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雅雄記  作者: いかすみ
第三章 国作り
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21 国作り5最終話

国作り5最終話


白国の範囲の4分の1を征服したころから耕平の名前が知れ渡っていく。

敵対を露にするものも多い。

反面、耕平の治世に期待するものはもっと多かった。

小さな村や町は耕平の傘下に入ろうと使者を送ってくる。

そのためあちこちに飛び地のように同盟者ができた。

そしてそういうところから多くの救援要請も届く。

耕平と雅雄が一番忙しいときだった。


だが大きな町と領主を配下に収めた頃から再び流れが変った。

事実上の白国中央を征した時だ。

今まで小さな所からの同盟がほとんどだった。

それが大きなところからの同盟に替わる。

耕平の治世が認められたのだ。

そして、耕平の縁組?による絆が功を奏した。

大きな領主30人が耕平の配下に組み込まれる。

それにより耕平の勢力範囲は一気に8割になった。


耕平を王にしようという流れが強まった。

その流れは領主より住民から動き始めた。

耕平と雅雄がとった無血占領が効果を表わしたのだ。

やがて最後まで抵抗していた者達も住民の流れを押し留められず降伏。

耕平が雅雄と出会ってからわずか2年の出来事だ。


耕平が冗談で言った言葉通りだ。

国内は無血に近い統一を成し遂げた。

耕平は王座についてからも信じられなかった。

自分は長い夢を見ているのではないかと幾度もほほをつまむ。

最初の約束どおり、閣僚は初期のころに仲間になったものが多い。

そして各地の大地主も仲間になった。

最初の朝議で主だった閣僚と役割が決められる。


閣僚や貴族の寄付で城が建てられ始めた。

場所は耕平の婚約者がいる町の近くだ。

白国のほぼ真ん中だった。

完成までに2年を要するという話だ。

その間仮の王城で過ごす。


やがて、雅雄から耕平に呼び出しがかかる。

人気の無い屋上だ。

悪魔が牙をむくときがきたのかと恐れる。

今までは国作りに協力してくれた。

これから、どれだけの上前をはねるか耕平としては心配なところだ。


雅雄は静かな声で

「希望通り、国はつくった」

耕平はそんなことを自分が最初に言ったことを忘れていた。

雅雄は続ける。

「それは箱を用意したようなものだ、お前が考えてた地獄のようなやりかたでは

 安定するまで長い時間が必要だからな」

耕平は雅雄からの要求がなにか知りたかった。

それと自分だけの考えと思っていたことを雅雄が知っていたことに驚く。


一国を簡単に手に入れてしまったのだ。

それどころか耕平を王に据える必要はない。

雅雄さえその気なら、耕平など必要としない。

そこに耕平は雅雄に対する弱みのようなものがあった。

「雅雄は出会ったときの希望一つで本当にやってくれた。何が望みだ」

「ここからは人間がやらなくてはいけない、安定するまでは協力しよう」

言葉の端にはやはり人間じゃないことを示唆していた。

それではなぜ?

