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雅雄記  作者: いかすみ
第二章 始祖
9/43

09 始祖2後編

始祖2 虎拳(後篇)



城の警備はさすがで、もう一度同じことを確認される。

ただ違うのは今度は書類のようなものを持っていた。

架空のことを言っていれば、ばれるということだ。

雅雄も聞かれたが一郎の名前を出して、

詳しいことを説明したらすんなり通された。


この国でも狼一郎の名前は有名だ。

狼一郎と面識があっただけで尊敬されたのだからたいしたものだ。

もっとも、事情が在ったのだが、その理由は試合で知った。

前回の優勝者の師匠と言う話だ。

そのため、この国では一郎の名前は結構有名だった。

それ以外、王子から指示がきているのかもしれない。

ここでも大輔は言わなくてもいいことを言って笑われていた。

今度の大会で優勝する男だと。


おそらく優勝できるとは思うが、

取らぬ狸の皮算用にならなければと心配になる。

特に練習嫌いが祟らなければと思う。

あの御者の男は強いからだ。

見たところ、罠に嵌ったゆえにやられていただけだ。

実力からすれば、大輔と同等以上に見えた。


城の上のほうにつれて行かれる。

あまり大きな城ではなく、3階層だけの城だ。

王族エリアにつれてこられたのがわかる。

侍女の服があきらかにいいのだ。

そのうち見たことのある侍女が立っていた。

馬車で王子の横にいたものだ。

大輔にはわからなかったようだ。

雅雄は軽く頭を下げた。

侍女はにっこりと笑って雅雄の手を取ってくれた。

雅雄は60歳ぐらいの老人を貼り付けている。

侍女も老人を相手にしているように手を引いてつれていってくれる。

そんな様子を、大輔がうらやましそうに見ていた。


大きな部屋に入ると王子が正面に座っていた。

「良く来てくれた。勇者よ」

あの大輔の活躍を勇者と評価してくれたようだ。

雅雄は大輔の後ろで控えている。

さすがに大輔は片膝をついて騎士の礼をとっている。

こちらは別に礼もとらず傍観しているだけだ。

王子の傍らには教育係りの老人と侍女の二人がついていた。

「頭を上げよ、恩人に礼をいいたかったから来てもらったのだ。なにか望みが

 あるか? 出来るだけ便宜をはかるぞ」

さすがに王子、立場がよくわかっている。

出来ないことが多いことを知っているのだ。

そういう点は評価してもいい。


大輔にしてはかしこまっている。

『優勝した暁に我々が開発した虎拳を近衛兵に採用してもらいたい』と堂々と

述べる。

王子は『優勝したら望みどおりにする』と確約してくれた。

虎拳に対して好意的に思っているようだ。


守るものに対して動かずしっかり戦ったことをほめていた。

私にたいしても『望みがあるか』という。

その点が、意外だった。

こちらに気を配ると思っていなかったからだ。

『望みは後日渡します』と答えて、その場は引き上げることにする。

一応こちらにも気を回したのは大したものだ。

あの老人は使える男のようだ。

単なる教育係の男で終わる者ではないはずだ。

もっとも王子がその点に気づいているかどうか?




