22 外伝1白国武術大会
外伝1白国武術大会
白国武術大会、
それは白国建国を祝うイベントだ。
初代の白国王、耕平陛下が建国して50年を記念して行われた企画だった。
白国元年は即位した年ではなく、耕平が主と家を引き継いでからの年号だ。
世間で不思議がられた謎だった。
多くの参加者の中、各国からも参加があり盛況を極めた。
当初の計画は一回限りのものだ。
最初の優勝者が、黄国出身の 蛇道 駿一28歳。
黄国中心の蛇拳という特殊な拳法で初代 巳道 傑56歳と
いう男が開発した拳法だった。
道場開設と共に名前を巳道から改め蛇道にした。
駿一はその長男で、黄国の威信をかけて出場した選手だ。
黄国では蛇拳に関しては国が後押ししていた。
緑国の虎拳も活躍して大会を盛り上げた。
一番目立ったのは白国 扇 梓25歳だ。
それまで健康法だと思われていた舞踊拳を舞い戦う。
強豪の虎拳、虎丸 大輔48歳を破って準決勝進出を果たした。
一見、二十歳の美女が華麗に舞を踊るように戦う。
その姿は会場の男達を虜にする。
しかし、実際はすでに既婚者だ。
おまけに子供もいた。
白国の医者で有名な扇医院の奥方だ。
扇医院は今までの治療師という金持ち専門の治癒を一般庶民を対象に広げた。
治療師という特殊技術ではなく、薬の調合や防疫を含めた専門家の医者という
職業を開発した場所だ。
その功績は王家も認めていた。
今では、治癒専門で行う者を医者と言うのは当たり前になりつつあった。
扇医院は前身が雅雄医院といい白国の医者の総本山だった。
扇医院に名前を変えるに当たって多くの反対もあった。
しかし、前院長の雅雄の遺言ともいうべき書置きが出てきた。
その遺言を持ってきたのが梓の兄だ。
今大会でやはり上位活躍をしてその存在を示した。
最年長で蠍拳道主、蠍 健吾50歳だ。
世間的には梓の親戚となっている。
狼拳の参加者は最多を占めていた。
しかし、活躍はいまひとつだ。
上位八位には一人も出てこれなかった。
もっとも大本命の道場主が直前に風邪をひいたため参加を見合わせたからだ。
そうでなければ最長老は 狼 一郎54歳だったはずだ。
狼 始26歳は一郎の長男で頑張った。
しかし、蛇道駿一の前に僅差でやぶれた。
優勝者と本戦一回戦で当たる不運だ。
実力的には大差がなかっただけに事実上の決勝戦と言われた所以だった。
だが狼拳は本戦16人中8人を送り込む快挙をなしとげ面目は保った。
もっとも、予選の怪我が元で一人不戦敗になってしまう。
猪 里美師範52歳の長男、猪 雅雄27歳も
本戦出場したが扇梓の前に破れた。
負けた雅雄を迎えた里美に会場が沸く。
武道会場にめずらしい美人だったからだ。
扇 梓と二人で会場の人気を分け合っていた。
輝くような美女は会場の男達の注目の的。
会場では猪 里美が若々しく雅雄の妹と思われている。
とても52歳の塾女と見えず20代前半に思われていた。
実情を知っている大会関係者は苦笑いだ。
もし里美師範が出ていたら大会の行方はどうなっていたのか?
もっとも初代師範の者達は皆実力を隠していた。
お祭り騒ぎで、騒がれるのを嫌ったからだ。
本当の最強者は誰なのか?
