04 出会い4
気の威力
10分ほど見てた少女は。
「おじいさん、どうしてわたしが習ってるところまででやめるの、まるで私の
心を読んでるみたい」
先程の会話も桜の胸の内を見抜いた会話だ。
「簡単なことじゃよ、強さをみればどこまでやったか一目でわかる」
桜は一度しか見せてない演舞を簡単に再現されて驚く。
そして、狼拳を知らないという謎の老人の言葉を疑っていた。
目の前の老人の強さがますます判らなくなる。
人は他人を測る時、自分を基準にする。
最初は強さが見えなかった老人。
演舞をこなした老人はやっぱり桜には判断できなかった。
実は桜がやった演舞を雅雄なりに解釈して再現しただけ。
だからその先は知らない。
基本的な知識は奥義書に書いてあったのでなんとかなった。
しかし、桜がどこまで習ったのかはさすがに奥義書にも記録されていない。
なにしろ、桜と奥義書が出会ったのはほんの数時間前だったからだ。
「おじいさんは狼拳を知らないのでしょう」
「ああ、知らないが、しかし昔弟子の一人が苦労して演舞を研究していたのを
見てるからな」
まさか、その弟子が自分のこととは思っていない。
「えっ、うそー、見てただけでわかるの?」
「あたってたじゃろ」
「たしかに、でもそんなんことができるなんて」
「素直に修行してきたから、わかるのじゃよ」
「素直?、ずいぶんいろいろやってきたけど」
桜としては苦労して来た覚えがある。
それなのに、その強さをあっさり見抜かれてへこんでいた。
「所詮基本修行のうちじゃよ」
「うちのおとうさんとどちらが強いの?」
桜としては、自分では計れない老人の強さ。
では、狼拳最強の父ではどうなのか興味を引くところだ。
「戦ったことどころか会ったこともないからな、知っているのと会うのは別じ
ゃからな」
「でもなんで狼拳の演舞がわかるの」
「ははは、正当な狼拳じゃよ。師といっても正当な師弟関係じゃないからな、
単に言葉のあやと考えてくれ。」
「それならいいわよ、おじいさんの弟子になったげる」
老人の強さの秘密を少しでも得られるなら・・・・・
武術家としての思いが頭を持ち上げてきていた。
「そうか、うれしいのう。ではさっそくじゃがこの奥義書を元のところに返し
ておいてくれ。もう用事はすんだから」
「えっ、まだ全部はよんでないけど」
桜としては、まだ碌に読んでもいない。
少し未練のあるところだった。
「ははは、心配しなくても将来見せてもらえるのだろう。そのとき見方を知っ
ているだけで十分じゃよ。いま見てもちんぷんかんぷんだから」
「それとわしと会ったことは誰にもいうなよ。たとえおやじさんでもだぞ」
「でもこの奥義書のことがばれたら」
いくら復元していても、竹が新しいのだからばれるのは当然だ。
持ち出したのが、桜だとばれるのは時間の問題だった。
「知らぬ存ぜぬで押し通せ、ただ『蔵の近くに人がいたみたい』と答えておけ
ばいい」
「でもそれではお父様はごまかせないわ」
「ははは、心配無用、それでごまかせるから」
「ほんとにそうかしら?」
自信たっぷりの老人の言葉を信じたい一面もあった。
持ちだして、壊したのがばれたらただでは済まないからだ。
「大丈夫じゃよ、それ以上追求されないから」
「・・・・・・・」
なぜ、その言葉を言い切れるのか判らない桜だ。
「では今日はこれまでじゃな明日は雨じゃからあさって会おう」
「こんな天気なのに明日が雨?、わかるの」
「なってみればわかるよ、では」
そういうと背中をみせてのんびりとおじいさんは去っていった。
「不思議なおじいさんだわ」
そうつぶやくと桜も家に帰るためもと来た道へ帰っていった。
次の日はおじいさんの言ったとおり雨だった。
道場でのんびりしていると、兄の梧郎が声をかけた。
「桜、修行はすすんでるか」
「お兄さま、なんのことです」