二人が下がった後、王子は苛立ちを隠せなかった。

侍女を下がらせ、教育係りの老人に文句を言う。

『なんで後ろのあの従者の老人は偉そうなのだ』とか、

『王子なのに尊敬していない』とか、

『褒賞に対してすぐに返事しないのは、欲張っている』とかの文句を散々にい

う。

さすがに教育係りをしている老人は慣れた物。

王子の我侭は毎度のことだった。

王子をたしなめると、大輔のために宿を手配するように提案する。

教育係りを任せられてる老人には、後ろの老人が単なる従者には見えなかった

のだ。

しかし、それを王子に言っても無視されるだけなので伝えなかった。

この老人を使いこなしていない王子だ。

いや老人の方も王子に忠誠をつくしていない。

王子は、大輔を手持ちにしたいので了解して宿を手配を了承した。

結果的に王子は自分の首をつないだのだが、気づくことはなかった。




雅雄と大輔は侍女に連れられて食堂に顔を出す。

すると、食堂の主から目一杯感謝された。

侍女の父親だった。

話を聞くと単なる食堂の主ではなくれっきとした貴族の一員だ。

趣味がこうじて食堂を任されているとのこと。

そんな境遇に、本人も満足しているらしい。

食べきれないご馳走を出されて歓待される。

そのさい、侍女が大輔に好意を持ってるのが見えた。

貴族の娘ということだと平民ではきびしい。

大輔が優勝して城付きの上級兵士にでもならないと、この恋は実らないだろう

と考える。

大輔もこの侍女に好意を持っているのだから、優勝するしかなかった。


雅雄は帰り際に料理長の歓待に報いるために、白国でも有名な料理を教えた。

高温の油に薄切りの芋を入れて揚げる料理だ。

そこにいた全員「おいしい」といって高評価を得る。

天麩羅と唐揚げと言う料理だ。

まだ現時点では開発されていない料理だった。

『料理の起源に、緑国王室から広まった料理』という記録が残されていた。

教えても害はないと判断したのだ。


大輔が帰った後、料理長は徹夜で揚げ物を研究していく。

この日以後、料理に揚げ物というジャンルが加わる。

それは瞬く間に民間へ広がっていった。



城から出ると近衛兵から伝言があり宿が手配されていた。

王子の好意をありがたく受けることにした。

この待遇に雅雄は王子を見直す。

大会まであと3日だ。

雅雄は宿まで手配してくれた王子のためもう少し力を貸そうと思った。

そのため、いろいろなところを見学して改良点を探す。

そして、夜は提案書を書いていた。


大輔は侍女にあってから急に練習熱心になる。

今までは、さぼり傾向の大輔が急に変ったのに驚いたぐらいだ。

雅雄は恋愛が人を変えることを知る。

人の感情が為せる技だ。

雅雄にはわからないことだが、知識として仕入れる。

その影響で、わずか3日といえ大輔は確実に進化していった。


街は大会の見学者などで賑わっていた。

参加者も多く腕自慢をしているものも酒場にたむろしていた。

雅雄にとってそれらの光景を見慣れてきたころ大会が始まる。

参加人員300名以上の大きな大会だ。

もっとも、予選の体力テストではねられてこの数だ。

冷やかしも含めればもっと多かった。


昨年優勝の男は第一シードで、近衛兵の隊長が第二シード。

上位16人のうち14人まで城関係のものが割り当てられている。

一般枠は2つしかない。

ずいぶん一般にはきびしい枠組みだ。

おまけに一般兵士は一般参加者として出てくる。

事実上の緑国の兵士のための大会だ。


ここを勝ち抜くのは結構大変だ。

去年の優勝者の実力からすれば大輔でも大丈夫だと判断。

雅雄は最初から参加しないことを大輔に説明してある。

だから大輔は安心した顔をしていた。

雅雄が出たら優勝は無理なのを知っているからだ。


雅雄は、王子に出す要求書を書いていた。

大輔は参加しなくても見に来ないのかと誘ってくれる。

予選など勝つのが当たり前なので要求書に集中だ。

予想通り、夕方には『勝ったぞ』と喜ぶ大輔がいた。

当たり前なのだ。

だが大輔はもう一人強い奴がいたとも言っていた。

そうなると本戦は楽しみだ。


予想通り、大輔は楽々ベスト4に進出を決めた。

相手がひどすぎたというのが本音だ。

というよりまだ戦い方の基礎が確立していない。

武器を使わない戦いだから、あまり洗練されていない。

その様子は街の喧嘩のレベルだ。

訂正、子供の喧嘩?