その答えを師範達はみんな知っているからだ。
初代師範達にとって、大会など本戦を出られればどうでもよかった。
自分の道場の宣伝のための出場だった。
初代師範はみんな雅雄に選ばれたライバルの顔を見るのが目的だ。
大会その物もそれが目的で行われたと言っても良かった。
大会が終わったあと奥義書の持ち主は一郎が用意する場所で会う予定だった。
そしてそこで、紹介がおこなわれる話だ。
主催者は事情をすべて教えられていた蠍 健吾と狼 一郎だった。
参考
将来の熊拳奥義書持ち主、武雄はこのとき18歳、大会に参加したが予選落ち。
奥方候補 楓は7歳、雅雄に育ててもらっている最中だった。
大会は盛況に終わった。
しかし、優勝を外国選手に奪われた関係者から文句が出た。
スポンサーサイドの王国関係者だ。
とくに狼拳のものが中心に大会を継続するように働きかけた。
師範の一郎は若手の発揚を促す意味で賛成に回った。
国王も扇梓の華麗な舞姿に魅せられていたので了承を出す。
しかし、大臣達からの『予算に問題あり』との指摘から五年に一度で計画。
それから五年ごとに行われることで話はまとまる。
こうして、武術大会の最大イベント、白国武術大会は続いていくことになった。
白国武術大会の表彰式も終わり、大会は終わった。
蛇道駿一は準優勝の梓の美少女ぶりに感激していた。
結果的に勝てたのだが、あの幽玄な踊りの前に魂を飛ばしていた。
一目ぼれと言ってもいい。
父親の蛇道 傑は年が離れていたのでそんな駿一の様子など無頓着だ。
知っていればたしなめていたのだが・・・
表彰台ではしゃいでいたのは『優勝したため』と勘違いしていた。
相手の梓の実力にただならぬものを感じていた。
傑の目から見れば、譲られた優勝なので威張れる者ではない。
駿一は優勝して気を大きくしていた。
控室で、無鉄砲にも梓に声を掛ける。
相手は見た目が二十歳を下回る女の子。
優勝した貫禄で、少し仲良くしようという考えだ。
梓が人妻だと知らなかったのもある。
梓としては年上の男の人で、蛇拳のゆかりの者ゆえに功を譲っただけ。
もっと前に負ける予定をしていた。
『本戦に出たので、目的は果たした』ということで負けるつもりだった。
一回戦は狼拳のものだ。
しかし、予選で怪我をしてしまい棄権していた。
そのため、不戦勝。
二回戦は虎丸師範に頼まれて勝ち残る。
『年なので若い人が頑張ってくれ』と言われては断れなかった。
この時点、虎丸師範が奥義書の持ち主とはお互い知らない。
もし梓が知っていたなら、準決勝の失敗はしなかった。
準決勝、
猪 雅雄は梓が手を払っただけで倒れてしまった。
あまりの弱さにあきれてしまう。
本戦に出てくるほどの強者なので、予選より気合を入れていた所為だ。
この場合、梓が強すぎた。
虎丸師範とやるときのようにしたのが失敗原因だ。
こうなってしまうと、優勝してこれ以上目立ちたくない。
そのため決勝は慎重に力を加減して立ち回る。
梓には優勝より気になることがあるので早く切り上げたい。
これから出会う師範達や、なにより兄の健吾と話がしたかった。
なかなか極め技を出さない駿一に焦れていたぐらいだ。
実は全力で極め技を出していたのだが・・・
途中で気付いた梓は技を受けて負けた。
表彰式も済んで、話に行こうとすると邪魔をする駿一。
梓には邪魔者以外の何物でもない。
離れようとするのだが、しつこい。
その辺のあしらいは、医者である梓には難しいところだ。
逆に患者との接点を持つのに苦労する梓には逆パターン。
突き放すことが出来ない梓だ。
まとわりつく駿一に困ってしまう。
それを止めたのは猪 里美だった。
駿一は話しかけようとするのを邪魔した里美をみる。
しかし、見た目は美女の里美に気勢をそがれてしまった。
そこはベテランの貫禄だ。
役者が違うと察した。
梓と里美は意気投合して一緒に食堂にいく。
年齢を超えて同じ師範に学んだものとして通じるものがあった。