「なぜ、ここまでやってくれんだ」

「耕平が私を恐れなかったからさ。最初に村に乗り込んだとき覚えているか」

「ああ、覚えている」

「そうだな、膝を震わして必死についてきたな」

「知っていたのか」

恥ずかしながら耕平は門を通るとき、ちびりそうだった。

門番はなぜ見て見ぬ振りをするのかわからなかったからだ。

まさか実際に見えてなかったと思わなかった。

逃げられないところまで入ったところで裏切られたらおしまいだと思った。


「もちろんだ、だがお前は逃げなかった」

「そして、私が力を振るったときも。お前だけは化け物と考えなかった」

「わかるのか、あのとき俺が何を考えたのか」

「他の者達からは恐怖の波動、お前だけから信頼の波動を感じた」

「それだけで、俺のため動いてくれたのか」

「この国は爆発寸前の状態だった。各地の村を制圧するたびに感じる絶望感、こ

 れから始まる戦いが、希望を打ち砕く予感だ。勝ったものはいつ蹂躙されるか

 恐怖を感じていた。負けたものはこの世の終わりのような絶望をだ」

「そうなのか」

「だからみんな、そんな絶望から救ってくれるお前を信頼したのだ」

「そうか、それで後半、戦いもせずに降伏していったのか」

「だがここから、お前の考えた椅子の取り合いが始まる」

「椅子のとりあい?、あの考えまで見ていたのか」

「そうだ、そしてそれは事実になる」

「始まるのか、王位を争う戦いが」

「ああ、だがそんなのは、たいした物ではない。ここにたどりつく血が少なかっ

 たのでな、耕平に対する恨みは少ない。耕平の真の敵は慢心だ。善政をしてる

 限り付込まれない」

「俺が慢心して堕ちれば、たちまち殺されるということか」

「そうだ、お前だけじゃない。子孫も一緒だ、家臣ともいうべき者達から、尊敬

 されなければ寝首を掻かれるものと思へ」

「そうだな、くれぐれも注意しよう」

「それだけだ、もう少し協力するが私は引き上げる」

「いなくなるのか?」

「すぐじゃない。まだやることはあるのでな。その後は耕平がやることだ」

「一つ聞いていいか」

「なんだ」

「雅雄は神か」

「私は、人間だ。だが規格外の人間だ」

「そうか、拝んでも助けてくれないのか」

「もちろんだ。救うのは神様だけだからな」

「そうか、神格化して寺院でも作ろうと思っていたのだが」

「無駄だな、だが同じ人間としてもう少し協力してやるよ」

「助かるよ。ここからは俺の仕事みたいだからな」

「そうだ」



やがて治安の安定した白国には一山当てようと商人が集まってくる。

雅雄は貨幣の統一をはかる。

白国の貨幣はいままでの雑多なものから統一されていく。

ここで驚異的なのは国の力を背景の強制的なものではなかった。

あくまで共通価値による一方通行の交換だったことだ。

等価の交換で便利さが格段にアップするのだ。

市場から旧貨幣は急速に消えていく。

それは国外にも波及していく。

世界が単一貨幣に統一されていった。

その影には商人が大きく貢献していた。

どこの国に行っても同じ価値の通貨は商人たちの夢でもあった。

初めのころは偽の通貨を作るものもいた。

だがでまわったところですぐに捕まり、国家反逆罪で処刑されていく。

偽通貨の罪に対して容赦はなかった。

たとえそれが子供でも死罪だった。

ただのいたずらでも死罪に不満の声も上がる。

しかし、通貨に対する信用は増していった。

親が子供に絶対に偽の通貨を作ってはいけないと教えるからだ。

組織的に作った者たちは版元からすべて粛清されていく。

そのうち贋金にからむものは誰も協力しなくなった。

割があわないのだ、わずかな利益に確実な死では手を出せない。

下手すれば身内まで巻き込むことになるような犯罪は成立しない。


通貨が他国まで及ぶ様になるころ雅雄は消えた。

残された仕事というのは通貨の統一だったのかと考える耕平だった。

ただ雅雄は消えるにあたり、耕平に条件をつけた。

白川公という大臣を作り、役職はなにもつけず給料と城だけ用意するようにと。

気が向けば戻ってきて王家の手助けをするという条件だ。

耕平は二つ返事で了解をだす。

雅雄がいなくなれば各地の不満分子は動き出す。

だが雅雄が近くにいればそういうものたちを抑える役割になるのだ。

本人がいるかいないかはわからない。

しかし、王を補佐するものがいるかも知れないという不安。

それは反乱を抑制するからだ。



やがて白国が落ち着くと、他国も似た経緯で統一されていく。

あの雅雄と会ってから10年後には国家間の交渉というものが出来た。

耕平にはなんとなくわかっていた。

他国も雅雄が介入していることを。

その間に城は完成した。

落成式と結婚式を同時に行う。

そして子供も産まれ王室が完成する。

耕平の子孫は白国を安定して発展させていく。


雅雄は幻の大臣として席を用意された。

脇役に徹するため不可侵の大臣として大臣の末席に用意された椅子だった。

しかし、人前には顔を一切出さなかった。

そして、国家に睨みをきかしたまま人前から消えた。

政治には介入しない謎の大臣として在席を続ける。

朝議において空席だが誰も文句をいわない。

主君は代わるがその言い伝えだけは残したまま白国は続いていく。




白国は何度も崩壊の危機になることはあった。

だがそのたびに謎の大臣が動き出し政治は安定する。

いつのまにか、逆らうものはいなくなる。

謎の大臣が動けばいかなる警戒も意味がなかった。

もちろん王が同じことをすれば同様に消されていく。

血縁による保護はなかった。

たった一人の王位継承者でも遠慮なく殺された。

ある事件を例にだす。


きっかけは侍女のミスに王子がおしおきをした。

王子は、侍女を鞭打って楽しんだだけだった。

背後には5人の貴族の挑発がある。

その侍女は庶民上がりだった。

王子にとって庶民は人ではない。

貴族の者でさえ頭を下げて言うことを聞く。

そんな立場が慢心を生んだ。

そして鞭を打って悲鳴を楽しんでいた。

鞭打ちで服は裂ける。

