41 最終章1
長い小説でしたがあとわずかで。
ここまで付き合って下さった方たちには感謝しています。
これを入れて残り3話ですのでよろしく。
雅雄の旅1
里美が死んでから数百年、
雅雄は一人で生きていく。
人との付き合いを止めたわけではない。
個人的に親しく付き合うのを止めただけだ。
ただ、里美との影響であまり過激なアクションを取るのを止めた。
前なら粛清したケースも生かして利用するように変化する。
その影響は微妙な変化として現れていた。
王家の権力の衰退という形だ。
しかし、平和な世の中はその影響を大きく受けなかった。
やがて、迷いの森は消滅する。
迷いの森。
それは機械の寿命だったのか?
中世の終わりに動かなくなる。
雅雄にも判らなかったことだ。
雅雄が未来に帰れなかった理由だった。
迷いの森の防御機能も消えた。
それと共に、雅雄に入ってきた情報も消える。
雅雄に入る情報は微々たるものとなった。
残ったものは奥義書からの情報しかない。
奥義書自体が周辺の木の情報を司っていた影響だ。
元々雅雄の物だった関係で迷いの森とは関係なかった。
しかし、あくまで入ってくるのは気に関する情報だけだ。
世間一般の情報は噂の域となった。
移動も歩くか馬車に頼るしかない。
もっとも、目的がはっきりしていれば『走る』という手段がある。
常人の数百倍の速度で動ける雅雄の脚力だ。
しかし、動くためには情報が必要だった。
無意味に動いても意味がなかった。
移動手段は馬車といっても普通の馬車だ。
高性能な馬車は重量的な問題があって使えない。
使用していた馬が使えなくなったからだ。
迷いの森消滅で馬も消滅した。
砂が崩れるように消える。
各国においてあった、監視機構も死滅した。
今までは危険な兆候があれば連絡が入る。
そして、雅雄が救済などを行っていた。
これからはそれが出来なくなる。
事実、大規模な地震災害においても雅雄は動けなかった。
噂が入ってきたのは、災害後数十日経ってからだ。
それが『大事に至らなければ』と祈る雅雄だった。
祈る?
雅雄は新たなる感情を手にいれたようだ。
しかし、それが最悪の事態を防ぐことは出来なかった。
始まりは赤国の辺境から始まる。
道を介さない辺境の村同士の諍いがはじまりだ。
盗賊が大挙して地方の村を襲った。
緑国の飢饉における止む終えない事情もあった。
住民を募って大規模な山狩り遠征の結果だ。
迷いの森が健在ならそのようなたくらみは潰えていた。
住民は山奥の村を見つけて襲撃した。
過去に盗賊として活動していた時見つけた村だ。
生きていくために取った手段だ。
襲われた村は蓄えていた食糧を盗られて行った。
被害に遭った村は赤国の中央に訴えた。
赤国は討伐のため軍隊が送る。
地方に駐屯の精鋭が送られた。
そして、襲撃した盗賊の足跡を追って追跡を掛ける。
盗賊を追いかけて緑国に侵入した。
今までは、そのようなことは不可能だった。
軍隊を送り込んでも道に迷ってしまう。
大規模な山狩りは不可能だった。
それが集団のまま緑国に入り込む。
盗賊たちも今までの要領で自分達の村に帰省した。
相手は絶対に追いかけてこないから安心だ。
道案内した盗賊の首領は過去の経験から追跡が組織的に行われないことを知っ
ていた。
そもそも、襲った村が他国の村というのを知らなかった。
自分達が大量に国境を越えられたことを疑問に思うべきだった。
その油断は赤国の兵士を呼び込んでしまう。
赤国兵士の隊長も国境を越えたことを知らない。
その辺は、迷いの森だったために地図がなかったからだ。
思った以上に近い距離だったことも誤解を生んだ理由だ。
追跡して、目の前に盗賊たちの隠れ家の村。
隊長は、討伐のため一網打尽を指示した。
突然襲われた村。
幸いだったのは、戦力が違いすぎて殺されたものがいなかったことだ。
赤国隊長も、全員が犯人とは思っていない。
犯人を特定するため、確保しただけだ。
必死に抵抗したが村人のほとんどが捕まって連れ去られる。
一部は逃げ出していたのだが・・・
残ったものは緑国王城に報告にいく。
元盗賊の首領は早々に逃げ出した。
緑国の方は盗賊が村を丸ごとさらっていった事態を重く見た。
調べると盗賊は赤国の正規兵だ。
『侵略戦争を仕掛けてきた』と考えてしまう。
緑国の御前会議は紛糾する。
王は必死に事態を収めようとあがいた。
王は知っていた。
武力的に動けばろくな結果にならないことを。
いつもなら緑川公が動く。
それなのに、今回はなにも言ってこない。
結局大臣達に押し切られた。
そして、『出兵』ということになる。
一方連れ去った赤国の兵士。
取調をしているうちに自分達がとんでもないことをしたのに気づく。
山賊の隠れ里ではなく緑国の村と知った。