「昨日、奥義書を持ち出したのは知ってるぞ」
心の中ではぎくりとしながらもとぼけて、
「なんのことかしら、言ってる意味がわからないけど」
「なんだ、まだもちださなかったのか。鍵が動かしてあったのでてっきりお前
が動かしたと思ったのだが、気のせいか?」
そう笑いながら答えた。
桜の行動は完全に見抜かれていた。
「だから、わたしは知らないわよ。そういえば蔵の近くで見知らぬ人をみかけ
たけど、お兄様のお客だったのでしょう」
「なんのことだ?」
「だから全然知らない人が蔵の近くにいたのよ」
「それはいつのことだ!」
「昨日のことよ。お兄様のお客だったのでしょう」
老人に言われたように、徹底的にとぼける桜だった。
「俺はしらないぞ、桜そこにいろよ」
そういうとあわてて鍵が保管してある自宅のところに走っていく。
カマをかけて、逆に驚かされた大悟だった。
桜は、心の中でべろをだしていた。
兄は戻ってくると、
「桜、ついてこい」
と、いって蔵のほうにいそぐ。
鍵が動かされていたのだから当然だ。
桜がしっかり疑われているのが見え見えだった。
鍵を開けるのももどかしく蔵に入り隠し棚に近づいて戸を開ける。
すると、みるも無残な包みが見えた。
中身は戻したが、包みは破れたままだ。
兄は真っ青になり包みを持ち上げる。
中身はあるようなのでほっとする。
桜の方をみて
「どういうわけだ」
と問い詰める。
「わたしは知らないわよ」
あくまでとぼける。
「おまえじゃなければ、誰がこれを触れるものか!」
「でもわたしは知らないわよ!」
と、老人にいわれたようにあくまで白をきって抵抗する。
責任の擦り付け合いをしているようなもので、声も大きくなっていく。
そうして言い合いをしてるうちにそれを聞きつけた母親が来て奥義書を見る。
一目みるなり雷が落ちた。
現行犯では当然だった。
母親には中身はわからない。
大事な奥義書は『触るな』という主人の言葉を守るだけだ。
壊したとか無傷と言う次元の話ではない。
父親不在のとき奥義書をいじっていたのだ。
二人は、そのまま奥義書とともに道場控え室に連行される。
やがて父親が帰宅して事情をきき奥義書を見ると、顔色が変わった。
年数がたって竹が古くなっているのにところどころ新しい竹が使われている。
素人がみても改竄されているのがわかる。
あわてて内容を見ると、新しく書かれたところは今まで覚えているのと変化が
ない。
さらに不思議なのは、万が一他人に見られてもいいようにしておいたのだ。
ばらばらに並べて置いたのが、きれいに揃えられている事だ。
梧郎の話では『桜が盗み出して壊したからごまかしておいた』という。
桜の話では『見知らぬものが居た』という。
子供たちは奥義書の真の並びはまったく知らないはず。
だから二人がいじったとは考えられない。
桜の話ではあいまいすぎる。
しかし、子供の言葉ではそれ以上突き詰められない。
あれこれ考えるが結論はでない。
「おまえたちはもういいぞ」
と、開放するしかなかった。
父親の志郎でさえ、実は奥義書の真実を知らされていなかった。
だから、いま現在道場の中では娘の桜一人が奥義書の読み方を知っていた。
そんなことはこの父親にはわからない。
ただ奥義書について、未知の第三者が存在することがわかったぐらいだ。
そして次の日
「やっほー、おじいさん、きたわよ」
例の場所にやってきて声をかけた。
「まってたぞ、どうじゃ、言ったとおりごまかせたじゃろう」
そういうといつのまにか後ろにいた。
その位置が、一昨日別れた場所とは気付かない桜だ。
桜の位置が別れた場所より舞台に近付いていたから背後になったのだ。
おどろいて後ろをふりかえりながら。
「なぜお父様が、あっさり開放してくれたのかよく判らないけど、確かに言っ
た通りになったわ」
「簡単なことじゃよ。主しか知らないことが行われていたのだから、お前たち