貴族の息子達もその場にいた。

酒も入っている。

貴族の子弟達のあおりに王子が悪乗りしてしまう。

多人数で囲って服をちぎっていく。

服がちぎれて段々裸になっていった。

好色な目で見る男達。

王が事件を聞いて駆けつけたとき、そこには血まみれで犯された娘がいた。

表向きの事件はこれだけだった。


その犯された侍女が門を出る。

侍女長が一生懸命あやまっていた。

泣き顔をみせて門を後にする侍女。

「女、うまくやったと思っているのだろう」

侍女は心の中を見透かされて立ち止まる。

振り返るが誰もいない。

「雇い主はすべて殺すから早く知らせるのだな」

侍女はすべてが見抜かれていることを知った。


この侍女は5人の貴族の子弟たちに頼まれた女だった。

その日の夜、その席にいた貴族の息子は全員殺された。

犯人もわかっていた。

その被害にあった侍女だ。

その殺害現場に立ち会った貴族の父親はその異様さに驚いた。

娘は息子に向かって『逃げて』と叫んでいた。

だが息子を追い詰めているのはその娘なのだ。

そして殺した。

貴族の側近達が娘を捕らえようとする。

その娘は貴族の前に出てきて事件のあらましを全部話した。

その貴族は息子がそんな陰謀に加担していたことは知らなかった。

それが事実なら王家に謝罪して許しを請わなければならない。

そして娘は側近達を軽々と気絶させて次の目標に向かった。

終始『止めて、誰か止めてと叫びながら』

その異様さに貴族は寒気を感じたという。

そして5人を殺した娘はギルド本部に戻った

そこにいた殺人ギルドの仲間を皆殺しにした。

その頃には娘は発狂していた。

それが警告だった。

それで収まればまだ平和だった。


あまりの異様さに息子を殺された貴族は黙ってしまう。

息子の犯罪と殺されたことで心神喪失になった。

この事実を王に知らせれば良かったのかもしれない。

だが事件はこれで終わらなかった。

王子は友人を殺されたことだけを知らされた。

それを挑戦と受け取ってしまう。

そして、同じことを再度行った。

ただ二人目はやりすぎて侍女を殺してしまう。

犯人をおびき出すための行為のつもりだ。

しかし、途中から興奮してやりすぎてしまった。


それは貴族の親達にも知らされた。

親達は自分の息子が仕掛けたことだ。

結果はどうあれ王にすべてを話して謝罪する。

それを聞いた王は大臣がいるといわれる屋敷に駆けつけた。

そして、殺さないでくれと頼む。

事件を穏便にしてくれと頼んだ。

しかし、屋敷には誰もいなかった。


次の日の朝、無駄なことはせず次の子供を作るようにとメモがあった。

厳重な警備をものともせずメモは置かれていた。

王はあきらめられず必死に城の警備を固める。

しかし、息子は次の日殺されていた。

二人目の侍女と同様に鞭傷だらけで悶死していた。

警備のものは扉の外にいたが、気づかなかった。

これは、『王家』に対する警告だ。

しかし事件はこれだけでは終わらなかった。


実にこの事件にからんだ首謀者左大臣を始めとして50人ちかくがすべて粛清さ

れた。

そのため白国の政治は一時的に空白になり大きく乱れた。

単に王子の乱行見えたが、実は巧妙な罠だった。

王子を堕落させて王家をつぶそうというねらいだ。

王子が殺されたのはこの程度の罠にはまるものはいらないという意思表示だった。

そして、雅雄の情報網はそれらをすべて網羅していた。

国の運営の良し悪しを考えない粛清に貴族達は恐怖した。

自分達が生き残ったのはたまたまこの事件には関与してなかった。

ただそれだけだ。

王家を狙ったものすべて粛清されることを知った。

そこに存在したのは関係者皆殺しだ。

それは人間味の一切無い機械の判定。

揉め事を起こした当事者を含めすべて処罰される恐ろしいものだった。

そもそも最初の5人が殺されたところで、貴族サイドは手を引いた。

しかし、王子が暴走してしまった。

その後、王に慈悲をお願いした貴族達。

そして、王は大臣にお願いに行ったのだ。

王のお願いでも、すでに動き出した鉄槌は止められなかった。

それは、下手すれば城から人がいなくなるかもしれない可能性を意味していた。

「人のいないところに揉め事なし」はこの大臣の下では冗談ではなかった。


貴族達は謎の大臣の恐怖を思い知った事件だ。

自分達が火薬庫のそばで火の番をしていることを思い知らされた。

火(王家)をうまく操ろうなんて無理だ。

そして、王になる者はそれ以来息子達や娘達に庶民の暮らしというものを教える。

貴族だけで育てることの怖さを知った。

かしずかれることに慣れたものは思わぬ罠に落ちる。

貴族達も陰謀をめぐらせていてはすべて消去される怖さを知る。

この事件以後、陰謀というものは影を潜めていく。

そして、王家に手を出すものは抹殺を意味することも知った。


そのため政治が大きく乱れることはなくなった。

常にある程度の水準に保たれる政治と経済だ。

そして、同様な大臣が他の国にも必ずいることが知られていた。

その大臣は神格化されていく。

政治に口出しはしない大臣だ。

時々、その大臣が人の後見人になることがあった。

そして後見された人物は確実に重要な地位につき活躍することになる。

それは粛清の嵐を意味していた。

これは国家間でも王家のみに伝わる契約だ。

大臣にも側近にも秘密の扱いだった。


大臣や側近が主君に迫ったこともある。

影の大臣の危険さについて警告して排除を迫る。

または、その正体に迫ろうとする。

だが秘密に触れようとしたものはいずれも警告の後、無視すれば殺された。

それは確実で血筋、貢献など一切斟酌しないものだ。

貴族の間では、謎の大臣の秘密には触れてはいけないということになる。

影の大臣の存在は雅雄が残した王家との唯一のつながりだった。




第3部 国作り編 終了


次回から外伝を少しやります。


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