急いで村人を開放して王城に連絡を入れようとする。
しかし、その連絡員は盗賊に殺されてしまう。
盗賊たちは自分たちの故郷の村を襲われ身内を殺されたという誤解だ。
全員釈放されたことを知らなかった。
赤国の方は混乱の極みだ。
緑国からの訳のわからない越境軍隊。
明らかな侵略行為。
赤国も急ぎ兵を集める。
その頃、ようやく事態を知った雅雄。
2日で緑国までたどりつき緑川公として王に謁見する。
王は遅い出現の緑川公に文句をいう。
しかし、戦争を止めるには公の力を頼るしかなかった。
雅雄は事態を把握すると軍隊の後を追う。
開戦直前に間に合った。
そのときはなんとか事態を防ぐことはできた。
理由を知った赤国側が妥協してくれたからだ。
しかし、しこりは残った。
最初に侵略したのは緑国の盗賊だ。
そういう不満の種は時間とともに王の権威を蝕んでいった。
似たようなことは他の国でも起こる。
迷いに森開発に関する衝突が理由だ。
雅雄が間に合わず戦闘に突入することもあった。
そして、王の補佐が『不在』と言うことが伝わる。
王の権力が失墜していた背景だった。
世界中に同時に起こる軍事化の波。
王の押さえが利かなくなって臣下の力が強くなる。
ひどいところではクーデターで王家は滅んだ。
王家の押さえが利かなくなれば家臣の力が増す。
力の強いものが私欲を伸ばしていけば・・・
同時多発の戦国時代の始まりだった。
雅雄の力はどんどん利かなくなっていった。
道場関連の者も影響は免れられない。
多くの関係者が引き抜かれていった。
特に、道場の存続にも影響する。
最初の被害は蛇拳道場がこうむった。
それまで国のバックアップで運営していた一面もある。
黄国のため、多くの兵士を鍛えた。
けれども、蛇拳は特殊な拳法のため習得が難しい。
より簡単な拳法への移行が検討される。
そのため虎拳が採用された。
大臣の一人が虎拳の関係者だったからだ。
優遇される虎拳。
推挙した大臣も蛇拳を追い出したいわけではない。
その大臣は、お互いを研磨しあって強くしようと考えただけ。
しかし、他のものは勘違いをして蛇拳関係者を疎んじた。
それに反発した蛇拳関係者は青国に移動してしまう。
『新天地でのびのびやろう』という意志。
国との関係を断って『武術に集中しよう』という考えだ。
虎拳関係者は驚く。
協調でやろうとしていた矢先の黄国と蛇拳の確執。
蛇拳と縁を切ったのなら虎拳もと手を引いてしまう。
虎拳は緑国と密接な関係があるため手伝うぐらいまでだ。
頼られても困る状態だった。
虎拳と蛇拳は仲が悪いわけではない。
それを競争させようとした黄国が悪かった。
一般の人は蛇拳と虎拳が兄弟拳というのを知らない。
そのため対立をあおった一面がある。
最初の大臣は責任を感じて引退してした。
そのため、虎拳を引きとめる力を持たなかった。
黄国は主力拳法から見放された。
蛇拳総本部移動に伴って多くの人材が移動したからだ。
残った武術関係者は二流のものばかりだった。
やがてそれはじわじわと黄国を主力から外す結果に繋がる。
きな臭い世の中になる。
そうなると、今までののんびりした世界観は消えていく。
国境に検問所。
それはやがて砦となる。
国同士の優劣争い。
そして小競り合い。
さらに国境線の争奪戦。
エスカレートしていく戦い。
それにともない発達する武器。
その中で一際着目される奥義書関連武術だ。
兵士の常識を越える武術だった。
研究されていく『気』という学問。
それが、兵士を強くしているのが判っていた。
多くのものが気を定着させる研究をする。
気を纏った盾、鎧、刀などを研究して、成果を出す。
もっとも兵の錬度が大きな力となることも判った。
中には矢まですすめ、貫通の矢を完成させたものもいる。
多くの国で、大規模な武術訓練を行い兵士の錬度を上げていった。
黄国では兵士の錬度が上がらなかった。
奥義書関連の武術』関係者が抜けていたからだ。
そのため、『気』を扱う事が出来なかった。
黄国の研究者の中に招かれた天才。
彼は、発想を変えて『気の力を無効化させれば良い』と考えた。
相手の武器の気を消してしまえば『有利』というものだ。
そのため、マイナスの気というのを研究した。
気の本質的力の源を独自に掴んだ。
異次元から力を引き出して利用していることを突き止めた。
それを遮断するするなりすればよい。
そして、研究して気を吸い込む物を作り出した。
それを解放すると一時的に周りの気は消えてしまう。
解放する力を取ればそれは元に戻って通常に戻る。
戦いの最中こちらは気を貯めて使わないようにする。
相手が気を使い攻撃してきたとき、それを解放して相手の気を奪ってしまう。
