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魔法使いザラッラ  作者: 浅賀ソルト
“評価不定”の2つの自立
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娘と一緒に特別講義へ

 助手と、講義の服装をどうするかという話になり、時間に余裕があるから着替えようという話になった。私は研究室から家へ移動した。

 大学構内だけとはいえ自分も結構徒歩移動していると思う。

 服は真紅のタイトなロングドレスで脚にスリットが入っているものにした。胸の形に合わせて裁断してあるので凹凸がはっきりするのはいいのだけど、まだ母乳が出るのでロングドレスはあまり嬉しくない。と思ったらそれは上半身も襟首から脇にかけてスリットがリボンで留めてあっていざとなったら上半身だけ脱げるようになっていた。いい仕組みだ。

 娘はもう学校から帰ってきていて、同じく帰ってきているネゾネズユターダ君と床で遊んでいる。この2人は2年前に実家から取り戻してからずっとべったりである。

「さて、講義に行くけど、ネゾ君はパビュ゠ヘリャヅ(1人目の娘の名前)を連れてくるの?」

「できればそうしたいけど、3時間の講義はさすがに無理だよねえ」ネゾネズユターダ君は寝っ転がった体勢で娘を持ち上げながら言った。

 娘はきゃっきゃと笑っている。「できるよ。余裕」

 ネゾネズユターダ君は一瞬だけ迷ったけど、「御免ね。お母さんが仕事だからおうちで遊んでて」と言った。

「できるもん!」

「うーん……」

「最初の何分か受講させて、飽きたら外に出たら? ネゾ君が出ている間は新しい話はしないからさ」私は言った。

「うーん」

 レシレカシは10歳から18歳までの子供が一箇所に集まって共同生活をしているし、その上の大学生も基本的にはそこの出身だ。小さい子供の扱いには慣れている。それに一目で私の娘と分かる容姿をしているので周囲の学生もそこまで邪険にはしないと思った。

「じゃあちょっと講義を聞いてみるかい?」

「うん」

 娘は元気よく返事をした。まあ、実際には3時間の講義は大人でもじっとしているのが難しい長さだ。間違いなく途中で退場することになるだろう。それに終わる時間が遅いから最後まで起きているのも無理だと思う。ネゾネズユターダ君は子供を寝かしつけに家に戻ってそれから教室に再入場という形になるだろう。

「よし」ネゾネズユターダ君は床から起きて娘を抱っこした。

 娘は彼の服の胸にしがみついている。

 彼が1人目の娘に構う理由は聞いている。どうしてそんなにべったりなのと聞いたら、最初の子供が生まれたと思ったら翌日には実家の方に連れ去られたのがなショックだったのだという。ギュキヒス家の大人たちが偉そうにやって来て、子供に子供は育てられないから我々に任せろと言ってきたら抵抗できなかったのだけど、本当は嫌だったのだそうだ。

「最初の子供が出来るのはすごく嬉しかったんだ」と彼は悔しそうに言った。「楽しみにしてたのに」

 まあ、それは私も知っていた。私の大きくなるお腹を12歳の彼は嬉しそうに撫でていた。生まれるのを楽しみにしていた。生い立ちも聞いていた。彼は小さい頃に戦災孤児になり、そこからブユ族の族長の養子になった。本人もその経緯は覚えてないのだけど、そのあとで魔導書の解読の懸賞金目当てでレシレカシに10歳で派遣されるのだから、おそらくは子供の頃から見て分かるくらい優秀だったのだと思う。10歳までは族長の家で勉強しながら子守をしていたというのだから不思議な話だ。

 そんな彼だから自分の家族ができるというのは嬉しかったに違いない。13歳で父親になって、すぐに子供がいなくなっても、彼は私に抱き付くだけで泣いたりはしなかった。今は穏やかな顔をしているが、彼の人生はあらためて考えると相当にハードである。その年齢で涙を我慢するような人生だったのだ。

 5歳の娘を抱っこした彼はそのまま私の横に来て体を寄せてきた。肌が触れると私も反応して熱っぽくなる。成長ホルモンの影響が出ていて、私の身長はまた彼と同じくらいになっていた。彼は同じ高さの私の頬にキスをして、「じゃあ行こうか」と言った。

「じゃあ行こうか」娘が真似をした。「あははは」

 彼は娘を抱っこしながら私にも腕を回そうとして苦労していた。結局肩車をして娘の足を片手で押さえようとしたけど無理で、私と手を繋ぐことは諦めた。両手で娘の足を持っている。しょうがないから私から彼の体に腕を回した。ネゾネズユターダ君の頭を叩いていた娘は近くに来た私の頭もべしべしと叩き始めた。

「いでっ」私は思わずうめいた。

「あははは」そんな私を見てネゾネズユターダ君が笑った。

 講義棟まではちょっと距離がある。辺りはもう暗くなっていた。

 3人で歩いていると同じ方向へ歩く受講生らしい学生が挨拶をしてきた。「今日からよろしくお願いします」

「はーい。よろしく」私が手を振ると、肩車されている娘も学生に手を振った。

「今日は娘さんも一緒なんですね」

「最初だけね」

「かわいー」

 機嫌がよくなった娘はあちこちに手を振っていた。


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