が疑われることはない」
「そうなの」
「それより修行はどうする」
「もちろんやるわよ、師匠おねがいします」
そういうと上着を脱いで下にきていた道衣に着替えた。
「では 基本の構えを見せてもらおうか。」
そういって基本形の復習を一通りおこなう。
一通り終わったところで
「基本はできているが気の練りこみが全然できてないな」
「気の練りこみ?」
「そうじゃ、基本の形は形だけではなく気の連行がともなって完全となる。形
だけ覚えても意味がない。おまえのは形だけじゃ。」
「そういわれても」
「いいか最初のこの動作だが・・」
そういいながら、動作の一つ一つに解説をしていく。
いままで一連の動作と思っていた。
それがじつは複雑な動きの集大成であったこと。
「そして、この動作を裏付けるために気のためがない。気がないといけないの
だが、おまえには気を修行して覚えてもらうには時間がない」
そう教えられる。
そういわれても困る桜だった。
老人はいきなり両手をつかんだ。
強くないが、思ったより柔らかく若々しい肌に驚く。
そして、見つめられて心臓が跳ね上がる。
男の人に手を握られただけで、こんなに緊張するのは初めてだった。
「いいか、覚悟しろよ、多少きついが荒療治だ」
そういうといきなり体のなかになにか熱いものが入り込んできた。
はじめは気持ちのよいものだった。
しかし、だんだん熱くなって我慢できなくなった。
「熱い、やめて、くるしいの」
声をだしてやめさせようとしたがとまらない。
「もうやめて、あついわ、たすけて、体が破裂する!」
身体の中に何かが広がっていく感覚に焦る桜だった。
もう限界とおもわれるところではじめて流れが止まった。
それとともに意識が一瞬途切れる。
ふっとわれに返ると目の前に若い男の人が立っていた。
「あなたは誰」
「ほう、もう気を使いこなせるのか、たいしたものじゃな」
いかにも年寄りじみた話し方に先ほどの老人と重なる。
「あなたは師匠?」
「そうだよ、気の力を覚醒したことにより表面の仮面をはがされてしまったよ
うだ。たいしたものだな」
「表面の仮面?」
「実は変装もしておらず、簡単に言えば催眠術のようなものをほどこしていた
のだよ。幻術といったほうがいいのかな。老人にみせるようにな、それが気
の力見抜かれてしまったようだ」
「そうなの」
「嘘だと思うなら基本の技をやってみればいい。すぐにわかる」
そういわれて、さきほどの技をやってみる。
いままでなんの反応もない動作だった。
それなのに、動きの一つ一つに体が反応していく。
手を振ると手先が熱くなる。
足を動かせば足先が、息を吸えば体の奥にじんわりと熱いものが貯まる。
そんな感じで、息を吐けば体中に力が散らばるように感じる。
「そう、それが気の力だ、いまはまだ振り回されているがすぐになじむさ」
「これが、気!」
「そう、それとともにいいにくいのだがお前の力は飛躍的に伸びた」
「強くなったの」
「そうだ」
「どれぐらい」
「簡単に言えば、国一番といっていい」
「まさか、お兄様より強いの」
「比較にならん」
「・・・・・」
「すまん、すこし力加減を失敗した。判っていたのに」
未来で見た桜と同程度に送ったつもり。
しかし、実際の桜はまだ成長途上の器だった。
器の大きさを勘違いしてしまった結果だ。
効率を考えて送ったはずなのだ。
「どういうこと、判ってたというのは?」
「気の分け与える量を、まさか吸収効率がこれほどとは思わなかったので」
「吸収効率というのは」
「普通は多少なりとも気を練っているから反発があり抵抗があるのだが、桜の
場合、気の器はありながら本来あるべき気が全然ないため、送り込んだ気が
全部実になってしまったのだ」
「それってどういう意味」
「簡単に言えば、達人50年分の気が満ちてしまった」
