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雅雄記  作者: いかすみ
第三章 国作り
18/43

18 国作り2

国作り2初戦


300人には徹底して教え込まれたものがある。

武術のほかにもう一つだ。

それは絶対に略奪してはいけないということだった。

『これからの戦いは一国を起こす戦争で、諸君は官軍になる』という。

これから征圧する地域は領土になる。

だから、『領民を痛めてはならない』ということだった。

訓練された兵士は始めは冗談だと思っていた。


だが300人をたった一人でぼろぼろになるまで叩きのめした。

その雅雄が言うことに逆らうものはいない。

それ以後自分達は官軍だという自負が生まれる。

モラルは急速に高まっていった。

雅雄に一方的にやられていたので気付かないが、兵士達は自分達の強さも半端

ではなくなっていた。

周りがみんな強くなっていたので気づくのはもっと後になる。

それゆえに、モラルが重要だった。



300人のうち40人を残し出陣だ。

残された者は村の治安にあたる。

治安に当たったものは悔しがっていた。

だが出陣したものも同じだと知るのはすぐのことだ。


隣の地区に侵入したところですぐに捕捉されてしまう。

雅雄は周りが止めるのも無視して単独で宣戦布告にいく。

宣戦布告に行ったものは殺されるのが慣わしだった。

それが戦を防ぐための防波堤だ。

あくまである程度の身分のものが行かなければ戦争にならない。

白国ではそういう決まりだった。

先人が村同士の争いを防ぐために作った決まりだ。

徐々にくずれてなし崩し的に戦争に入ることも多かった。


雅雄は単独で宣戦布告にいく。

心配そうに見ている耕平。

三時間もしただろうか。

帰ってくる雅雄。

耕平は雅雄の無事に安堵する。

だが次の言葉に驚くはめになる。

「戦争が終わった」

後ろに控えていた兵士もなにを言ってるのかと騒ぐ。

「相手の全面降伏で終了。いまから治安活動に入る!」

そう宣言して町に入っていく。

みんな半信半疑だ。

相手の領主達は門を出て出迎える。

間違いなく勝利したようだ。

耕平は、訳が判らないまま町の中央に陣を敷く。



町の者は勝利者が次に何をするのかは知っていた。

調達という略奪だ。

それはどこの戦いの後にでもある習慣だった。

負けたものには人権はない。

だから戦争となれば家族を守るためみんな必死になる。

この町の者も一緒だった。


領主が勝手に負けを宣言したが、町民の方は納得しなかった。

義勇軍を編成して突撃した。

そして、完敗したのだ。

それもたった一人に負けた。

町民達に逆らう気力は無かった。



耕平は町の様子を見て事情を察していた。

雅雄の無敵振りを目の当たりにしたのだ。

雅雄を見る目に畏怖があり逆らう気力はなさそうだった。

雅雄が耕平に促す。

あらかじめ渡されていた張り紙だ。

そこには

「略奪したもの死罪、殺したもの死罪、財産を不当に確保したもの重罪、すべて

 の借金は現時点で半分にする。それ以外は旧法に準ずる」

というものだった。

その法が町のものに伝わるにつれて歓声が広がっていく。

なにをされるかわからない町民達にとって判りやすい法だった。

自分たちは安全だと判る。

特に下層民たちにとって借金が半分になるのはうれしいことだ。

たちまち耕平たちは町の人にとって、侵略者から解放者にかわった。



耕平は事情をさぐる。

3時間の間になにがあったのか?