これならこの前の傭兵のほうが遥かに強かった。

大輔が言っていた一般枠の男も勝ち進んでいた。

狼拳の傭兵だ。

見た限りそれほど強くは無い。

ただ大輔はようやく思い出していた。

残った3人をいずれも道場で見かけていたことを。

意外なことに4人とも狼道場の門下生で占めていた。

さらに詳しく聞くと3人は道場で上位の男だという話だった。


大輔は下の方で相手にもされていなかったようだ。

大輔は知っているが先輩は覚えてもいないだろうとのこと。

大輔の身で狼拳は厳しかったのだ。

当然かもしれない。


王子に出す要求書は最終日の早朝に完成した。

それをしっかり包み、手に持って大会最終日を見に行く。

さすがに準決勝戦。

大輔が動かないことを見越して狼拳側が攻撃を仕掛ける。

狼拳も新しい拳法だが、しっかりした理論に裏付けされてる。

やはり上位に出てきていた。

去年の優勝者を含めて4人中3人が狼拳なのだから笑ってしまう。

大輔を含めれば狼拳道場の首位争いだった。


一見、大輔が苦戦しているように見える。

立場上動かなくて一方的に攻められているからだ。

しかし、実際に苦戦しているのは狼拳側だ。

動きが激しいだけに疲労が蓄積する。

事実、踏み込みの足がふらついていた。

動かないということがいつの間にか固定概念に変ったとき隙が生まれる。

大輔はたった一歩、横に動いただけで止めをさしていた。

さすがだ、秘密兵器を出すまで無く決勝戦に駒を進めた。


もう一つの試合は見た目に派手な打ち合い。

どちらも高速の狼拳だ。

試合の舞台をところせましと走り回る腕はさすがに一流だった。

結果的には前回優勝者の男が勝ち残っていた。

傷を完治させていなかったのに、十分強かった。

ただその男は会場の隅で見ている大輔を睨んでいた。

大輔を知っている感じだ。


休憩の後、決勝戦だ。

これで大輔の優勝は決まったようなものだった。

準決勝で対戦相手があれだけ動き回っていたからもう動けない。

決勝までに回復は不可能だ。

おまけに動きすぎて傷まで悪化させていた。

後は結果を見るまでもない。

大輔の運の強さに感謝だ、

さすがに前回優勝者をいきなり相手にしてたのでは厳しかったはず。

違う山に入り決勝戦で戦うことになったのは幸運だ。

あの準決勝の二人のどちらが出てきても大輔の苦戦を強いられるところだった。

長期戦の末、辛勝というところだっただろう。

二人を相手にせずに済んだのは幸運以外の何者でもなかった。

このような、トーナメントは往々にして体力勝負になることが多いからだ。

準決勝が終わったところで引き上げることにした。

結果を見るまでも無いからだ。


決勝が始まるまで時間はある。

その間に、要求書を近衛兵に渡して会場を後にする。

途中知り合いと話をしたがすぐに門を出た。

知り合いというのは、これから縁が出来る男だった。

口裏を合わせて離れることにする。

『最初に会ったところ!』だ。

場所がわからないのでそうするしかなかった。

いったい、誰だろう?

桜の時と同じだ今後も同じことが起きるだろう。

門を出る頃、試合の呼び出しが掛かったのか歓声が聞こえる。




優勝戦、大輔はもっと白熱の戦いになると思っていた。

だが相手は準決勝の時のような動きがなかった。

疲れが出て動けないようだ。

実際はあの襲撃の時の怪我が結構悪化していた。

しかし、大輔はそこまで知るわけが無い。

ここまで相手にそれを気づかせないぐらいの実力者だ。

並みの相手よりはるかに強かった。


大輔も雅雄に厳しく指導されているから何とか凌いだ。

もし午前の相手とこの相手が入れ替わっていたら?

いやそれよりも、襲撃の傷が無かったらはたしてどうなるか?