優勝したのに無視同然の扱いの駿一。
二人の美女を相手では分が悪い。
そこで、似たような年の猪雅雄と狼始を誘う。
一緒に飲むために食堂へ連れ立っていく。
武術を通じて知り合った仲ですぐに意気投合した。
それだけで済めば平和な日々だった。
奥義書を渡された六人は、そのあと一郎の用意する場所に集まる予定だ。
試合の進行の都合もあったので、予定の時間まで間が空く。
梓と里美は食堂で話しながら意気投合。
時間も忘れそうなので、後は『目的の場所で続きを』ということで席を立った。
美女二人が話しているので目立ちすぎて落ち着かなかったのもある。
まだ時間は早かったが、ゆっくり話したかったので移動した。
食堂で二人を見掛けた3人は二人の様子を観察していた。
駿一と始は二人の美女を、雅雄は母親の里美を見ていた。
三人は梓が既婚者と知らなかった。
雅雄は母親を介して梓と仲良くなれるかもしれないという打算だ。
雅雄は付き合うということではなく知り合いたかっただけ。
成り行きで・・・、母親の手前そんなことは決して考えていない!・・・
『雅雄がすでに子持ち』と言うのを二人には伝えてない。
二人は立ち上がると、そろってどこかに出かけるようす。
三人は興味に引かれて後をつけはじめた。
二人が入っていくのは白国でも名前の知れた高級なお店だった。
そこで引き上げれば、まだ恥はかかずに済んだ。
武術大会本戦参加と優勝の驕りは最悪の選択をしてしまう。
三人は店に入り名を名乗る。
その高級店では名前を名乗るのが普通だった。
予約客以外はお断りの店だ。
なぜか三人の名前を聞いた案内係が案内する。
店の方では名乗った名前の親が予約していたので当然だ。
ここに誤解が生まれてしまった。
まだ三人が来てなかった不運もあった。
店の方は残りの三人と思ってしまった。
店の不注意が一番の原因ではあるが・・・
数の一致が産んだ不運ともいえる。
部屋に案内されると二人の美女と蠍健吾が親しく話している。
3人は空いている席に座る。
まだ早いので、この場に来るメンバーを完全に知っている者が居なかった。
健吾は狼始の顔は知っていた。
打ち合わせの席で見かけていたからだ。
狼一郎の跡取りなので当然だ。
そのため関係者と勘違いする。
里美は呼ばれた方の客だ。
なので、なんで息子がいるのか疑問に思いながら口にはしない。
梓は一応、駿一を知ってはいたが印象は最悪。
表彰式後しつこく言い寄ってきた男という印象だ。
それぞれ、顔を見て目礼はするが、話もしない。
三人は黙って席に着いた。
健吾が名前を紹介を始めた。
最初が狼始だった。
健吾としては主催者の息子なので当然のことだ。
それが不運だった。
始はいつも通り、狼始となのる。
狼始の名前は知られていた。
狼拳後継者の名前だ。
そして蛇道駿一も名乗った。
座った席順で自己紹介をしていく。
順番からすると、最後が猪 雅雄だ。
しかし、途中で梓は怒り始めてしまった。
六人の席で、全員がそろった。
ところが、席を用意した狼一郎が来ていない。
息子を代わりに寄越したと勘違いした。
おまけに他の二人も若いものばかり。
結局来られないから代わりを寄越したと思ってしまう。
若い跡継ぎに、仕切らせようという態度に頭にきたのだ。
こられないなら、中止または欠席すればいい。
梓は父親が選んだ師範達に会いたかった。
それもすごく楽しみにしていた。
雅雄と里美が同じ猪拳の関係者だと気づく前に頭に血が上っていた。
雅雄の自己紹介まで聞いていなかった。
席順の不運もある。
6人中5人まで奥義書関係の苗字だったので関係者と勘違いした。
雅雄と戦ってはいたがあまりの弱さに意識外だ。
この時点梓は、一郎が病気で寝てると勘違いもしていた。
大会に参加できなかったのは調子が悪いと思っていたからだ。
実際は始に経験を積ましてやろうという親心だ。
『師範ばかりの席だ』と呼ばれたので来たのに、若い者が3人!