この辺は、雅雄も初めてのことで実験的意味もあったのだ。
「50年とは」
「文字通りお前の親父さんのレベルになってから50年分」
「まさか」
「不注意だったが、まあ邪魔じゃないだろうから、吸収はやめておこう」
「そんな、もとにもどしてよ」
「武術を志すものへの贈り物として、とっておけ。邪魔にはならんよ」
雅雄としては、そのレベルまで持っていた桜を見ているので確信があった。
「邪魔じゃないって、私はまだ12歳なのよ、とってよ」
「ふふふ、持っていて不都合はないさ、治療にもつかえるし」
「治療って、どうやるの」
「簡単だ、患部に手を当てて、直れと念じるだけさ」
「まるで魔法みたい」
「使えるか、使えないかは様子をみてからきめたほうがいい。私としてはわざ
わざなくすことも無いように思うが」
「・・・・・・・」
「どうにも邪魔と思うなら、消去するが、しばらく様子をみてからにするがい
い」
「そうするわ」
「今日はここまでにしよう」
「そうするわ、なんだか疲れたから」
「ふふふ、疲れたねぇ・・・・」
「なにがいいたいの?」
「よく体に聞いてごらん」
そういうと男は去っていた。
あらためていわれてみると、高揚感はあるものの体は少しも疲れてなかった。
ただ、体の奥のほうに熱っぽいものがあった。
どちらかと言えば、綺麗な男性を見て興奮している状態だ。
それだけに、色気も無い武闘着で一緒にいることに抵抗があった。
まして、汗をかいた状態だ。
恥かしさが前面に浮かぶ状態。
男の正体を見て、『これなら、もっとおしゃれをするのだった』と後悔も浮か
んでいた。
そして、桜はすごすごと家にかえった。
家に着くといきなり父親から呼び出しだ。
「どこへ行っていたのだ」
「そこらを散歩よ」
「修行もせずなにをしているのか、さっさと道場にいけ」
と、発破をかけられた。
いつものように道場にいく。
桜は道場の雰囲気がすきなのだ。
成長するとともに最近はみんな優しくしてくれるのが不満だった。
前は割りと本気で相手してくれていた。
最近は手加減されているように感じるのだ。
実際は桜が強くなってきたため、防御に余裕が出来たこと。
男達は、桜の反撃が厳しくなってきたので攻撃するのが怖い。
それで踏み込めないことが理由だった。
だが本人は気づいていない。
さすがに小さいときから付き合っている兄はその辺がわかっている。
そのため最近は兄と練習することが多くなっていた。
道場に入り真っ先に探すのはやはり兄の姿だ。
誰より練習熱心で、動きが綺麗なのだ。
でも今日はそれどころではなかった。
道場の中全体が遅いのだ。
ほかの人の練習を見ているとみんなの動きが遅い。
まるでスローモーションでダンスをしているようだ。
「なんなの、わたしに冗談をしかけているのかしら?」
と、首をかしげながら兄の動きをみてみる。
いつもなら電光石火のような動きだ。
だがほかの人と同じようにゆっくり見える。
狼拳は動きが早いことで有名な拳法なのだ。
それがみんなゆっくり動いている。
「お兄様までなんの冗談なの?」
と、思って見ている。
ふと気づいた、ジャンプ中でも遅いことに。
普通の動きは遅く出来る。
足を地に付けてるからできるけど。
ジャンプしてから降りるまでは決まった時間しかいられない。
それが飛び上がったあとまで遅い。
そしてゆっくり落ちていくのだ。
さすがに気づく。
すべての時間がゆっくり見えていることに。
「これって、・・・・・・・」
感覚器官が鋭敏になって認識力が上がったためだ。
対象の動きそのものがゆっくり感じるのだ。
あれと思って、意識を回りに散らすといつもの光景にもどった。
『なんなの、いまのは?』
そう考えていると、兄が声をかけてきた。
「桜、すこし相手をしてやろうか?」
いつもの兄だ。
近いところまで行くのだが、未だに兄から一本を取った事は無い。