事実上午前の対戦で星をつぶしあったようなものだった。

つまらないことを考えていると、相手の足がとまった。

大輔がが動かないので油断していた。

必殺技を使うタイミングだった。

次の一瞬、大輔の攻撃が相手を叩きのめしていた。

対戦相手は最後まで信じられないものを見たような顔をしていた。

その一瞬には大会の誰より早く動いた大輔だった。


表彰式、大輔は王の前で緊張していた。

優勝を決めたときよりうれしい瞬間だ。

賞金を受け取り、雅雄に恩返しが出来ると考えていたからだ。

だが控え室に帰ったとき、雅雄はいなかった。

受付の兵士に聞くと「この先頑張れよ」との伝言だ。

まさか、お別れとは思っていないので宿に戻れば会えると楽観していた。

控え室には彼女もお祝いに現れ大輔はしばしの間、雅雄のことは忘れる。


王子は大輔が部屋にもどったのを確認。

教育係りの老人を従え、部屋に入っていく。

大輔の強さは伝説の建国の王の側近だった人物、

その強さを彷彿するとの噂だ。

そんな大輔を配下にできることにうれしさを隠せない王子だった。


部屋に入って驚いたのは、従者と思われる老人がいないことだ。

もっとも顔を見たくないので幸いだったのだが。

大輔との約束で、近衛兵の隊長には話を通しておいた。

隊長はあの戦い方に友好的な見方をしていた。

王子は、大輔に従者がいないのどうしてかと質問する。

大輔は王子が何をいってるのわからないような顔をする。

従者が主の下を離れるのはまずいだろうと文句をいうと、

大輔は思いっきり首を振って否定。

そして、事情を説明した。




王子はあの老人が師匠で、自分より遥かに強いという事を聞かされた。

大輔の強さに驚いていたのに、それより遥かに強いという。

意外な事実に驚くばかりだ。

自分の目の無さを痛感していた。

そのとき近衛兵が書類のようなものをもってきた。

あの老人の要望書を持ってきたと言う。


あの老人の希望を聞き入れてやれば雇えるかもしれないと考える王子。

どうやら、気の回しすぎのようだと胸をなでおろした。

好き勝手なことを言って来たと思っていたのだ。

無茶な要求じゃなければ雇うために聞いてやろうと考える。

結構厚い紙束にあきれるばかりだった。


だが内容を見ていくうちに、顔から血の気が引いていく。

自分の、愚かさに気づく。

一緒に見ていた教育係りの老人も同じだ。

自分の勘をなぜ王子に言わなかったのか悔やむ。

これほどの逸材と思っていなかったのだ。

市街地の管理方法、住民に対する配慮、防衛、最後には予算の確保のしかた。

そして、王子として勉強しなくてはならないことがこと細かくかきこまれてい

た。

この計画通りに実行していけば町は確実によくなっていく。

そんな無理のない計画だった。

現職大臣が束になっても思いつかないものだった。

このものが国のために動いてくれれば、この国は確実によくなっていく!

そう確信させる内容だ。

書類を持ってきた近衛兵に『急いでこれを渡した者を引きとめるように』と指

示を出した。

だが返ってきた返事は意外だった。


『そのものはとっくに城を出た頃だ』という。

王子にとり入ろうという気配さえない行動だった。

逆に言うなら、これだけの提案をしていた老人だ。

権力に取り入るつもりならとっくにしている。

その行動に、王子のほうが見捨てられたということに気付いた。

おまけに、準優勝の男も王子の許を去っていったことを知らされる。

王子としては手放す気は無かった男だ。

十分金を与えて手元に引き付けていたつもりだった。

二人の行動で、権力や金だけでは人を引き止められないことを知る。


これ以降王子は人と接する事が急にうまくなっていく。

あの要望書の最後に書いてあった事を実践したからだ。

『身近な賢者を優遇すれば人は寄ってくる』と書かれていた。

王子は要望書の最後に書いてあることから実践していく。

人を遇するのに、金や権力だけではないことを知る。

優遇という意味を真に理解した時だった。

いままで蔑ろにしていた教育係りの老人を抜擢する。

単なる相談役から師というレベルまで格上げしたのだ。



いままで教育係りという脇役にのんびりしていた老人は王子の変身に驚く。

そして、この王子のため一働きしてやろうか真剣に動きはじめた。

いままでは、誰が王になっても立ち場は変わらないので適当にやっていた。

だが王子は真剣に老人を取り上げようとした。

老人は死に際にもう一花咲かせようと動き出した。

『人は己を理解してくれた者の為なら!』

人を魅了する最高の使い方だった。


王子の周りのものは、王子の変化と側近の態度が変ったことに驚く。

さすが長い間、昼行灯を決めていた老人だ。

動き出せばその影響力は大きい。

それは王の印象を変えた。

三人の王子の成長を比較する。

そして、急速に伸びていく三の王子に後継者の名前が大きく上がった。


緑国は近衛兵の正式採用の技を虎拳とすることが交付された。

さらにこれ以後おかしな格言がはやる。

「確実なこと、虎のごとく」

大輔があちこちで自慢して結果を出したことを示していた。



要望書の内容は全面的に採用された。

緑国の王城は見違えるほどきれいに整備されて行く。

他国は緑国のその方法に感心。

そして、それを真似をする。

緑国の王は賢王としてその名を上げる事になった。



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