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魔法使いザラッラ  作者: 浅賀ソルト
“評価不定”の2つの自立
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卒業間際の名物

 午前中が潰れてしまったので図書館は諦めた。黒ずくめの魔法使いスタイルで生徒との昼食会には参加できないので家に帰って着替えてから学内のレストラン『ヒペスザプピネレシレカシの食事』へ向かった。今日の昼食会の参加者は男ばかり6人なので、エッチに胸の谷間と横乳が見える臍出しの白いシャツを着て、下はその短い上着で丸見えのガーターとストッキング。そして足の付け根や後ろの腰がちらっと見えるように穴が開いているショートパンツをガーターベルトの上に穿くという、街の売春婦でもこれよりおとなしいぜという格好にした。シャツの裾とショートパンツの間にも金具が付いていて、ベルトで上着からショートパンツを吊っているように見えるデザインになっている。そのベルトの下にガーターがあって、ここからストッキングにもベルトが伸びている。全体に短い服を細いベルトで繋げるというデザインなので、これなら長手袋もして袖と手袋もベルトで留めた方がいい気もしたけど、このファッションはこれで完成なんだそうな。ショートパンツは薄い黄色で、ストッキングには薄い赤の刺繍が入っていた。どちもあまり見ない色で、染料の新商品っぽかった。気合いが入っているのが見せガーターで、ショートパンツの上に位置して一番目につくところだったけど、幅広で花の刺繍が入っていて、衣装として見せる機能を備えた一品だった。

 レストランに行く途中でも男子生徒が私の胸や絶対領域をちらっと見ては目を奪われて二度見していた。

 さて、昼食会だけど、男子が6人だとちょっと雰囲気がよくなった。これは私も予想していた。4人くらいまでならいいけど、男が増えると男同士の会話が増えてしまって、私が“いじり”の対象になってしまうのだ。私は全体の力関係を見て、参加者のうち2人の関係を分離した。そこの連携を分離すると、全体のザラッラ゠エピドリョマスいじりはなくなった。

「みんな私と寝たことない子ばかりだけど、卒業前にどうしてもって人はいるの?」

 私が聞くと1人が俺はいいですと言って、そこから次々に3人が続いたけど、残り2人は無言だった。自然とその2人に視線が集まった。

 こうなってしまうと、本人は迷っていても周囲からはバレバレである。本当はやりたいのにそれを言うのが恥ずかしくて固まってしまっている。そこからまた時間が経過して、やっと1人が、「僕もいいです」と遠慮すると、最後の1人も、「僕も」と言ってその話は終わった。

 こういうときの男同士の、抜け駆けすんなよの圧はちょっと面白い。「ん、分かった。気が変わったら連絡してね」私は言った。

 念の為言っておくと、私は求められたら必ず応じるわけではない。連絡が来てもそこでどうするかはまたそのときの話である。

 そのとき中途半端な時間なのにレストランに1人だけの男性客が入ってきた。学生だった。私が気になって凝視したので、昼食会の6人もそちらを見た。

 知っている生徒だった。3年くらい前に相手をしたことがある。学年は覚えていないが、なんとなく今年卒業なんじゃないかと思った。雰囲気で。寝不足っぽいのは卒業試験の勉強だろうし、そして卒業間際にこんな風になるのは彼が初めてではない。レストランに入って、そこで誰かを探すように中をキョロキョロ見回している。すぐに私を見つけて視線が固定された。ずんずんと血走った目のまま私に向かって近づいてくる。

「あー」私は言った。同席している男子生徒にだけ聞こえるように。「試験勉強してると急に私とのセックスを思い出すらしいのよね」

 その生徒は私のいるテーブルに到達する前に、レストランにいた給仕たちに取り抑えられた。両脇から腕と肩を捕まれて床に寝かされた。あっという間の手際だった。「はなせ」という声の「は」だけ店内に漏れたが、それ以上の騒音は許されなかった。口を塞がれてすぐに外に引き摺り出された。

 店内の騒ぎは最低限といったレベルだ。見事なコントロールだった。

「私はこんなんだから、力ずくならなんとかなると思う奴もいるのよね」私は言った。「精神魔法の使い手ではあるし、ギュキヒス家の娘ではあるけど、それでも、他人を自分の思い通りにするのは無理なのに」

 それは私の独り言だったけど、生徒の1人が話し掛けてきた。「精神魔法でも無理なんですか?」

「方向を変えることは可能だけどね。それは将来を保証するものではないんだよ。やってることは説得と同じだから」脳には過去も未来もない。私は口を拭いた。「ちょっと席を外すけどすぐに戻ってくるからそのままでいて」

 私が立ち上がっても生徒たちは座ったままだった。黙って私を見ている。6人のうち半分くらいはおっぱいを見ている。

「そうはいっても、ああなったら私への執着心を消す魔法くらいはかけてやらないとね。試験勉強も進まないだろうし」

 私は生徒が引き摺り出されたレストランの出口に向かって歩いた。


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