そうなれば、最強を誇っていた武器、防具が無力になる。
その後は、こちらのみ気を使って攻撃する。
そのような、マイナスの気の素だった。
模擬戦を何度も繰り返しその有効性は証明される。
黄国軍はその研究を優先して進めた。
範囲を大きくして確認する。
その効果は十分の物だった。
ただ実験に際して大きな気を持つものが居ない。
そのため、数少ない気の持ち主を使いまわした。
範囲の確認は数人をあちこちに振り分けて行う。
つまり、絶対の力が弱いままの確認程度のことだった。
やがて国家間の紛争が始まる。
迷いの森が消えてから200年のことだ。
その間にいろいろな研究もすすんだ。
兵士を気の力で強化することも出来るようになる。
中心になったのは奥義を持つ拳法家だった。
いつのまにか国に取り込まれて使われていた。
そしてそれは拳法家を持たない黄国を不利にする。
国境の小競り合いは完敗だ。
そして、侵略が始まる。
そこでついに、新兵器の投入だ。
秘密兵器なだけに、最大の効果を生む場所で使われる。
それは、大規模決戦場所だった。
両軍が対峙して一触即発の現場。
鼻息の荒い侵略軍。
黄国がそのように誘導した背景もある。
そして、決戦だ。
それは当初の目的を達したように見えた。
相手は突然無力になった。
ほうほうの体で逃げ出す相手側。
黄国も作戦が成功した。
そこで兵器を収拾しようとする。
しかし、実験室ではうまくいった方法がうまくいかなかった。
実験では小規模だった。
全部の気を吸収したより管理していた者の方が力は強かった。
実戦では信じられないほどの量の気を一気に吸収する。
装置は吸収した気が多かった。
そのため制御を離れてしまう。
少しずつ膨れていく気の塊。
それは目に見えない。
けれども、陽炎のように空間をひずませた。
気を無効化するのではなく、外部的な気を吸い込む存在。
それは異次元への微細な穴だった。
黄国は、その現象にあわてた。
事態を収めるため虎の子の兵器をすべて投入する。
吸い込む力を小さな塊に分けようと考えた。
だが兵器は気を収集せず合体してしまう。
見た目は塊だ。
しかし、実は穴なのだから結果は当然。
『気』というものを完全に理解していなかった。
それが原因だ。
一気に広がる空間変異。
それはすぐに戦場外に広がっていく。
『気』というものを際限なく吸い込んでいく空間の裂け目。
その事情が、他国に知られるのはすぐだった。
責められる黄国。
だが責められたところでどうしようもない。
世界が巻き込まれるのは時間の問題だ。
そして世界中はそのおかしな空間に取り込まれてしまう。
それは、物理空間を介さない存在だったからだ。
吸い込みやすい浮動の気はその時すべて吸われた。
外部の気はまったく使えなかった。
雅雄は気そのものを内部に確保している。
そのため実害は少ない。
外観の貼り付けが効かなくなった程度だ。
だが気を張り付けて防御にしている兵士などはどうしようもない。
あまりの事態に各国はお互いの戦争は中止した。
そして事態の打開を図るようになる。
研究するが、結果は果果しくない。
結局、『気は使えない』という結論だ。
それで、実生活に困るわけではない。
それは、それで問題はなかった。
そして事態は次の段階に進む。
最初に出現した場所に新たなる現象が発生する。
地上から気を吸い上げた空間。
それは、更なる獲物を求めた。
気の先にある生命力だ。
まず黄国の土地の生命力を奪っていく。
その進行は遅いが確実だった。
砂漠のように広がる死の大地。
広がっていく不毛の大地だ。
最初に使った国、黄国は砂漠になる。
正確には廃墟と死体の山だ。
植物もなく、生物もいない。
ただ太陽の恵みだけが存在する不毛な大地だ。
人間の方も徐々に現れる。
最初は体調が悪くなって動きづらくなる程度。
そのうちに起こる睡眠死という病気だ。
人々は最初、『病原菌』と思い多くの医者がつめかけた。
しかし、近づいた医者も同じように死んでいく。
いくら調べても病原菌は見つからない。
そのうち、発生している場所に気付いた学者がいた。
ある地点を中心として被害が広がっていることに。
そして、ようやく人々は気付く。
そこが、『死の空間』と言うことに。
体内の生命力を奪われて枯渇する事態だ。
そして、庭などの木が枯死していく。
飼っている動物などは早々に逃げ出した。
逃げられないように囲われている動物は睡眠死だ。
そして範囲は広がっていた。
黄国の首都が飲み込まれたときは悲惨な結果だ。
人々は世界の終焉を予感した。
そして人々は、それを『ブラックバースト』と呼んだ。
雅雄が気づいたのはもっと前だった。
しかし、すでに事態は手遅れ。
幸いだったのは奥義書はそこになかった。
幸い?
