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魔法使いザラッラ  作者: 浅賀ソルト
“評価不定”の2つの悩み
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生徒たちとの昼の会食

 そのあと会話は、私が元はレシレカシが好きではなかったのかという質問になった。私は適当にはぐらかした。学校が好きな人間なんていないでしょとかなんとか。あまりそこを深く話してもしょうがない。今の自分は研究生として好きなだけ本を読めるから学校に満足していると言ってその場をまとめた。

 元気な女生徒が悪戯いたずらっぽく小声で言った。「教授の呼び出しの件、一つは間違いなくあの魔法ですよ」

「あの魔法?」心当たりがない。

「もう毎月、何人かは貧血で倒れてます。先生たちの間でも問題になっているみたいです」

 それで分かった。2年前に開発した魔法だ。「あの魔法か。副作用が激しいから気をつけてって何度も念押ししたんだけどな」私は3人の顔を見た。ニヤリという笑みが3つ並んでいる。「……みんな使ってるのか」

 私のつぶやきが自罰的じばつてきに聞こえたんだろう。元気な女生徒が、「分かっててもやっぱり使っちゃいますよ。先輩のせいではないです」と言った。

「使いたくても使わないように自制してくれると思ったんだけどね。うーん」

「呼び出しの件が本当にそれなら申し訳ないです」

「いやー」私は笑った。そこは本当に気にしていない。「自分も便利だと思ったから開発したんだし、人にも教えたんだし、そこに後悔はないよ。それで教授に叱られたり罰を受けたりしても、それは無視するだけだし」

 3人ははははと笑った。

「ただ、体に負荷がかかるのは確かなんだよなあ。あまり使って欲しくないのは本人のためなんだよ。乱用らんよう禁止は私が責任取りたくないわけじゃない。まあ取ってもいいんだけどさ」私は少し先輩ぶった口調になった。

「けど、本当に助かってます」

 元気な女生徒が言うと他の2人もうんうんとうなずいた。

「これも『生理痛軽減』みたいに広がりますよ」力強く確信を持って女生徒は拳を握った。

 私は自分の魔法が口伝で拡散されていく様子が目で見えるような気がした。水の中に染料を溶かす、不可避の拡散のイメージだ。「まあ、こうなったら止められないだろうなあ」

「そうですよ。絶対に無いよりはあった方がいいです。すごい発明です」

『生理痛軽減』といえば、ということで私は朝の出来事を話した。感謝してきた生徒の名前はまだ覚えていたが、会食の3人には伏せておいた。教えることでトラブルになったら本意ではない。

 滅茶苦茶に感謝されちゃったという話をすると、生徒の1人が、「学校の入学案内に書いておいてもいいくらいだと思うんですけどね」と言った。

「入学案内はおかしいでしょう」

「そのくらい必須にして重要な魔法ですよ。寮で生活していると先輩から後輩にこっそり教えられるんですよね。先生が教えるんじゃなくて」

「そうそう」

 声の小さいおとなしそうな女生徒が言う。「面白いのは、あの魔法は、嫌われてても、意地悪な子でも、ハブにされないんですよね。ちゃんと誰かが教えるんです。それがすごくいいなと思います」

 私は彼女の顔を見た。満足そうな顔をしている。「それはいいね。面白い視点だ。朝の子は通学の生徒っぽかったから、教えられるのが遅かったのかな?」

「通学生に教えるタイミングは難しいかもしれないです。もう知ってるかもと思いますし」

「重い人は重いですから。それであの魔法を知ったら人生変わりますよ」もう1人の女生徒が言う。

 元気な女生徒の声はちょっと大きい。「それで今度はあの魔法でしょ。あれもすごいですよ。どうやって開発したんですか?」

「これはもう何回も説明しているけど」私は自慢するために“タメ”を作った。一拍置いて3人の顔を見回す。「出産したのがきっかけなんだよ。この感覚と体験を応用できそうだなと思って。あと、体に悪いっていっても出産よりは楽だよ。あの魔法も」

 私は笑顔を見せた。ドヤ顔になってしまった。

「『生理痛軽減』は自分の魔法だと言わずに人に教えて、こっそり拡散したんだけどね。誰も私の魔法だって知らなかったし。今回は最初から作者が私だとバレちゃってた」

「聞いたとき、絶対、ザラッラ先輩のオリジナルだと思いました」元気な女生徒が顔を近づけてくる。

 他の2人も頷いていた。

「先輩の魔法って、どこか発想がぶっとんでますよね。最高です」

 いい誉め言葉だ。私はこういう誉め言葉には弱い。ついニヤついてしまう。「いやー、ははは、まあねー」

 間抜け面でいい気分になった私を見ても3人は幻滅しなかったようだ。つられて笑顔になっていた。

「教授の話が貧血の責任って話だったら、みんなで抗議します。安心してください」

「うん、ありがとう」

 そのあとも色々な話になった。

 会食では何度か話題になることだが、私が教授になったり学校の執行役員になったりしないのかという話題も出た。私は否定した。これも繰り返していることである。私が学校に在籍できているのは、私が学校の権力から無関係であることも大きのである。多額の寄付をしている貴族の娘が学校の中で実際の権力まで握ろうとしたら、本当に本当の厄介事が発生してしまう。学生にはなかなか伝わらないことだ。便利な魔法を作ったんだから学長になってくださいよーとか言われても困るのだ。えー、残念です、と生徒たちは無邪気に惜しんでいた。

 話題はほかにもいくつかあったが、2つの悩みについては口に出さなかった。ネゾネズユターダ君が子供に会いたがっているという話はプライベートなのでする必要もないが、もう一方の、次の『遠隔子宮』についての話もしなかった。まだ着手もしてないのに、こんな魔法が生徒の間で話題になってしまってはたまらない。

 学内の色々な話題はほかにもたくさんあった。

 やがておしゃべりが終わり、昼の会食は終了となった。


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