なんの冗談かと席を立ち出て行く。
あっけにとられる3人。
梓が出て行くので、蠍健吾も席を立ち出て行ってしまう。
里美は『どういうことか』と雅雄を睨む。
睨まれた雅雄もなにがどうなっているのかわからない。
里美はなにか事情があると思い二人を追いかける。
招待外の雅雄がいたから『当然これは予定外の事故だ』と思っている。
部屋に残った三人、事情もわからないまま座っている。
店の方は全員そろったと思い料理が並べられていく。
少し遅れてきた狼一郎と虎丸大輔それと蛇道傑。
用意した席に居るのは息子。
しかも料理は並べられている。
客がそろわないのに並べられるわけないのだ。
並べられてるということはあと3人がいたはず。
どういうことか息子に聞く。
ありのままを伝える始だ。
特大の雷が落ちた。
三人は事情を教えられ、罰に頭を刈られた。
その頃、ようやく二人を捕まえた里美が帰って来た。
そのときには三人の丸坊主がいた。
機嫌を直した梓はその後、先輩を立てうまく場をなごやかにする。
雅雄の選んだ人たちは予想通りみんな人格者ばかりだった。
そこを引き上げた九人。
次の日、大会会場後の舞台に顔を出す。
一郎の顔で、天狗になっている息子達にお灸を据えるのが目的だ。
三人には、『六人のうち一人でも三人掛かりで倒せ』と言われた。
『それが出来たら、昨夜のことは不問にする』ということだ。
たかが本大会参加ごときで有頂天になっている息子達に発破をかけるつもりだ。
『武術にこれでいい』という上限が無いことを教えるのが目的だ。
三人は初代の凄さを肌で知ることになった。
最初は猪 里美だった。
雅雄は怖気をふるって出ない。
母親の怖さを知っているからだ。
いくら全力で戦っても触れられないのだ。
触ることさえ出来ないのだ。
勝てるわけがない。
戦い以前なのは体で知っている。
痛い目に遭いたくないので棄権した。
二人は里美一人に襲い掛かる。
見た目は可愛い女の人、二人ならなんとかなると思った。
開始の合図で里見の身体がぶれた。
直後に、柔らかく押されるように攻撃を受ける。
ダメージはないが気づけば空中にいる。
そしてマットの上に着地。
舞台下のマットの上まで投げ飛ばされていた。
なにが起きたのかわからないままの場外負けだ。
後から、里美が一郎と同じ年だと雅雄に教えられて驚愕の二人。
次は狼 一郎、
年をとってるから『往年の威力はないだろう』と三人でかかる。
若さゆえにもう実力は上だと勘違いしていた。
始は父親の真剣な技を初めて体感することになる。
正対して開始の合図、直後に後ろからどつかれていた。
狼拳の駿足だ。
一郎は後があるので思いっきり手加減していた。
背中に手形をつけるだけだった。
自分達の横をいつすり抜けたのか見えなかった三人だ。
虎丸 大輔はただ立つだけだ。
三人がいくら攻撃しても動かすことさえできない。
三人の頭を刈ったことで赦しているのでそれまでだ。
攻撃してきた手をやんわりと痛めつける。
痕はつかないが痛い目に遭う三人。
三人はついに大輔の防御を敗れなかった。
三人に虎拳の本気の攻撃を受けられるほどの実力はないので当然だ。
蛇道 傑はいじわるく三人の急所をほんの少し締め上げた。
息子が他の師範に迷惑を掛けたのだ。
簡単には赦せない。
駿一は父親の本気の動きを初めてみた。
地を這う蜘蛛に見えた。
それも、残像を感じるほどの速度だった。
縮み上がった三人は戦う意志も消し飛んだ。
蠍健吾は若いものの勇み足と笑って赦している。
三人の攻撃を足で軽々と払って空中に飛び越していった。
そして、頭の後ろに足跡をスタンプするだけで赦した。
押された方は魂が飛んでその場で座り込んでしまう。
扇梓は一郎の好意を誤解したことに恥じていた。
それでお詫びの踊りを披露。
大会の時の守りの踊りではなく、奥義の攻めの踊りだ。
幻影のように見える気の攻撃。
梓が大きく見える。
振られた手を無意識にかわそうとする。
そこには無いはずなのに見える手だ。
三人は攻撃するどころではない。
幻の攻撃をかわすうちに場外へ。
戦えずに場外負けだった。
しかし、それを見ている五人の奥義の持ち主には天女の舞のように見えた。
三人は自分達の強さは最高で『三人で掛かれば敵はいない』と思っていた。
優勝した駿一など、『この世に敵は居ないなど』と思っていたぐらいだ。
たしかに人間相手なら問題なかった。
六人の強さに触れて、次元の違う強さを知る。
そしてさらに、その上があるなんて考えもしない。
それぞれの師範達は、それを知っているのでみな謙虚だ。
その後、謙虚になった三人にそれぞれの師範は奥義を教えていく。