逆だ『奥義書がそこにあったなら!』と思う。
ここまでひどくなる前に雅雄が対処できた。
最初の気を吸収する実験の段階で気付く。
そして、すべてを滅ぼしていたからだ。
ネットワークが消えた。
そのため、雅雄が動くにも時間がかかる。
特に兵器の開発は極秘に行っていた。
なかなか、一般には広まらない。
しかし、奥義書は気の世界の変動を捉えて雅雄に連絡を入れていた。
兵器の開発の結果が雅雄に入ったのは実戦投入後だ。
黄国に奥義書があれば!
開発段階で変動を拾えたからだ。
究極兵器の稼動。
それは管理されない異次元空間への亀裂だった。
雅雄は全国に散らばっていた奥義書の力を繋ぐ。
負の気の侵略を防ぐ方法は物理的なものでは無い。
気の力による壁だった。
各奥義書の配置まで指示をだして六芒星の陣をつくる。
それでブラックバーストを囲んだ。
それが完成した頃、気を吸い込む勢いが少し弱まった。
ネットワークを構成してバリアをつくった。
それと、力の供給源だ。
雅雄は、残った一つの奥義書を持ってブラックバーストに近づく。
それは雅雄自身がためていた気を使うものだった。
雅雄でも近づきすぎれば吸い込まれてしまう。
奥義書の力が雅雄を助ける。
そして、ブラックバーストに対する雅雄の全力攻撃。
吸い込み続けることによって維持されてるブラックバースト。
その一瞬に吸い込む能力より多くの気を叩きつけられた。
これは、最初のころなぜ兵器がうまく作動していたのか?
それを資料から調べたことだった。
『吸い込んで行く気より大きな気で蓋をしてしまう』
それによって、流れを遮断する方法だ。
通過する気が無ければ穴はそれほど脅威には思えない。
僅かな気で蓋ができそうだった。
実験室では数人の気だったので流れそのものが弱かった。
そのためうまくいったと思われる。
今は激流だった。
それを止めるだけの気はもはや雅雄の中に貯めている気だけだ。
全力で攻撃して駄目ならそれまでだ。
しかし、保証があった。
作戦がうまく行く保証。
それは、雅雄が未来から来ていることだ。
そして、マスターが言っていたことに通じる。
『気が世界を救った』のは、このことだ。
結果はうまく行った。
吸い込み口に一時的な逆転現象が起きた。
吸収していた気の化け物はエネルギーを吐き出し始めた。
それがきっかけだ。
崩壊が始まる。
雅雄の攻撃。
結果的には、膨らんだ風船に穴を開ける行為だった。
被害は『地上への気の暴風』という形であらわれる。
ブラックバーストの崩壊で、気は世界中にばら撒かれた。
無警戒にそれにさらされたものは発狂する。
人間本性の破壊と殺戮の衝動!
発狂した人間は、形あるものを壊し、暴れまくる。
その結果、気の暴風で文化は消滅した。
バリアの中の人間は正気だった。
正確には気の暴風を吸収なり受け流す事が出来た人間。
気を武術として取り入れていた人達だ。
それは奥義書関連の限られた精鋭でもあった。
暴走した人間はやがて力を使い果たして死滅する。
人類の半数以上が被害を受けた。
生き残った人はいずれも気の器を持つ者か素質を持つ者だ。
その後、気を使えるものが増えた。
いや誰もが使えるようになった。
それは雅雄が使っていた気とは微妙に違うものだ。
ブラックバーストの戦いのとき雅雄が祈ったこと。
それは、気を平和に利用してほしかった。
もう、気を戦いの道具にしたくない。
願ったのは、イメージ形成力の消滅だ。
それは、変質する。
けれども、治療などに使える便利なものだ。
生き残った人類は得体の知れない気というものは吸い取られていた。
代わりに台頭してきたのが魔法だ。
それは気の別の一面。
それと、気付く者は少ない。
気の攻撃的一面を排除したものだ。
やがて、人間は魔法を攻撃に応用するようになる。
しかし、それはまだ先のことだった。
人類は当面、その危機を乗り越えた。
そして、共通の敵というのは世界を一つに変えていた。
また人口が少なくなったのも理由だ。
一つの国となった世界は平和な時代になる。
残った人は振出しからやり直しだ。
それでも今までの知識をもとに、急速に発展していく。
減った人口はすぐに回復して行った。
やがて教育機関が復活。
さらに、大学も作られるようになった。