男女と、年の差は大きいからだ。
桜が本気でも軽くあしらわれていた。
もっとも、その兄の方は冷や汗をかいているとは知らない桜だ。
「今日こそお兄様から一本とってやるから」
そういって中央に歩いていく。
周りの乱稽古していたものたちは場所を空ける。
そして壁際に下がっていく。
見るのも修行のうちだ。
師範代とそれに匹敵するものの対戦なのだ。
みるだけでも価値があった。
二人は周りが静かになったのでおもむろに中央に相対した。
桜は兄の攻撃に集中した。
その瞬間、例のスローモーションが始まった。
今度ははっきり意識できた。
周りの雑音が聞こえなくなる。
いつもなら入ってくる雑音が消えた。
さらに柱の時計の刻む音が低く聞こえ聞き分けられる。
なにが起きたかわからなかった。
しかし、突然あらゆる情報がどっと入ってくる。
兄の体が震える。
力が足に伝わるのが見える。
兄がゆっくりと動き始めた。
桜の意識はそれどころではなかった。
『なにがおきてるの、どうしちゃったの!』
混乱を極めているところだ。
兄の手が、桜の胴着をつかみかかろうとしてきた。
狼拳では一部の技につかみ技もあった。
格下との対戦では往々にしてそのような技で投げ飛ばすこともある。
伸びてくる手がゆっくり見えるのは少し不気味だ。
その手を払うつもりで腕を動かす。
こちらもゆっくりとしか動かないので焦る。
わずかな差で桜の手のほうが早く兄の手を払う。
けっして強くなく軽くはじいただけなのだ。
結果、兄はその手を大きくそらされバランスを崩した。
兄が目の前でゆっくり動いていた。
弾かれた手に引かれるようにおかしな形で立っている。
倒れそうなので襟をつかんで支えてあげようとした。
そして手を伸ばし襟をつかんだ。
そのとき兄はバランスをくずしながらも蹴りを放ってきた。
ゆっくりなのでそれを見ながら簡単にかつ、ぎりぎりでかわす。
ただ、襟をつかんだままそれをやった。
そのため、結果的に大きく手前に引きこむことになる。
なんと兄は引きずられてさらにバランスをくずす。
桜は一瞬飛び上がる格好になって焦る。
支えがなくなって、すごい不安定になる。
いつもなら瞬間的な体の動きで意識しない。
しかし、感覚が高速になっているので空中の一瞬が長く感じる。
焦る桜。
兄のほうもその一瞬で体勢を変える。
足を踏ん張り頭突きに切り替えた。
ここでもわずかな差で足が地に着く。
向かってくる兄の頭を横にかわす。
かわすことに夢中でまだ兄の襟を持っているのを忘れていた。
引かれる手の反応にあわてて手を離す。
兄は結果的に桜に引きづられた勢いがある。
それと、自分で突っ込んだ勢いの二つで桜の横を飛びぬけていく。
普通ならそれで終わりだ。
桜の横を電光石火のごとく飛び抜けていくはずだった。
だが桜にはゆっくり動く兄の体が隙だらけに見えた。
ここで背中を叩いたらどうなるかと考える。
そして手で叩こうとする。
だがゆっくりなので間に合わないと判断。
普段ならそうなのだろう。
たまたま兄の襟を持ってた手がまだ兄の下にあった。
気づかれた兄には不運だ。
支えを得た手は瞬間に近い形で兄の背中に吸い込まれる。
手が兄の背中に当たった瞬間胸の方の手は力を逃がす。
そのまま、叩いてる瞬間も意識がある桜だ。
手が不自然に背中に食い込む感触に驚く。
あわてて手を引くが手遅れだ。
反動で兄の体はすごい速さで下に落ちていく。
飛びぬける速度と叩きつける速度が重なる。
その勢いは瞬間に近いものだった。
床に叩きつけられた体は床の反動で少し持ち上がる。
反射神経は恐ろしいもので再び叩きつけられると思った桜。
普通なら見落とす程度のバウンドだ。
とっさに、その隙間に足の先を入れて支えようとした。
思わぬ反射的なもの。
それは兄をさらに横に蹴り飛ばす形となって現れた。