町の者に聞いても要領は得られなかった。

雅雄が領主の館に入ってから2時間で領主は降伏を町民に告げた。

町民達は寝耳に水の発表に騒ぎ出した。

義勇軍が領主の館に侵入し、30分後にはそれも降伏する。

もう町の治安は自暴自棄に崩れる寸前に耕平が侵入してきた。

固唾を呑む町民たちだった。



征圧したほうは、戦いにもならない。

征圧されたほうもトップが代わらない。

そのままの統治で征圧された気がしない。

治安だけが良くなっていく。

征圧されたときから、治安を管理するのは鍛えられた260人が中心だ。

たちまちのうちに治安は回復どころか遥かに高い水準に維持されていく。

最初は抵抗する者もいた。

だが戦いにならず、一方的に取り押さえられていく。

金持ちが借金の半額に抗議を起こしたときなど見ものだった。

金をばらまいて集めたごろつきや用心棒が100人近くいた。

それがたったの10人で完全に取り締まられる。

雅雄の訓練はこういうときのためのものだ。

ただ領主にはこの情報が入らなかった。

いや入ったのだが信用しなかったのだ。



やがて次の町への進出だ。

耕平達は十人を残し、残り全軍が動く。

町の治安は旧メンバーで行われる話だ。

監督として、十人しか残さなかった。

領民からは引きとめの声がかかる。

旧支配者より新支配者の方が歓迎されていた。

それで満足する旧支配者たちは新しい体制に組み込まれていくはずだった。


旧支配者は満足できなかった。

耕平たちが出て行き、中央で戦っているとき。

いや進軍しているとき謀反を計画する。

残っているのは、たった十人の兵士だけだ。

その十人さえ殺してしまえば元通り。

背後でうごめく旧領主だった。




「お館様、本当によろしいのですか」

「だまれ、あんな化け物に仕えるぐらいなら死んだ方がましだ」

いきなり征圧されたので、あの場は従うしかなかった。

とんでもない力を目の前に見せられ降伏するしかなかった。

だが、冷静に考えると怒りが湧いてくる。


他の町や村を侵略するため、時間を掛けてきた。

斥候ともいう者達を配置して準備をしてきた。

これから収穫ともいうべき時にいきなり現れて従えという。

そして、さんざんかき乱して去っていった。

残ったのは、たった十人のお目付けともいうものだ。

まだ兵力は全然使っていない。

そこに不満のすべてがあった。

『兵さえ使えれば負けなかった!』という思いだ。

戦争は野戦こそ、その真価を発揮する!

数こそ力だ!

そんな思いがあった。


そして5人が交代で哨戒に当たる深夜。

兵舎には残るのは、五人しかいない。

こっそり集めた500人。

全兵力の3分の1しか呼応しなかった。

しかし、十人が相手なら十分だと思ったのだ。


まずは五人を血祭りにする。

そのあと町中へ進出して治安を取り戻すのだ。

『そうなれば逆らうものはいないはず』だと考えた。

なぜ残りが従わなかったのかは考えていない。

そこに敗因が潜むとは考えていなかった。



目の前にある兵舎、取り囲む兵たち。

突撃すれば一瞬でけりがつくと思っている。

後は合図を送ればいいだけだ。

そして、合図を出した。

一斉に突撃する兵達。


先ほどまで静かな夜は一気ににぎやかになる。

襲われた五人は全員休んではいない。

雅雄からの指示は『絶対に油断するな』だった。

そのため不寝番を必ず一人残していた。

その見張りは最初の兵が小屋に取り付いたとき気付いた。

そして、仲間を起こす。

起こされたものはすぐに気配に気づく。

対策を練る五人。

どれぐらいの謀反かわからないので様子を見る。


雅雄からの指示では『こちらから動くな』ということだ。

必ず『相手が動いてから動く』というのは鉄則だった。

それが、『治安を預かる者の重要なことだ』と念を押されていた。

雅雄としては初撃でやられるほどやわな鍛え方はしていない。

そして、それは実証された。


突入した兵士は部屋に入ったところで気絶させられる。

後ろのものはいきなり入り口をふさがれた。

なだれ込むように部屋の中へいくつもりが、蓋をされてしまう。

そして、時間的にはわずかだがその間に五人は窓から逃げ出した。


窓の外にも兵は配置してあった。

しかし、逃げ出したものを殺すためのものだ。

まさか、合図の前に飛び出してくると思っていない。

完全に油断していた。


突入した時には三人がすでに窓の外だ。

合図と同時に反撃を開始する。

窓の外はあっという間に制圧だ。

真っ暗の中、入り口の兵を倒した兵は窓の外へ飛び出した。

その頃には窓の外は完全に制圧していた。

五人は一塊で行動をする。

そして、館の出口に向かう。


雅雄から徹底的に教えられたことだった。

一人ではいくら強くても限界がある。

そのことを身を持って教えられていた。

本人は自分は例外だと言ってたのだが・・・

説得力の無い教えだ。

実は単独では、そこそこの力しか出せない。

それでも並みの兵十人並なのだが・・・

五人そろえば、仲間達しか抑えられない無敵モードになる。

一般兵力の1万や2万など問題ではなかった。

それ以上ならどうか?

そこからは体力的な問題だ。

ただ短時間とはいえ、その五人の追及を逃れられる将軍は存在するのか?

