そっちに引っ越すとなると図書館からは離れるし、色々と不便だ。あと、贅沢とか我侭わがままと言われるだろうけど、一番内側に住むというのは学長や一部の人間の特権であると共に、分かりやすい“身分表示”でもある。外側に引っ越すというのは体裁ていさいが悪い。

「引っ越すのはいいけど、内側でいい場所を探すようにって言っておいて」

「ん、分かった」その返事は想定内だったようで、ネゾネズユターダ君は無理とは言わなかった。「塔とかでも平気?」

「塔はやだなあ」私は言った。「許されるならあのモルタルのレトロな研究棟がいいな。あそこを改装してさ。でっかいから20年は住めるでしょ」

「あそこは無理じゃないかな。今の建物で僕がいいなと思うのは研究棟とか」

「いいね。外に出ないで図書館に行ける。そういえば図書館の横に別の建物がなかった?」

「『ビニピニ館』だね。あそこもいいな」

 それから私とネゾネズユターダ君は大学構内の建物を列挙してはあーだこーだとランク付けして遊んだ。もちろんどの建物も研究室や教室があって無人ではない。しかしすでにうちは10人を越えた人数が生活しようとしていて、使用人も含めたら多めに50人くらい見積もってもいい将来が見えている。どこかの建物と建物の隙間に新しく家を建てるのでは間に合わないだろう。

「あれ、内側は無理じゃね?」

「いや、そんなことはないよ。5年後にまた引っ越すかもしれないけど」

「うーん、そんな感じか。あとは子供は大きくなったら寮に入れるしかないかもねえ」私は言ってネゾネズユターダ君の顔を見た。私の一言にもう顔を曇らせている。「平気?」

「うーん。我慢する。すぐ近くなら会えないわけじゃないし」

「子離れしてよ。パパ」私は彼の背中を叩いた。

「いやいやいや。まだそういう話は早いでしょ。パビュ゠ヘリャヅは今が最高にかわいいんだし」

「あははは。帰ったら次の子供を作ろうよ。まだまだ生むよ」

 私のセリフはウケ狙いの冗談だったけど、ネゾネズユダーダ君は私をぎゅっとハグして固くなった股間を押し当ててきた。何も言わずに鼻の音を大きく立てて私の匂いを嗅いでいる。

「どうしたの?」

「幸せの匂いを嗅いでいる」

「ちんちんバッキバキにして?」

「君の匂いはちんちんバッキバキになる」彼はわざとらしくシリアスな口調で言った。

 そのまま足を止めて夜のハグが続いた。それから色気のないやりとりの余韻が段々笑いになって、お互いにはははと笑った。

 体を離して歩き始めた。私は言った。「ほらほら。今夜も私をヒーヒー言わしてよ」


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