答えは否だ。

それが五人そろった時の強さだった。


窓から逃げ出した五人。

そこには最悪の時、止めを刺そうとする一団が待っていた。

普通なら100人が待ち構えていれば五人が相手なら十分だ。

ここの領主が見誤ったのは強いのが雅雄一人と思っていたことだ。

町の治安鎮圧の情報をこまめに仕入れていれば無謀な謀反はしない。

そして、耕平たちがもっと侵略をしていれば防げたかもしれない内容だ。

他の町の様子などが聞かされていれば無謀な謀反などしなかっただろう。

最初の町だった不運もあった。


領主自身がすでに多くの部下から見放されていた。

いまついている手勢がすべてだ。

それらに脅されて動いてる兵士はいい迷惑だった。

だから五人への襲撃は本気ではなかった。

小屋に取り付く時でも態と音を立てていたぐらいだ。

そして、雅雄に鍛えられた兵達は、この時点でまだ実力を見せていなかった。

圧倒的兵力で相手を威圧するように教えられていたからだ。

五人は領主の脇を簡単にすり抜けていく。

ここで領主を殺すのは簡単だった。

しかし、この場は見逃した。

五人は外からの合図に従って動いていた。


そして、領主は気づかされた。

自分達が新しいシステムに不要だと言うことに。

そこに待っていたのは残りの兵達3分の2だった。

さらにその外側には5人の安否を気にする市民達だ。

兵達はたちまち降伏した。

そもそも、動きたくなかったのが本音だ。

逆らえば殺されるから従っていただけ。


市民達にとって、十人の人達は雅雄と同じ英雄だ。

公平無私に動いてくれる者だった。

そんなものを襲う元領主はすでに敵だ!

3分の2の兵達は声を掛けられた時点で領主を見限った。

いや声を掛けられて従ったものも同じだ。

表立って動けば裏切り者として殺される。

そのために従っただけ。

もし裏切りがばれてあの耕平が戻ってきたら皆殺しだ。

それは取締りの実力を目の前で見せられたものなら思うことだった。

一時的に勝利してもその後の敗北が確実では意味が無い。

そのため、任務中といって逃げ出したものもいた。

そして、逃げ出したあと、残りの五人に注進に及んだ。


そして、囲んだと思った領主。

実は囲まれていた。

囲んでいる側の五人は信頼していた。

内側の五人はこの程度の者に殺されないことを。

自分達が並みの兵士500人を相手にしても負けない自信がある。

罠の餌になってもらうため、あえて囮になってもらった。

そして、罠は完成した。

予定通り逃げ出した五人。

後は袋の中の物を取るようなものだ。

雅雄にとって耕平を王として認めないものは邪魔者でしかない。

そしてそれは部下に徹底して教えておいたことだ。


この町の唯一の癌だった元領主を粛清する理由が出来上がった。

そこに情状酌量の余地はない。

元領主は公開で殺された。

罪状は反逆罪だ。

ただ家族に対しては温情が適用される。

雅雄が仕掛けた罠と言うのは十人は知っていたからだ。

そこまで非情になれなかった。

というより、そそのかした一面がある。

雅雄が最後に言った事を思い出していた。

『出来るだけ力を見せるな』だ。

そのため、あまり積極的に治安に取り組んだわけではない。

それでも市民達には今までの管理官よりはるかに優しい人たちだった。


いばるだけいばって実力が無い管理官。

そして、その背後にいた旧領主。

耕平は、制圧後市民の負担を軽くするだけでなにもしなかった。

そして、治安を守ってくれた耕平の兵達。

誰も市民に対して乱暴をしないどころか旧領主たちから守ってくれた。

そんな管理者達を市民は歓迎した。

領主が管理するのではない!

市民が管理者を望んだ形に持っていく新体制だ。

調整役という立場の管理者だった。

現代ならぴったりの言葉がある。

『公務員』という名前だ。



その後、この町は十人のリーダーがとりしきる。

そして、軍事と行政を担当にまとめていく。

古い因習にそまったシステムは排除されていった。

そして、耕平を王として迎える新しいシステムが構築されていく。

連絡を聞いた耕平と雅雄。

こんなみえみえの罠にはまる元領主にあきれるばかりだった。



同様の侵略は次々とおこなわれていく。

雅雄たちがいなくなり戻って来れなくなったところで謀反を起こすものもいた。

しかし、その頃には町や村はもう新支配に移行している。

残していった五人なり十人で簡単に粛清されていった。

そして、残した部下が代わりに支配していく。

その頃には雅雄に鍛えられた兵は雅雄の心境がわかるようになっていた。

相手が弱すぎる!

戦いにもならないことに気付く。

耕平の支配は領民の方から、歓迎されるようになる。


白国を4分の1支配したところで小さな村は耕平の支配を望む。

その流れは耕平を一気に王へと押しあげていった。



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